ニューズレター
並行輸入品の広告宣伝活動: 商標法と公平交易法の二重適用
日本語版作成:朱百強/田代俊明
台湾においても、商標権侵害が認められない場合に、日本の不正競争防止法に該当する「公平交易法」の適用が問題となることがある。本稿では、並行輸入品の広告宣伝活動について、商標法違反を否定しつつも、公平交易法違反を認めた例を紹介する(知的財産商業裁判所111年(西暦2022年)度民商訴字第57号民事判決(判決日:2025年4月30日))。
一、はじめに
商標法第36条第2項は次のとおり規定している。
「登録商標を付した商品が、商標権者又はその同意を得た者により国内外市場で取引流通された場合、商標権者は当該商品について商標権を主張することができない。ただし、商品が市場に流通した後、商品の変質・毀損の発生、若しくは他人による無断加工・改造を防止するため、又はその他の正当な事由がある場合は、この限りでない。」
このように、国内外を問わず、一度同意を得て市場に出た商品に対して商標権を行使できない旨定められており、台湾商標法は国際消尽原則を採用していることが分かる。
一方で、公平交易法(日本の「不正競争防止法」及び「独占禁止法」に相当)第25条は次のとおり規定している。
「本法に別段の定めがある場合の他、事業者は、その他取引秩序に影響を及ぼすに足りる欺罔行為又は著しく公正さを欠く行為をしてはならない。」
本条については、所轄官庁から「公平交易委員会の公平交易法第25条の案件に対する処理原則」(中国語:「公平交易委員會對於公平交易法第二十五條案件之處理原則」)が公表されている。この処理原則では、「著しく公正さを欠く行為」の一例として、「他人の努力成果の搾取」が挙げられ、「他人の努力成果の搾取」の具体例として、「真正品を並行輸入し、積極的な行為を用いて、当該商品が代理店によって輸入・販売されたものであると誤認させる行為」が含まれるとされている。
本稿で紹介する知的財産・商業裁判所111年(西暦2022年)度民商訴字第57号民事判決は、並行輸入業者が実店舗の看板や広告に原告(商標権者)の登録商標を使用したことについて、各種要素を考慮の上で、権利消尽原則に基づき商標権侵害に当たらないが、公平交易法に違反すると判示した。
二、事案の概要
原告The Polo/Lauren Company, L.P.:アパレルブランド
被告捷鑫貿易有限公司(以下「被告捷鑫」という):並行輸入業者
被告維春商業開發股份有限公司(以下「被告維春」という):百貨店運営者
原告は、「POLO RALPH LAUREN」シリーズ商標(以下「本件商標」という)について、台湾と米国のいずれにおいても商標登録を取得した。被告捷鑫は百貨店にテナントを設け、原告ブランドの並行輸入品を展示・販売し、売り場の看板、壁面、DM、公式ウェブサイト、広告など各所に「POLO RALPH LAUREN」の文字を表示していた。原告は、商標権法違反及び公平交易法違反を主張して、被告捷鑫とその代表者、被告維春とその代表者に対して、損害賠償等を求めた。
三、知的財産商業裁判所の判断
(一) 商標法上の争点に対する判断の概要
(1)商標的使用に該当するか
被告捷鑫による「POLO RALPH LAUREN」の文字の使用は、売り場、ショーウインドウ及び公式ウェブサイトのトップページのかなりの部分を占める。そのフォントの色や拡大されたフォントは、消費者に明確ではっきりとした印象を与える。本件商標と完全に同一又は類似のものであるから、被告がそれを商品の出所識別標識として使用しており、商標使用行為に該当する。
(2)商標権を侵害するか
商標権者が同じ図案をもって、「自ら」又は「他人に許諾して」異なる国で商標登録した場合、属地主義の概念においては異なる商標権であるが、図案は同じであり、本質的に排他権の発生も同じ権利者に由来する。異なる国の商標権者が、互いに許諾関係又は法律関係を有する限り、登録を許諾された商標権者に対しても消尽の効果が生じる(最高裁判所108年(西暦2019年)度台上字第397号民事判決)。本件商標の国外及び我が国の商標権者はいずれも原告であり、被告捷鑫が販売する本件商標の衣料品は国外市場で真正品を原告から購入したものである。したがって、原告は我が国で本件商標の商標権を取得していても、商標権者の地位に基づき被告捷鑫に権利主張することはできない。
※原告は、著名商標の侵害についても主張した(第70条第1号「他人の著名な登録商標であることを知りながら、同一または類似の商標を使用し、その商標の識別力又は信用を損なうおそれを生じさせた場合」に該当すると主張)。しかし、裁判所は被告会社が販売した商品は海外市場で原告会社から購入したものであり、商品の識別力は損なわれず、また、消費者に否定的な印象を抱かせるような粗悪品ではなかったことを理由に、信用を損なうおそれという要件にも該当しないとして、同号の適用を否定した。
(二) 公平交易法上の争点に関する判断
(1)公平交易法第25条に違反するか
知的財産・商業裁判所は、原告と被告はいずれもアパレルの販売業者であり、公平交易法第4条(「本法において『競争』とは、二つ以上の事業者が、市場において有利な価格、数量、品質、サービス又はその他の条件をもって、取引の機会を獲得する行為をいう。」)に定める競争関係にあると認定した上で、以下のように判示し、公平交易法第25条違反を認めた(証拠の引用は省略)。
「原告は別表2の証拠を根拠に被告捷鑫が公平交易法第25条に違反したと主張している。
被告捷鑫は別表2の証拠について意見はないが、本件商標以外にも自社ブランド名が入っていると主張している。
別表2の売り場、ガラスショーウィンドウ及びウェブページのスクリーンショット写真によれば、被告捷鑫は本件商標と同一または類似の『POLO RALPH LAUREN』表示を販売商品の上部の表示板の中央に太字で表示している。被告捷鑫の英語名『JS'Maxx』も表示されているが、『POLO RALPH LAUREN』の左上に小さく、表示板の地色と近い色で表示されている。また、ガラスショーウィンドウには『True article parallel imports』と表示されているが、『POLO RALPH LAUREN』の下に小さく表示されており、本件商標のみが表示されている場合もある。
一方、原告が我が国で運営する百貨店の売り場、アウトレット店舗では、売り場、ガラスショーウィンドウ、店内売り場に本件商標が表示され、販売商品の上部の表示板にも本件商標が表示されている(原告提出の写真参照)。
被告捷鑫と原告の売り場の配置、ショーウィンドウのデザイン、商品陳列を比較すると、被告捷鑫の全体的な特徴は原告の百貨店売り場やアウトレット店舗と類似しており、全体的な外観印象に明確な差異はないと認められる。
また、原告所有の本件商標は著名商標であり、原告が衣料品等に使用し、世界各地に専門店を設け、我が国にも44店舗を有し、30年にわたる宣伝・販売実績があることが、原告提出の知的財産局の拒絶査定書により確認できる。原告は我が国市場に長年参加し、多大な労力・資金を投入して衣料品分野で著名な事業者のイメージを築いてきた。
原告の売り場の配置、ショーウィンドウデザイン、商品陳列における本件商標の使用方法と、被告捷鑫の別表に示された内容を比較すると、被告捷鑫の行為は、明らかに積極的な行為により原告またはその代理店が販売する商品と誤認させ、原告の努力の成果を搾取している。同じく本件商標の衣料品を販売する原告にとって、取引秩序の安定に影響を及ぼし、公平交易法第25条の著しく不公正な行為に該当すると認められる。」
このように売り場の配置、ショーウインドウのデザイン、商品配置などが原告の店舗と酷似していること、売り場に被告の英語表記が表示されていたとしてもフォントサイズは「POLO RALPH LAUREN」のそれよりも明らかに小さいものであったこと、原告の本件商標はアパレル分野で著名であり、台湾に44店舗を含む専門店の展開や、30年以上の宣伝活動を通じて高い知名度を有することなどを根拠に、明らかに積極的な行為により原告またはその代理店が販売する商品と誤認させ被告は原告の努力成果を搾取したので、公平交易法第25条に違反すると判断した。
(2)公平交易法違反の場合の損害賠償額の計算方法
公平交易法違反があった場合の損害賠償額については、公平交易法第31条第1項に故意を条件とする懲罰的損害賠償の規定があり、「裁判所は、前条の被害者の請求により、事業者の行為が故意の行為であった場合、侵害内容に応じて、損害額以上の賠償額を認めることができる。但し、既に証明された損害額の 3 倍を超えてはならない。」とされている。
また、侵害行為によって得た利益により損害額を算定することも認められており、同条第2項では、「侵害者が侵害行為によって利益を得ていた場合、被害者は専ら当該利益に基づいて損害額を算定するよう請求することができる。」とされている。
本件では、裁判所は、被告捷鑫が原告からの弁護士書簡を受け取った後も営業を継続していたことを根拠に、故意を認めた。そして、売上高は少なくとも96万元で、損害賠償額は業界の標準粗利益率25%を用いて算定すべきであるとし、さらに、懲罰的損害賠償として2倍とし、被告捷鑫とその代表者に対し連帯して原告に48万台湾元を賠償するよう命じた(96万元 × 25% × 2倍=48万元)。
このほか、被告捷鑫に対し、百貨店の売り場などの実店舗やオンラインショップ、あらゆる商業文書、広告、デジタルビデオ、電子メディア、ネットワークなどのメディアにおいて、本件商標と同一又は類似の内容を使用することを禁じた。
(3)百貨店の責任
被告維春(百貨店運営者)については、百貨店の売り場スペースを賃貸するだけで、被告捷鑫の売り場の設営を審査する権限はなく、また、契約には、被告捷鑫の商品販売、商品管理などがいかなる法律の規定にも違反しないこと、消費者紛争や法律に違反する商品管理があれば、被告捷鑫が賠償責任とすべての法的責任を負うことが明示されていた。このため、被告維春は善良な管理者の注意義務を果たし、商標法や公平交易法に違反していないと判断され、侵害の差止め、防止及び損害賠償の連帯支払を求める原告の請求は、いずれも理由がないとされた。
(日本語版は、中国語版をそのまま翻訳したものではなく、日本語版作成者が適宜補足等をしたバージョンとなります)