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台湾の知的財産案件審理法の全面改正について



台湾の知的財産案件審理法の全面改正について

台湾における知的財産関連事件の裁判所による審理については、2008年に施行された知的財産審理法が重要な役割を果たしています。この法律は、民事事件、刑事事件、行政事件について、それぞれ知的財産事件に適用される特別規定を定めたものです。2023112日に、知的財産案件審理法の改正が立法院(国会)において成立しました。本改正は、知的財産案件審理法が施行されてから14年来、最大の法改正で、第39条までであった条文が第77条までになり多数の条文が追加されるなど全面的な改正となっています。施行は20238月頃と予想されます。

 

改正内容は多岐に渡りますが、今回は、改正のポイントをご紹介します。

 

一、   知的財産案件の管轄についての変更

現在、知的財産・商業裁判所は、以下のとおり知的財産関連事件に関して管轄を有しています。

 

第一審

第二審

最終審

刑事事件

地方裁判所

知的財産・商業裁判所

最高裁判所

民事事件

知的財産・商業裁判所

知的財産・商業裁判所

最高裁判所

行政事件

知的財産・商業裁判所

――

最高行政裁判所

行政訴訟は二審制

 

本改正では、以下のように改正されました。

(一)    知的財産民事事件第一審は、知的財産・商業裁判所が管轄権を有していますが、現行法では、専属管轄とする旨の規定はありません。本改正では、これを知的財産・商業裁判所の専属管轄とする旨の規定が追加されました(第9条)。

(二)    知的財産刑事事件第一審は、地方裁判所が管轄権を有しています。本改正では、以下の罪については、知的財産・商業裁判所の管轄とする旨規定されました(第54条)。

・一般営業秘密侵害罪:

知的財産・商業裁判所第一審知的財産法廷の管轄

・国家核心的重要技術営業秘密侵害罪

知的財産・商業裁判所第二審知的財産法廷の管轄

 

二、   営業秘密の保護の強化

知的財産案件審理法においては、秘密保持命令、閲覧制限などによって秘密の保護を図っています。本改正では、この秘密保持のための制度を強化するための改正がなされました。

(一)    秘密保持命令の申立人の範囲が拡大されました。特定の状況において、秘密所持者ではない当事者も、裁判所に対して、秘密保持命令を受けていない者に対する秘密保持命令の発令を求める申立てをすることができる旨規定されました(第36条)。

(二)    秘密保持命令違反に対する刑事罰の法定刑が引き上げられました。また新たに領域外における秘密保持命令違反罪が規定されました(第72条)。

(三)    民事事件及び刑事事件が営業秘密に及ぶ場合の訴訟資料の閲覧の禁止、制限について、その詳細が新たに規定されました(第32条等)。また、営業秘密に関わる刑事事件及び付帯民事訴訟の当事者又は利害関係人は、第一回審判期日前までに、裁判所に対して、営業秘密に関わる証拠ファイルについて非特定化したコード番号又は別称を定めることを求める申立てができる旨規定されました(第56条)。

 

三、   弁護士による強制代理制度の新設

特定の知的財産民事事件、例えば、専利(特許、意匠、実用新案)権、コンピュータ・プログラムの著作権、営業秘密に関わる民事訴訟事件について、弁護士による代理を義務付ける規定が追加されました(10)

 

四、   専門家による審理参加の拡大

(一)    専利権侵害事件、コンピュータ・プログラム著作権、営業秘密の侵害事件事件が提訴された場合、当事者は裁判所に対して、中立かつ専門知識を備えた専門家を「査証人」として選任し、証拠収集手続を執行することを求める申し立てをすることができる旨の規定が追加され、またその他「査証人」に関する各種規定が追加されました(第19条~第27条)。

(二)    商業事件審理法を準用する形で、専門家証人制度が新設されました(第28条)。

 

五、   司法IT化の推進

IT設備を通じて訴訟手続に参加できる者の範囲が広がりました(第5条第1項)。また、送達を受ける者の同意を経て、判決書正本を電子文書で送達できる旨規定されました(第53条)。

 

六、   被害者の訴訟参加制度の新設

知的財産刑事事件に、刑事訴訟法の被害者の訴訟参加に関する規定を準用する旨規定されました(第66条第3項)。

 

七、   知的財産案件集中審理の強化

裁判所が弁護士強制代理制度が適用される特定事件を審理する場合、又はその他事案が複雑な場合もしくは必要な場合、裁判所は当事者と協議の上審理計画を定めなければならないと規定されました(第18条)。

 

八、   立証の円滑化、審理機能の促進

(一)    現行法では、裁判所による技術審査官の選任についての規定があり、実際に活用されています。本改正では、技術審査官が作成した報告書について、裁判所は、必要であると認める場合、その全部又は一部の内容を(当事者に)公開することができる旨規定されました。また、裁判所が技術審査官の提供により知った特殊な専門知識を裁判の基礎とする場合、当事者に弁論の機会を与えなければならないと規定されました(第6条)。

(二)    改正法では、営業秘密侵害事件に加え、専利権又はコンピュータ・プログラム著作権の侵害事件についても、当事者が一定の侵害事実を疎明した場合において、他方当事者がなおその主張を否認するときは、裁判所は他方当事者に対して具体的な反論をするよう命じなければならないと規定されました(第35条第1項)。これは、権利侵害行為の立証程度の引き下げを図るものです。

 

九、   紛争の一回的解決

機関ごとに異なる判断をしたことにより紛争が蒸し返されることを防止するために、本改正では、以下のような規定が新設されました。

    裁判所及び知的財産専門機関(知的財産局のこと)の間での情報交換制度(第42条等)

    専属的ライセンスにかかる訴訟の告知義務(第45条)

    再審事由の限定:民事訴訟法では、確定判決の基礎となった行政処分等に変更があった場合には、再審事由となりますが(民事訴訟法第496条第1項11号)、本改正ではこれに対する例外を設け、専利の有効性判断等について差異が生じた場合については、再審請求を制限する規定が設けられました。

 

十、   実務上の問題点の解決

(一)    専利権者が「更正の再抗弁」(専利権の無効事由の有無が争点となっている場合に、専利権の範囲の更正(訂正)によって無効事由を排除しようとすること)を主張した場合の処理方法が規定されました(第43条)。また、裁判所は当該更正の合法性について判断権限を有するとされました。

(二)    「附帯民事訴訟手続」(刑事事件に付帯する民事訴訟手続)等に関する規定が修正されました。

 

なお、知的財産案件審理法の改正案においては、「専利又は商標の複審及び紛争事件手続」(専利、商標案件に関する行政機関の処分に関する救済手続を、現行の行政訴訟手続から、民事訴訟手続へと変更するもの)に関する規定がありました。しかし、これの前提となっていた「専利法の一部改正案」及び「商標法の一部改正案」がまだ立法院(国会)に提出されていない状態であるため、今回の法改正ではこれらに関する改正は見送られることになりました。

 

当事務所では「専利権の権利行使、営業秘密保護及び紛争解決」、「著作権の権利行使、権利維持及び紛争解決」及び「商標権紛争解決」等のプラクティス・グループを設けております。また、弁護士の他、多数の弁理士・技術者が在籍し、出願から紛争解決まで幅広く扱っております。今回の知的財産案件審理法の改正又は知的財産権関係の取引、権利行使、紛争処理についてご質問等ございましたら、いつでも当事務所までご連絡ください。

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