ニューズレター
最高裁、進歩性の判断に「当業者及びその技術水準」の確立、「could-wouldアプローチ」の採用が必要と改めて判示
台湾最高裁判所は2024年11月20日に下した113年(西暦2024年)度台上字第459号判決において、進歩性の判断には「could-wouldアプローチ」を採用すべきと判示した。一方、進歩性の判断に際して、「その属する技術分野における通常の知識を有する者(当業者)及びその技術水準」を先に確立すべきかどうかについては、実務上依然として議論の余地がある。例えば、「当業者の技術水準を先に確立すべき」で、さもなければその判決には法令違法があると明確に指摘した判決があった(例えば、最高裁判所111年(西暦2022年)度台上字第186号判決、判決日:2022年7月20日)。一方、当業者は、実在しない仮想の人物であり、その技術力などは、外部の証拠資料によって具体化されるべきであるため、裁判所が特許の進歩性に関する論証過程において、ある程度、当業者の技術力を具体化している場合、その論証内容が経験則、論理則又は証拠法則に反しない限り、裁判所が当業者の知識水準について論じていないとは言いがたいと判断した判決もあった(例えば、最高行政裁判所113年(西暦2024年)度再字第11号判決、判決日:2024年9月12日)。
これに対し、最高裁判所は2025年5月7日に下した113年(西暦2024年)度台上字第453号民事判決において、進歩性の判断に「could-wouldアプローチ」を採用すべきと改めて強調したほか、「当業者及びその技術水準」も確立すべきと判示した。その判断の要点は以下のとおり。
1.「could-wouldアプローチ」を採用すべき
上記の最高裁判決は以下のように指摘している。「当業者が、従来技術に基づいて容易に完成できるかどうかを判断するには、さらに『試みる明白な意欲がある(当業者を促した可能性がある)』と『実行する明白な意欲がある(当業者を促したであろう)』(could-wouldアプローチ)を区別・評価する必要がある。言い換えると、進歩性の判断は、理論上うまく実施できるかどうかだけではなく、具体的事例において、当業者が研究開発を実施し成功させる動機付けとなるインセンティブ、具体的な事実根拠、又は奨励が存在するかどうかも重要なのである。当業者が、引用文献(引証)を参照した場合、なぜ各引用文献における一部の技術的特徴を抽出し、それらを組み合わせて実用新案の技術的特徴を実現することができるのかを、外部から観察するだけでは容易に判断できない。したがって、外部証拠から当業者の主観的な思考を判断するためには、引用文献と当該実用新案の技術分野との関連性、解決しようとする課題の共通性、機能又は作用の共通性、教示又は示唆などの要因を考慮すべきである。これらの要因が多いほど、組み合わせる動機付けが強くなり、進歩性を否定する根拠となる。」
2. 「当業者の出願時の技術水準」を先に確立すべき
上記の最高裁判決は以下のように指摘している。「係争実用新案の進歩性判断は、まず、当業者の係争実用新案登録出願当時における技術水準を確立し、出願時の通常知識に基づく理解を基準として、係争実用新案と従来技術との相違を確認した上で、当業者が係争実用新案の考案を容易に完成できるか否かを評価しなければならない。」
最高裁は上記判決において、原判決が従来技術の内容を確認するために実用新案権者が提出した専門家意見書を調べなかったこと、及び進歩性の判断にあたり、当業者の係争実用新案登録出願時における技術水準を確立しなかったことを指摘し、これらは法令違反に該当するとして、原判決を破棄し、知的財産及び商業裁判所(IPCC)に差し戻した。
最高裁は最近何度も「could-wouldアプローチ」を明らかにし、「当業者及びその技術水準」を先に確立すべきと強調している。事実審裁判所が今後、これをどのように解釈し適用していくかは、引き続き注目すべき点である。