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進歩性判断における「商業的成功」の重要性を認めた判決 - 最高裁111年(西暦2022年)度台上字第186号判決


Julie Wu

専利(特許、実用新案、意匠を含む)の進歩性をできるだけ客観的に審査し、後知恵による判断を防ぐために、専利審査基準では、従来から進歩性を肯定する補助的判断要素(secondary considerations)として「発明が商業的成功を収める」こと(以下「商業的成功」という)が挙げられてきた。出願人が査定前に、特許出願に係る発明が商業的成功を収め、かつそれが当該発明の技術的特徴から直接導かれたものであることを主張するために証拠書類を提供した場合、審査官はそれも併せて斟酌すべきである。
 
しかし、「商業的成功」が裁判実務上適用されるか否かの基準はまだ決まっていないようである。最高行政裁判所、知的財産及び商業裁判所(以下、「IPCC」という)の判決を見てみると、同じ裁判所でも、「商業的成功」を考慮するか否かについては、見解が分かれていることが分かる。1見解は、従来技術が専利の進歩性欠如を証明するのに十分であれば、「商業的成功」という要素はもはや考慮されないというもので、2見解は、専利権者が「商業的成功」を主張、立証すれば、裁判所は「商業的成功」を考慮すべきというものである。
 
(一) 1見解について、最高行政裁判所109年(西暦2020年)度上字第575号判決において以下のように述べている。「商業的成功」は唯一の要素ではなく、進歩性の補助的判断要素にすぎず、かつ、実用新案に係る製品が商業的成功を収めるか否かは、販売手法、広告宣伝、市場の需給、社会経済情勢などの要素に左右される可能性がある。本件の従来文献の組合せは係争実用新案の進歩性欠如を証明するのに十分であるため、「商業的成功」という進歩性の補助的判断要素はもはや考慮する必要はない。IPCC104年(西暦2015年)度民専上字第29号判決も同じ見解を示している。
 
(二) 最高行政裁判所もかつて、2見解を示した108年(西暦2019年)度判字第100号判決を下した。この判決では、同裁判所は、「商業的成功」と特許発明との直接的な関連性を立証する責任は特許権者にあることを強調したが、最終的には、特許権者が事業の成長と特許の商業的利用との関連性を立証できていないとし、特許権者の「商業的成功」に関する主張を認めることはなかった。
 
また、IPCCが下した判決の中には、「商業的成功」の要素を考慮したものもある。例えば、107年(西暦2018年)度行専訴字第75号行政判決は、IPCCが「商業的成功」の要素を考慮し、係争実用新案の進歩性を肯定した事例である。この事例では、係争実用新案の技術は、保温フードカバーに関するもので、当該カバーの従来技術が折りたたみ式でなかったのに対し、係争実用新案は折りたたみ式であった。実用新案権者は、市場には係争実用新案に係る折りたたみ式保温カバーの模倣品しかなく、折りたたみ式でない保温カバーの模倣品はなかったことを立証したため、IPCCは、「これは、商業的成功は、まさに係争実用新案の折りたたみ式の考案の技術的特徴によって直接もたらされたものであり、販売手法や広告宣伝によるものではないことを証明するのに十分である。よって、係争実用新案は、確かに商業的に成功しており、進歩性を肯定する要素があると認めるべきである」とした。
 
今年8月、最高裁判所は111年(西暦2022年)度台上字第186号判決を下し、特許の進歩性を判断する際、下級裁判所は、特許権者が提出した商業的成功の証拠や主張を考慮する必要があり、さもなければ、その判決は違法となるとの見解を示した。詳細は以下のとおりである。「特許発明の進歩性を判断する際には、主観的かつ恣意的な判断による誤り(後知恵など)を避けるため、以下の5つの要素を総合的に考慮することができる。発明が長年存在してきた課題を解決した場合、発明が従来技術の製品の代替品として商業的成功を収めた場合、実施許諾の成立や競合他社の黙諾があった場合、侵害者による模倣や賞賛があった場合、同時期に類似又は同一の発明がない場合などである。上告人は、係争特許は、20年以上前に、英国、米国、中国、日本など多くの国で登録されており、また、台湾の音声IC業界において、係争特許の技術内容を検討した上で実施許諾に関与した業者は、などの上場企業を含め、係争特許技術を搭載したIC数十億個も輸出していることから、係争特許は、長年存在してきた課題を解決し、商業的成功を収めたという主張を認めるに足りることを繰り返し述べている。これらの主張に対し、上告人は、係争特許の諸外国における対応特許の特許明細書又は特許公報、特許実施許諾契約書の1ページ目を証拠として提出した以上の説明と一般的な論理則・経験則に照らすと、全く根拠のないものではなく、係争特許の進歩性の判断に影響を与えるものと思われる。上告人側の主張を無視して下された原判決には、論理則・経験則違反のほか、理由の不備もある。」
 
結論として、最高裁の上記判決は、後知恵を避けるために、特許の進歩性を判断する際に5つの要素を総合的に考慮できることを明確に示しただけでなく、特許権者が主張する「商業的成功」の理由が特許の進歩性の判断に影響を与えるものであり、原審はこれを無視してはならず、さもなければ、その判決は違法となることも明確にしている。このことから、最高裁が特許の進歩性判断について「商業的成功」の重要性を認めたことが分かる。したがって、特許権者は、特許出願や無効審判の過程においても、本判決を引用して、特許の商業的成功について積極的に主張立証できる。
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