ニューズレター
智慧財産局は出願段階で既に審査されている引例につき無効審判請求手続きにおいて異なる認定を行うことができるか否か?
智慧財産局(※台湾の知的財産権主務官庁。日本の特許庁に相当)(以下「智慧局」という)が専利許可後、何人も当該専利が新規性又は進歩性をそなえないと認めた場合、関連する先行技術を引例として添付し、智慧局に無効審判請求を提起して、当該専利の取消しを請求することができる。いくつかの国の規定を比べると、公衆が無効審査を請求する範囲に、専利主務官庁が審査段階で既に実質的に審査した争点を含むことができないが、台湾には類似する規定がない。したがって、もし無効審判請求人が提出した引例が、智慧局の専利許可前の審査段階で既に引用され且つ実質的に審査されたものである場合、智慧局は無効審判請求手続きにおいて、立場を変えて、同一の引例に基づいてその請求項は進歩性を具えないと認め、さらには専利権を取り消すことができるのか否か。この点につき、これまで紛争があった。しかし、最高行政裁判所103年(西暦2014年)判字第242号判決(判決日:2014年5月15日)及び知的財産裁判所102年(西暦2013年)行専訴字第50号判決(判決日:2013年10月9日)に係る無効審判請求事件を参照すると、現在、実務においては、「異なる認定を行うことができる」とする見解が採用されているようである。
本案の係争特許は工具に関する発明である。智慧局はかつて係争特許の出願段階で審査意見を出して、引例Aは係争特許の全請求項がいずれも進歩性を具えないことを証明することができると認め、特許出願者に応答又は補正するよう要求した。これに対して特許出願者は直ちに各請求項とAの差異について説明を提出し、並びに請求項に対して補正を行った。智慧局は補正後の特許出願の範囲を審査した後、「特許査定」を行った。その後、係争特許は第三者から無効審判請求が提起され、無効審判請求者も同じ引例Aを引用して、いくつかの請求項が進歩性を具えない、と主張した。智慧局は無効審判請求人の主張に同意し、引例Aは実質的に係争請求項の構造及び組成を完全に開示しており、係争特許が進歩性を具えないことを証明するに足るものであり、並びに、引例Aを係争特許の明細書に記載されている従来技術と結合した組合せ証拠も係争特許が進歩性を具えないことを証明することができると認め、これらを理由に無効審判請求成立の審決を下し、当該これらの請求項の特許権を取り消した。特許権者は知的財産裁判所に行政訴訟を提起し、「引例Aによって係争特許が進歩性を具えないことを証明できるか否かについて智慧局が特許出願段階及び無効審判請求手続きにおいて行った認定結果は相反するものであり、相反する理由を説明してもおらず、かかる挙は行政手続き法の信義則及び理由説明原則などに反する」と主張した。
知的財産裁判所は一審判決(102年(西暦2013年)行専訴字第50号行政判決)において、「係争特許の関連請求項の技術内容はいずれも既に実質的に引例Aに開示されており、形状的な差異は技術者が係争特許の明細書に記載されている従来技術に基づいて直接理解することができるため、智慧局の無効審判成立の審決を維持する」と判示した。この結論は、最高行政裁判所の二審判決(即ち103年(西暦2014年)判字第242号行政判決)においても支持された。
特に注目すべきは、知的財産裁判所及び最高行政裁判所がその判決のなかで、智慧局が「係争特許の明細書に記載されている従来技術」を引用して引例Aと組合せたことについて、いずれも肯定している点である。その理由は、最高行政裁判所101年(西暦2012年)度判字第774号判決中の「禁反言又は信義則は、専利有効性の訴訟においても適用される」とする主旨に基づいて、「特許権者が係争特許出願の過程で係争特許の明細書においてある特許又はある技術(引例B)を従来技術とする旨明記している以上、係争特許が特許要件を具えるか否かを判断する際、当然、特許権者の係争特許の明細書における主張により、当該引例Bの技術は従来技術であると認めることができ、再度立証する必要はない。これによって、特許権者の反覆を禁止し、並びに無効審判請求者又は一般公衆が特許権者の主張に対する信頼に基づいて構築する相対利益を保護する」としている。これらの判決結果は、裁判所が特許明細書に既に列記されている従来技術に引例は必要なく、その他の引例と組み合わせて無効審判証拠とすることができると考えていることを示しているようである。そうであるのならば、これらの見解は勢い、無効審判請求人の立証責任を実質的に軽減することになる。この点に鑑みれば、専利出願人は今後、明細書を作成する際、従来技術の開示方法及び開示技術について、より慎重に検討する必要がある。