ニューズレター
就労場所母性健康保護技術手引きの公表について
一、 本手引きの位置づけ
職業安全衛生法で母性健康保護措置に関連する条文は第30条と第31条です。
第30条第1項及び第2項では、妊娠中の女性が従事することができない危険・有害な作業、出産後1年未満の女性が従事することができない危険・有害な作業がそれぞれ列挙されていますが、同条3項は、これらのうち一部の業務について、第31条で規定された母性健康保護措置が実施され、かつ本人の同意があることを条件に業務に従事させることを認めています。(LTZ:引用箇所をご教示いただければ幸いです。)
第31条では、所轄官庁が指定する事業については、雇用者は、母性健康危害のおそれがある業務に関し、危害の評価・抑制及び級別管理措置を実施する義務を負う旨規定されています(職業安全衛生法第31条。なお、これらの措置を実施する必要のある業務の範囲については、後述の二をご参照下さい。)。そして、同条では、妊娠中の女性労働者、出産後1年未満の女性労働者について、医師の適性評価に基づく提案に基づき、業務内容の調整、変更等の健康保護措置を実施することが義務付けられています。母性健康危害のおそれのある作業の種類、危害の評価方法及び抑制、級別管理の方法、適正評価の原則、業務内容の調整変更、医師の資格及び評価報告書書式などについては、所轄官庁が定める旨規定されています。
この所轄官庁への委任に基づいて定められたのが「女性労働者母性健康保護実施方法」(中国語:女性勞工母性健康保護實施辦法)です。さらに、「女性労働者母性健康保護実施方法」第5条3項は、同条に定める母性健康保護について「所轄官庁が作成した技術手引きを参照して行わなければならない」と規定しています。この所管官庁が作成した手引きが、本手引きです。このように本手引きは、「女性労働者母性健康保護実施方法」で規定されている手引きですが、この手引きの内容は唯一の方法を示すものではなく、事業者は手引きで示された基本原則及び方法を参考に、その規模及び特性に適合した方法を選択することができる旨記載されています(本手引き 壱)。
二、適用対象
本手引きの対象は、職業安全衛生法第30条、第31条及び女性労働者母性健康保護実施方法により「母性健康保護を実施すべき者」です(本手引き 弐-一)。具体的には、以下のいずれかに該当する作業が対象となります(本手引き附録二「よくある質問」参照)
・労働者数が300人以上で、かつ妊娠中または出産後1年以内の女性労働者がいる場合において、胎児の発育、妊娠または哺乳期間の母体もしくは嬰児の健康に影響を与える可能性のある以下の作業に従事させるとき
1 国家標準CNMS15030分類において、生殖毒性物質第1級、生殖細胞に突然変異を生じさせる物質第1級、またはその他の哺乳機能に悪影響を及ぼす化学物質にさらされる作業。
2 健康への危害を容易に生じさせる作業。これには、作業姿勢、人力による重量物の移動、輪番、夜勤、単独作業、作業負担等の作業の形態によって健康に危害を与える場合が含まれます。
・鉛作業関係の事業において、女性労働者を、鉛やその化合物の散布場所における作業に従事させる場合
・妊娠中または出産後1年未満の女性労働者を、職業安全衛生法第30条1項または2項に列挙された業務に従事させる(またはそのような状態にさらす)場合。
このように特に300人以上の労働者がいる場合は、夜勤、輪番、単独作業などが含まれていることから、保護の対象は広範囲にわたる可能性があることに注意が必要です。
三、 母性健康保護措置の計画及び実施
本手引きでは、まず、事業の規模に応じた実施体制が説明されています。一定規模以上の会社については、職業安全衛生管理辦法に基づいて設置される職業安全衛生委員会が各部門と協力して母性健康保護を推進すべきであり、一方、一定の規模に満たない会社については雇用者または雇用者が指定した部門や人員が推進すべきとされています。また、雇用者は職場母性健康保護事項の総合計画を担当する部門を指定し、1名の上級管理職に監督管理させるべきこととされています。さらに一定の規模以上の事業者については、労働者健康保護規則に基づき配置される労働者健康服務医療看護従事者と総合企画をする部門とが協力して、母性健康保護を実施すべきとされています。雇用者は、母性健康保護を推進する人員に対して、必要なリソースを与え、また教育訓練を受けさせるべきとされています。
本手引きでは、以下のプロセスに従って母性健康保護措置が実施されることが想定されています。
① 危害の認識及び評価
上級管理層が職業安全衛生人員、労働者健康服務看護人員及び人事部を含むワーキンググループを組成して実施することが推奨されています。評価は、アンケート調査、現場調査、個別面談、シフト表、関連文書(安全資料表(SDS)など)様々な方法によって実施されることができます。具体的な評価事項については、本手引き附表1に列挙されています。さらに本手引きでは、育齢期の女性労働者、妊娠中の女性労働者、出産後1年未満の女性労働者のそれぞれについて、評価重点事項が記載されています。
② 評価結果に基づく分類
評価の結果、母性健康危害のおそれがある作業に従事している労働者については、女性労働者母性健康保護実施方法第9条及び第10条の原則(または本手引き附表3)に基づいた分類を実施します。作業場所環境リスク等級については、空気中の有害物質の濃度や血中の鉛濃度に応じて第1級から第3級に分けられます(第1級が最も軽微)。また労働者健康リスク等級については、医師による評価に基づいて、第1級(母子の健康が害されない場合)、第2級(害される可能性がある場合)、第3級(害されている場合)の3つのカテゴリーに分類されます。
③ 評価結果の告知
評価結果及び採用すべき安全健康管理措置についての提案は、書面または口頭で労働者に告知されます。
④ 級別管理措置
分類に従って、管理措置が実施されます。手引きでは、級ごとに実施すべき管理措置が記載されています。例えば健康者健康リスク等級が最も重い第3級となった場合には、医師による適正評価及び意見に基づき、仕事の条件の変更、勤務時間の変更、作業内容の変更といった母性健康保護措置が実施されます。
⑤ 実施効果の評価及び継続的な改善
危害評価、管理方法、面談指導、適正評価及び実施した措置を記録し、関連文書・記録を少なくとも3年間保存すべきとされています。内容については、参考附表6に記録すべき事項が記載されています。
また、本手引きでは改善されなかった場合にとるべき措置などが記載されています。
四、 その他
本手引きには、以下のような別紙等が付されています。
図1 母性健康保護措置推進フローチャート
附表1 母性健康保護就労場所環境及び作業危害に関する評価書
附表2 妊娠及び出産後1年未満の労働者の健康状態 自己評価書
附表3 母性健康保護危害リスク級分け参考表
附表4 妊娠中及び分娩後1年未満の労働者の健康及び作業の適正評価に関する提案書
附表5 母性健康保護面談及び作業適正配置に関する提案書
附表6 母性健康保護実施記録書
附録1 生殖毒性物質、生殖細胞に突然変異を生じさせる物質
附録2 よくある質問
以上、労働場所母性健康保護技術手引きの内容の一部を紹介しました。この手引き自体は法的拘束力を有するものではありませんが、職業安全衛生法、同施行細則や女性労働者母性健康保護実施方法の規定を踏まえて作成されたものであるため、これらの法令への対応を検討する際にも本手引きは有用であると考えられます。