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台湾初のパテントリンケージ訴訟判決(MSD v. 中化製薬)-パテントリンケージ運用への啓発及び影響



台湾の産官学界は、米国のパテントリンケージ(patent linkage;特許連携)制度を導入すべきかについて20年間にわたって議論を重ねてきた。2019820日に薬事法の「パテントリンケージ」に関する条文が施行されてから、台湾食品医薬品管理署(以下「TFDA」という)(日本の厚生労働省医薬食品局に相当)の公開資料によると、ジェネリック医薬品(後発医薬品)メーカーが新薬(先発医薬品)の医薬品承認許可証に対してパラグラフIV申告(以下「P4申告」という)をし、新薬に関連する特許が無効か、又は新薬に関連する特許を侵害していないと主張した件数は約20件になった。これは全く新しい制度と法律であるため、業界はずっと、パテントリンケージ訴訟を引き起こす可能性のあるこれらのP4申告について、裁判所はいつ最初の判決を下すか、パテントリンケージについてどのような見解を示すかについて高度に関心を払ってきた。 

2021114日に、司法院の公式サイトでは、台湾初のパテントリンケージ訴訟判決である知的財産裁判所109年(西暦2020年)民専訴字第46号判決が公表された。本事件では、原告はメルク・シャープ・アンド・ドーム(Merck Sharp & Dohme Corp.、以下「MSD」という)、被告は中国化学製薬株式会社(China Chemical & Pharmaceutical Co., Ltd.、以下「中化製薬」という)、本事件に係る新薬はMSDEzetrol Tablets 10mg(中国語「怡妥錠」)である。裁判所は、中化製薬が製造しようとするジェネリック医薬品であるEzetity Tablets 10 mg(中国語「怡優脂錠」)は、MSDの台湾特許第I337083号の請求項123及び4に係る発明と均等なものであり、その特許請求の範囲に入るものであるとして、中化製薬は係争ジェネリック医薬品を製造することはできないとの判決を下した。また、本判決に基づき、MSDは中化製薬の製造行為に対して仮執行を申し立てる権利も有する。 

司法院の公式サイトで公開された判決書によると、この産業界が待ち望んでいるパテントリンケージ訴訟事件には、以下の注目すべきポイントがある。 

まず、本事件パテントリンケージ訴訟は2020224日に提起され、同年522日に担当裁判官が決められ、同年1231日に口頭弁論が終結した。起訴日から第一審の審理手続終結日までの期間は僅か約10ヶ月で、12ヶ月のジェネリック医薬品の薬品承認許可証の発行停止期間よりも短い。本事件では、裁判所は効率的な審理を行い、パテントリンケージ制度における裁判所による権利侵害紛争の早期解決の役割を十分に発揮したと思われる。 

第二に、薬事法の「パテントリンケージ」に関する条文は既に施行されているが、専利法(日本の特許法、実用新案法、意匠法に相当)の第60条の1の条文改正案(特許権者はジェネリック医薬品メーカーからP4申告を受け取った後にパテントリンケージ訴訟を提起することができると規定され、米国特許法第271条(e)の規定に類似している)は、まだ立法院(日本の国会に相当)で可決されていない。したがって、パテントリンケージ訴訟に関しては、ずっと法律上の論争が存在しており、つまり、専利法第60条の1の改正条文の欠如として、一体特許権者は専利法第96条に従ってパテントリンケージ訴訟を提起できるのかという論争が続いている。本判決では、専利法第60条の1の条文改正案には、パテントリンケージ訴訟の提起という立法趣旨が明確にされているが、特許権者が現行の専利法第96条に従ってパテントリンケージ訴訟を提起できないことを意味しない、と明確に指摘された。特許権者が専利法第96条に従ってパテントリンケージ訴訟を提起できることを否定すると、パテントリンケージ制度全体が機能しなくなり、新薬の医薬品承認許可証の所持者による特許情報の登録や、ジェネリック医薬品メーカーによるP4申告などのパテントリンケージ制度の前置措置はいずれもその意義を失ってしまうことになる。これは、パテントリンケージ制度の本旨に合致しないことが明らかであるため、裁判所は、特許権者が専利法第96条に従ってパテントリンケージ訴訟を提起できることに疑いの余地はない、と認めた。 

第三に、MSDがパテントリンケージ訴訟を提起した時、中化製薬はまだジェネリック医薬品の製造を開始しておらず、その唯一の行為はTFDAへジェネリック医薬品の医薬品承認許可証を申請したのみであることから、中化製薬は、そのTFDAへのジェネリック医薬品の医薬品承認許可証の申請行為が専利法第60条に規定されている免責行為のはずで、特許権の効力は及ばないため、特許権者はそのジェネリック医薬品の医薬品承認許可証の申請行為に対して権利侵害訴訟を提起してはならない、という抗弁を行った。しかし、裁判所は、医薬品承認許可証の申請行為は特許を実施していない行為、つまり、その申請行為自体は特許技術を用いて医薬品を製造、販売、輸入、使用することに関わるものではないことから、医薬品承認許可証の申請行為は特許の実施行為と認定されないものである以上、自ずと専利法第60条の規定によりその責任を免除する必要はない、と明らかに指摘した。裁判所は、基本的に専利法第60条の試験免責規定とパテントリンケージ訴訟とは関係ないため、ジェネリック医薬品メーカーはその規定に基づいて免責の抗弁を主張してはならない、というスタンスをとっている。 

最後に、裁判所MSDの請求を全ては認めなかった。その判決は、中化製薬によるジェネリック医薬品の製造禁止という一部の請求についてのみ認容し、同社による係争ジェネリック医薬品の販売、輸入、使用禁止という他の請求については棄却した。その判決理由は主に、パテントリンケージ訴訟は特許権侵害行為の防止に関するものである以上、リスクの大きさ及びリスクの予防策の必要性を考慮すべきであることから、ジェネリック医薬品メーカーにジェネリック医薬品の製造を禁止すれば十分であるということである。実際、製造行為を禁止することにより、ジェネリック医薬品メーカーによる権利侵害を完全に回避できるはずである。 

上記知的財産裁判所の109年(西暦2020年)度民専字第46号判決は、パテントリンケージ制度及びパテントリンケージ訴訟の運用に極めて重要な影響を及ぼすもので、裁判所は重要な一歩を踏み出したと言える。パテントリンケージ制度の立法意思自体がそもそも裁判所に紛争の早期解決といった重要な役割を付与するものである。裁判所には今後、制度の運用についてより多くの見解が示されるよう期待されている。 

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