ニューズレター
専利の進歩性判断における「商業的成功」の位置づけに関する最新見解
専利(特許、実用新案、意匠を含む)の進歩性の有無の判断において、単に従来技術を機械的に寄せ集めて対比するだけで、後知恵により進歩性を否定するという悪弊を完全に避けることは、しばしば困難である。専利審査基準では、発明の進歩性を肯定する補助的判断要素(secondary considerations)の1つとして「発明が商業的成功を収める」こと(以下「商業的成功」という)が挙げられているが、現在の裁判実務において、当事者が係争専利が商業的成功を収めたと主張し、これによって進歩性があることをを証明しようとする場合、裁判所はどのような場合に「商業的成功」の関連証拠を斟酌するのか、また、専利権者がどのように立証すべきかについては、まだ統一的見解が確立していない。
最高行政裁判所は、過去において、当事者がその専利が商業的成功を収めたと主張し、その進歩性の存在を裏付ける関連証拠資料を提出したとしても、係争専利が進歩性を有しないことが当該事件における従来技術の組み合わせから明らかである場合には、進歩性の補助的判断を必要としないとの見解を持っていた(2013年4月18日付102年(西暦2013年)判字第205号判決趣旨参照)。同裁判所は後に、2018年11月29日付107年(西暦2018年)判字第707号判決において、進歩性の判断において「商業的成功」を斟酌できるとしても、専利出願人又は専利権者がこれについてより高い立証責任を負うべきであると考えており、具体的には、専利製品の販売量が同等製品を上回っていること、又は市場のシェアを独占している状態であること、又は競合他社の製品に取って代わったことの立証に加えて、専利製品の商業的成功が当該専利の技術的特徴に基づくものであるという事実についても立証責任を負うべきであると改めて述べている。
上記2つの最高行政裁判所判決の影響を受け、知的財産及び商業裁判所(以下「IPCC」という)は、2025年2月13日付113年(西暦2024年)度民専上字第16号事判決において同様の見解を採用した。この事件において、IPCCは、上記2つの最高行政裁判所判決を引用し、以下のように述べている。控訴人は、係争実用新案が商業的成功を収めたことを証明するために、係争実用新案に関する通常実施権許諾契約を提出したが、その製品の販売量が同等製品を上回っていること、又は市場のシェアを独占している状態であること、又は競合他社の製品に取って代わったことを証明する販売データを提出しておらず、その製品の商業的成功が主に係争実用新案の技術的特徴に基づくものであることを示す証拠もないため、係争実用新案に係る考案が商業的成功を収めたとは言い難い。また、この事件において被控訴人が引用した従来技術は、係争実用新案が新規性も進歩性も有さないことを証明するのに十分であるため、進歩性の補助的判断要素として「商業的成功」を斟酌する必要はない。
しかし、最近、最高裁判所及最高行政裁判所は、2つの連続した判決において、進歩性の判断に「商業的成功」という補助的判断要素を斟酌するかどうかについて、より寛容な姿勢を示している。まず、最高裁は、2024年11月20日付113年(西暦2024年)度台上字第459号民事判決において、当事者が補助証拠として提出した証拠資料は、進歩性の判断において説得力、客観性があると考えられる場合、特許出願時の状況や実態を可能な限り復元するために、当該証拠資料の取調べ・審理を行うべきであると判示した。その後、最高行政裁判所は、2025年1月15日付113年(西暦2024年)度上字第132号判決においても同様の見解を採用し、特許出願人が、特許出願に係る発明が商業的成功を収め、その発明が進歩性を有することを主張するための補助資料を提出した場合、それも斟酌すべきであるとした。この事件において、同裁判所はまた、特許出願人がその特許が商業的成功を収めたことを証明するために特許実施許諾契約(特許ライセンス契約)を援用する場合、審理の際に、特許出願に係る発明が進歩性を有するか否かを判断するために、被許諾者が自発的に実施許諾を取得したか否か、許諾対象が単一の特許か複数の特許か、許諾の期間と範囲、実施料の額、被許諾者が実施許諾を取得した動機、被許諾者が特許発明を実施した状況などを考慮すべきであると述べた。最終的に、同裁判所は、原審が職権で上告人が主張した有利な補助的判断要素に関する事実の取調べを行わなかったことを理由に、原判決に法規の不適用及び理由不備の違反があるとして、原判決を破棄した。
最高裁判所と最高行政裁判所の上記2つの最新見解は、原審たるIPCCが進歩性を審理する際に、「商業的成功」などの補助的判断要素に関する当事者の主張の取調べ・斟酌を行わなかったことを指摘しているほか、107年(西暦2018年)判字第707号判決のように、当事者に高い立証責任を課しておらず、具体的には、その特許製品が市場のシェアを独占している状態であること、競合他社の製品に取って代わったこと、又はその製品の商業的成功が主に当該特許の技術的特徴に基づくものであることを証明する証拠を当事者が提出すべきことについては触れていない。以上の見解から、裁判所は、「商業的成功」という補助的判断要素を進歩性の判断に採用する可能性を緩和する意向のようである。しかし、今後、具体的な事案において裁判所が同様の立場を採用するかどうか、また、当事者の立証責任の程度をどのように規定するのかが注目される。