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合理的実施料に基づく損害額の算定方法


簡秀如/Frank Lee

専利権者(専利:特許、実用新案、意匠を含む)の損害について、法律上の合理的な補償方法を設けて適度に権利者の立証責任を免除するため、20111221日に専利法第97条第1項が改正され、「当該特許の実施許諾により得られる実施料に相当する額を受けた損害とする。」という同項第3号が新設された。この改正により、特許権者は、特許権侵害に基づく損害賠償請求について、上記第3号に規定する方法により算定することができるようになった。その後、2013611日に上記第3号がさらに改正され、「当該特許の実施許諾により得られる合理的実施料を損害額算定の基礎とする。」とされた。合理的実施料に基づく損害額の算定については、2022629日に知的財産及び商業裁判所が下した110年度民専訴字第48号民事判決(以下「本判決」という)に以下のような見解が示されている。
 
一、本判決の事案とポイント
 
本件は、意匠に係る物品を「フレーム部材」とする台湾意匠登録第D208862号の意匠権(以下「係争意匠」という)を有する原告が、被告会社が製造、販売したフレーム部材が係争意匠を侵害すると主張して、訴外人との意匠権実施許諾契約を提出し、専利法第97条第1項第3号に基づき、係争意匠の実施許諾により得られる合理的実施料を基礎として損害額を算定することを求めた事案である。
 
知的財産及び商業裁判所は以下のように判示した。本件契約の内容からすると、原告は、意匠に係る物品を「フレーム部材」とする意匠登録出願第108307991号の意匠と係争意匠を訴外人に実施許諾し、実施許諾期間は5年とすること、訴外人は台湾域内でフレーム部材の商品を使用、販売できること、訴外人は原告に対し実施料として新台湾ドル(以下同じ)180万元を支払うことなどに同意していることから、原告は、確かに係争意匠とともに、2つのフレーム部材の意匠を他人に実施許諾しており、かつ、上記実施許諾期間、金額に基づいて算定すると、毎月の実施料は3万元(計算式:180万元÷5÷12ヶ月=3万元)であることが明らかである。また、原告が他人に実施許諾した上記2つの意匠は、いずれも名称がフレーム部材とい名称の意匠で、その価値は同等と考えられることから、係争意匠の月額実施料は15,000(計算式:3万元÷215,000)となる。よって、原告は、上記した許諾契約の実施料15,000元を損害賠償算定の基礎とし、被告に対し、受託鑑定事務所作成の侵害鑑定報告により係争フレーム部材がその係争意匠を侵害していると判断した20101224日から少なくとも1年あるとして、損害賠償金18万元(計算式:15,000×12ヶ月=18万元)の支払を請求する主張は、理由ありと認められる。
 
二、改正理由      
 
上記判決から分かるように、本判決は、意匠権者と訴外人との間の意匠権実施許諾契約に基づき、係争意匠の実施許諾により得られた実施料に相当する額を意匠権者が被った損害額としたものである。しかし、本判決の見解は、2013611付けの専利法第97条第1項第3号の改正理由には符合していないように思われる。これは、改正理由には、合理的実施料に基づいて算定された損害賠償額は、許諾関係にある実施料額よりも高くなるはずである旨が明記されているからである。改正理由は以下のとおりである。
 
(一)改正前の同条項第3号の損害賠償の算定方法は、「当該発明特許の実施許諾により得られる実施料に相当する額をその損害額とする」ものであるが、このような規定は、特許権侵害に対する合理的実施料に基づいて算定される損害賠償額は、事前に許諾を得る場合の実施料と同じであるため、許諾を事前に得ようとする侵害者の意向を阻害する可能性がある。
 
(二)ドイツの特許訴訟実務では、ライセンスアナロジーによる損害賠償の算定方法(die Methode der Lizenzanalogieを採用しているが、この方法で裁判所が算定した金額は、いずれも合理的実施料に基づいて算定された金額を上回っている。これは、一般的な許諾関係における被許諾者と比べて、侵害者は、許諾関係にある追加費用(例えば、会計監査義務)を負担する必要はなく、また、侵害訴訟における特許権者はなおも追加費用(例えば、訴訟費用や弁護士費用)を負担しなければならないためである。したがって、合理的実施料に基づいて算定される損害賠償額は、許諾関係にある実施料額を上回るはずである。
 
(三)また、現行ドイツ特許法第139条第2項の後段には、「損害賠償請求権は、許諾関係の合理的実施料を基礎として算定することができる(Grundlage)」とされている。上記の条文もまた損害賠償の合理的実施料は、許諾関係にある実施料額を上回るべきことを肯定している。
 
三、その他の関連判決
 
2013611日付けの専利法第97条第1項第3号の改正により、同号に基づき専利権者が被った損害を算定する際の裁判所の判断は、以下の2種類に大別されることとなった。
 
(一)許諾関係にある実施料に相当する額
 
1.裁判所は、係争専利の過去の実施許諾契約及び専利権者のウェブサイトで公表された実施料を考慮し、過去の実施料の減額率に照らして専利権者が請求できる合理的実施料を算定した(知的財産裁判所101年度民専上字第50号民事判決(判決日:2014227日))。
 
2.裁判所は、専利権者が訴外人と合意した係争専利の日額実施料と侵害品の実施日数に基づいて損害額を算定すべきとの主張は合理的であると判断した(知的財産裁判所106年度民専訴字第98号民事判決(判決日:2019622日))。
 
3.専利権者は、当初1製品あたり1万元の実施料で実施許諾していたが、最初に専利権を侵害し、その後専利権者からの警告を受け許諾に同意した訴外人に対し、1製品あたり2万元の実施料に値上げした。そのため、裁判所は、実施料2万元を損害額算定の基礎としたのである。(知的財産裁判所102年度民専上字第52号民事判決(判決日:2014410日))
 
(二)衡平の原則に従った合理的実施料の決定
 
専利権者は、台湾において係争専利を他人に実施許諾しておらず、実際に取得するであろう実施料額を提示できない場合でも、裁判所は、衡平の原則に従って、適切かつ合理的な実施料を決めることができる。そのとき、類似技術の実施料、侵害事実に基づいて推定できる許諾契約の特性及び範囲、許諾者と被許諾者の市場地位、専利技術の侵害品の収益性や技術への貢献度、侵害品の市場シェアなどを考慮することができる。(最高裁判所104年度台上字第1343号民事判決(判決日:2015717日))
 
上記判決の認定判断に照らすと、裁判所は、専利を実施許諾して実際に得られた実施料額を参考にし、許諾関係にある実施料に相当する額を合理的実施料として、これを専利権者が被った損害と認定する傾向にあることが分かる。専利が実施許諾されておらず、参考にできる実施料額がない場合のみ、裁判所は、衡平の原則に従って、関連要素を斟酌して合理的実施料を決めることになる。しかしながら、許諾関係にある実施料に相当する額を、そのまま専利権者が被った損害とした場合、上記改正理由との間に齟齬はないのであろうか。衡平の原則に従って合理的実施料を決める場合、それは主観的で不確実性に満ちたものではないのか。これらの問題は、裁判実務においてさらに明らかにされる必要がある。
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