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特許請求の範囲は開示内容に見合うものか-「Rule of Dedication(Dedicationの法理)」に関する考察(1)


Amy Chi

前言
 
 特許明細書の開示は、特許請求の範囲の理解を助けるものである。現行専利法(専利:特許、実用新案、意匠を含む)第26条は、「(第1項)明細書は、その発明が属する技術分野における通常の知識を有する者がその内容を理解し、それに基づいて実施できるように、明確かつ十分に開示されなければならない。(第2項)特許請求の範囲は特許を受けようとする発明を特定しなければならない。前記特許請求の範囲には1以上の請求項を含むことができ、各請求項は、明確、簡潔な方式で記載し、かつ明細書によって裏付られるものでなければならない。」と規定している。同様に、米国特許法第112条(a35 U.S.C. 112a))は、特許明細書の開示は「記述要件(written description requirement)」を満たさなければならない、すなわち、前述の特許明細書の内容は、特許出願人が特許請求の範囲に特定された発明を所有している(in possession of)ことを公衆に伝えなければならず、言い換えれば、特許明細書に記載された内容は、出願人が出願時に確かに相対的な排他的権利範囲を有していると公衆が認識できるように、特許請求の範囲を裏付けるものでなければならず、また、「実施可能要件(enablement requirement)」を満たさなければならない、すなわち、前述の特許明細書の内容は、当該技術分野に精通した者が「それに基づいて特許請求の範囲に特定された発明を実施する」ことができる程度に達していなければならないとしている。立法上の理由は、特許権者が相対的な排他的権利範囲を得るために必要なトレードオフである。
 
 しかし、特許明細書の開示の程度が前述のしきい値を「超える」ことにより、しきい値を満たす形で明細書のみに開示され特許請求の範囲に含まれない内容がある場合、出願人(又はその後の特許権者)にとって何らかの不利が生じるのであろうか。本稿では、このような「特許請求の範囲が開示された内容に見合っていない」場合に、台湾及び米国における「Rule of DedicationDedication法理)」が適用される可能性について簡単に説明する。
 
Rule of Dedicationとその適用範囲
 
 Rule of Dedicationは、1881年に米国最高裁判所がMiller v.Brass Co.事件で議論したものである。この事件では、特許権者は、特許付与から15年後に、公告時の特許請求の範囲を「a lamp with a double dome and without a chimney(煙突のない二重ドームのランプ)」から「a lamp with a single dome and with a chimney(煙突のある単一ドームのランプ)」に訂正するために拡大再発行出願[1]Broadening Reissueを行い認められた。その訂正の理由は、「煙突のある単一ドームのランプ」はすでに特許明細書に開示されており、過誤により特許請求の範囲に含まれていなかったためである。上告審で米最高裁は、特許権者側の怠慢の問題に加え、特許権者が特定の構造のみをクレームし、明細書に明確に開示されている他の構造をクレームしていなかったことも認定した。これらのクレームされなかった構造は、法律上、公衆に捧げられたものとみなされるべきであるので、拡大再発行は無効であると判断した。
 
 1971年のIn re Gibbs事件において、裁判所は、同一出願人が異なる時期に出願し、異なる時期に特許庁に係属していた2つの別々の特許出願には、「Rule of Dedication」は適用されないとの判決を下した。特許庁は、「先願」で明確に開示されたがクレームされなかった内容を用いて、同じ出願人が出願したが同時に特許庁に係属していない「後願」の新規性欠如を理由として拒絶査定をし[2]、「後願」は、「先願」で明確に開示されたがクレームされなかった内容をクレームした。この場合、特許庁は、「先願」で出願人が明確に開示したがクレームしなかった発明の内容を、「Rule of Dedication」の精神に従い、出願人が発明を放棄した(abandon)に等しい公衆に捧げられたものとみなし、新規性がないと判断した。裁判所は、「後願」における出願人のクレームは、「先願」で明確に開示されたがクレームされなかった内容を公衆に捧げる意思がないことを明確に示しているとして、特許庁の判断を覆した。もちろん、「先願」が特許法上の適格性のある従来技術に該当し、拒絶理由の根拠として用いられるかどうか[3]は別の問題である。
 
 1996年のMaxwell v. J. Baker, Inc.の事件において、裁判所は、均等論の適用を制限するために「Rule of Dedication」を適用した。Maxwell氏は、アイレットのない靴(アイレットのある靴は、アイレットを通して靴紐や紐で結ぶことができる)を結びつけ、量販店・小売店でペアになった靴が紛失するのを防ぐ方法を創作した。Maxwell氏の特許明細書には、ペアになった靴のABC3つの異なる位置に、糸状固着エレメント(filamentary fastenerを接続手段として配置する3つの実施例が記載されていたのに対し、特許請求の範囲では、Aの位置に糸状固着エレメント配置することしかクレームされていなかった。被疑侵害者は、ABCの位置に糸状固着エレメントを配置するという態様を実施した。これに関して、地裁は、Aの位置に配置する態様は文言侵害を構成し、BCの位置に配置する態様は均等侵害を構成すると判断した。米国連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)は、Rule of Dedicationに基づき、特許権者はすでに公衆に捧げたため、BCの位置に配置する態様は均等侵害を構成しないとした。同裁判所は、出願段階では、特許出願人は、特許庁による審査を通過するためにより狭い範囲をクレームし、特許付与後に、均等論に基づいて、明細書に開示されているがクレームされていないより広い範囲を主張することはできない、さもなければ、これは、特許出願人が明細書に広い範囲の開示を行い、特許庁による審査を通過するためにより狭い範囲をクレームすることを奨励することに等しい。実際には、このような状況は、当時35 U.S.C. 112(2)に規定された「particularly point out and distinctly claim the subject matter which the applicant regards as his invention(出願人が自己の発明とみなす主題を特に指摘し、明確にクレームする)」に違反するはずである、と繰り返し述べた。
 
 1998年のYBM Magnex, Inc. v. U.S. Int'l Trade Comm'n事件(YBM事件)において、CAFCは、Maxwell事件の事実に基づき、YBM事件の判決において、Rule of Dedicationによる均等論適用の制限を「異なる実施態様の間」の状況にのみ限定し、過去の判例との矛盾を生じさせた。YBM事件では、係争特許は「6,00035,000 ppm」の酸素を含む永久磁石合金をクレームしていたが、被疑侵害者は「5,4506,000 ppm」の酸素を含む永久磁石合金を製造していた。特許権者は、「5,4506,000 ppm」の範囲はクレームされていないが係争特許の明細書に開示されているとして、均等侵害を主張した。CAFCは、Maxwell事件は、「明細書に開示されていたがクレームされていない場合には、均等論を適用できない」という新たなルールを作り出したものではないとし、Rule of Dedicationによる均等論制限の原則に対して制限を行った。
 
 2002年、Johnson & Johnston Associates Inc. v. R.E. Service Co., Inc.事件(Johnson事件)において、CAFCの大法廷は、Maxwell事件におけるRule of Dedicationの運用を改めて確立した。Johnson事件では、係争特許は、プリント回路基板の製造に用いられる部品についてクレームされているもので、銅箔の薄さによる取り扱いの難しさを改善するため、より剛性の高いアルミニウムを用いた基板を銅箔と積層し、プリント回路基板の製造を容易にしたものである。係争特許の明細書には、「現在のところアルミニウムが好ましい基板材料であるが、ステンレス鋼やニッケル合金なども使用できる」とも記載されていた。被疑侵害者は鉄(ステンレス鋼は鉄と炭素の合金)を基板材料として使用した。CAFCは、地裁の均等侵害の認定を覆し、(1)クレームされていない主題を捕捉する(capture)ために均等論を主張することは、クレームの公告(public notice)効果に抵触すること、(2)特許権者は、広い開示と狭いクレームによって、広いクレームに対する特許庁の審査を回避することはできないことであるので、Maxwell事件で確立された原則に基づき、裁判所は特許庁による未審査部分に排他権を拡張する意図には触れない、と繰り返し述べた。
 
 2002年以降、Johnson事件をきっかけとして、均等論の適用を制限するためにRule of Dedicationを採用するCAFC判決が相次いだ[4]。このことから、「Rule of Dedication」は、初期には、米国特許付与後の拡大再発行(Broadening Reissue)の有効性を判断するために適用されることがほとんどであり、最近では、均等論の適用の制限手段の1つとして用いられていることが分かる。台湾では、台湾経済部智慧財産局(台湾の知的財産権主務官庁。日本の特許庁に相当)2016年に公表した「特許権侵害判断要点」の第四章「均等論の制限事項」にも、「Rule of Dedication」が挙げられている。その意味は次のように説明されている。「Rule of Dedicationは、特許権者と公衆の利益のバランスに基づき、特許権の均等範囲を制限するものである。特許権者が係争特許出願時の明細書又は図面においてより多くの技術的手段を開示しているにもかかわらず、請求項にはより少ない技術的手段で出願し、侵害訴訟時に均等論により拡大された範囲をもって明細書又は図面に開示されたより多くの技術的手段をカバーしようとする場合、このような状況において均等論の適用が認められると、特許出願段階と侵害訴訟段階において特許権者が主張する特許権の範囲に矛盾が生じることとなり、また、特許権の範囲を特定する請求項の役割とも矛盾する」。知的財産裁判所の判決[5]もまた、均等論の適用を阻却するために「Rule of Dedication」を引用することが一般的である。
 
 台湾には、米国のような拡大再発行出願手続はない。現行の訂正に係る審査基準では、「Rule of Dedication」を直接引用していないが、訂正は公告時の特許請求の範囲を拡大又は変更してはならないと規定されている。同基準では、明細書又は図面の技術的特徴を、特許請求の範囲に盛り込むことを認めているが[6]、訂正は個別案件によって、「訂正前の発明の目的を達成すること」と「公告時の特許請求の範囲を実質的に拡大又は変更してはならないこと」との要件を同時に満たさなければならない。例えば、訂正に係る審査基準の4.1では、訂正を認めることができない状況の1つとして、「請求項の請求対象を追加すること」を例示しており、「明細書に開示されているが、公告時の特許請求の範囲に含まれていない技術的内容(実施態様や実施例を含む)を請求項に追加した場合は、特許請求の範囲の実質的拡大となること」を挙げている。また、訂正に係る審査基準の一部の例において、明細書に明確に記載された技術的特徴が特許請求の範囲に盛り込まれ、それが下位概念の技術的特徴であるか、又は更に特定された技術的特徴であり、それらの特徴の追加後においても、訂正前の発明の目的を達成できる場合、そのような訂正は、公告時の特許請求の範囲を実質的に拡大又は変更するものではないと考えられ、訂正が認められるべきである。
 

 次回は、特許出願人又は特許権者の立場から、台湾と米国で特許を出願する際に、「特許請求の範囲は開示内容に見合ったものでない」場合に、可能な対処方法について述べる。



[1] 1952年以前の米国特許法には、2年以内に拡大再発行出願を提出しなければならないという時期の制限はない。
[2] 1971年の35 U.S.C. 102(c)は、出願人(発明者)が発明を放棄する(abandon)場合、その発明は新規性がないと規定している。
[3] 例えば、先願の公開日が後願の有効出願日より早いなど、新規性を喪失する規定。
[4] PSC Computer Products, Inc. v. Fox Conn International, Inc. (2004)、Pfizer, Inc. v. Teva Pharmaceuticals USA, Inc. (2005)
[5] 110年(西暦2021年)度民専訴字第66号、108年(西暦2019年)度民専上字第38号。
[6] 現行の審査基準2-3-32を参照。

 

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