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台湾知的財産裁判所の2008年7月1日始動について



  台湾おいて、200871日より発効する「智慧財産法院組織法」及び「智慧財産案件審理法」とともに、それに基づき200871日より新たに設置される知的財産裁判所の始動により、台湾の知的財産訴訟制度に大きな変革をもたらすことが期待されます。当所では、クライアントの皆様のご理解に資するため、今回の改正点及びその留意点について次のようにまとめました。更に詳しくは、司法院が作成した「智慧財産法院組織法」と「智慧財産案件審理法」の中国語版、英語版、日本語版、及びドイツ語版を添付いたしますので、ご参考としていただきたいと存じます。  

  台湾の知的財産権訴訟審理の質及び効果を健全なものとするため、立法院(台湾の国会)は、2007年、「智慧財産法院組織法」(「知的財産裁判所組織法」)及び「智慧財産案件審理法」(「知的財産案件審理法」)(以下、「新法」と略称)を相次いで可決し、新法は200871日より発効する運びとなっております。新法の規定により、台湾では200871日から「智慧財産法院」(「知的財産裁判所」)を新たに設置し、知的財産権訴訟案件の審理については、全て「智慧財産案件審理法」に照らしてこれを行わなければならなくなります。  

  新法の施行に合わせ、数年間の準備期間を経て、司法院は200871日に正式に知的財産裁判所を成立させます。知的財産裁判所には、当初、裁判官(2つの法廷に分ける)及び技術審査官が配置されます。司法院は既に裁判官の中から8名を選出し、200831日から台北高等行政裁判所と台湾高等裁判所に派遣して、それぞれ知的財産行政訴訟と民事・刑事訴訟について在職研修を行わせるとともに、200847日には、第2期裁判官育成訓練作業を実施しました。現在、知的財産裁判所に配置転換された8名の裁判官は、全員が過去において知的財産案件を処理した経験を有しており、また、技術審査官は知的財産局(台湾の知的財産主務官庁。日本の特許庁に相当)の経験豊富なシニア特許審査官から選出され配置されております(現在約9名)。以下に、知的財産訴訟新制度の要点についてご説明いたします。

一、知的財産裁判所の組織及び管轄

  台湾の現行訴訟制度における訴訟態様は、行政訴訟、刑事訴訟及び民事訴訟の3に大きく分類されます。台湾では、裁判官の養成・教育は法科を以て専門学問としており、審理の内容が知的財産の技術問題に及ぶときには、通常、専門家又は鑑定機関に依頼してその協力を仰ぎ、技術争点を整理し明確にする作業を行ってきました。かかる現行の法制に対し、今回新たに設置される知的財産裁判所は、以下のような特色を有しております。

1.  知的財産裁判所は、知的財産権に関連する民事、刑事及び行政訴訟の処理を主管するため新たに設立される裁判所である。

2.  知的財産裁判所には、技術審査官が配置され、当該技術審査官は、裁判官が技術に関わる争いを処理するのを直接にサポートすることができる。

3.  知的財産裁判所は、同時に民事、行政及び刑事の裁判権を有する。

二、新制度下の訴訟審理の主な変革

「智慧財産案件審理法」の主な変革には以下のものが含まれます。

1.  裁判所が知的財産権の有効性について自ら判断する

    現行の法制によれば、知的財産権の取得、無効紛争又はその他私権紛争(例:権利侵害紛争)は、上述の異なる審理手続き(即ち、行政訴訟、刑事訴訟及び民事訴訟)に同時に係属する可能性があります。たとえば、特許権侵害紛争の場合、権利侵害を申し立てられた被告は通常、知的財産局に対し当該特許権について無効審判請求手続きを提出し、民事裁判所はこれに基づいて訴訟中止の裁定を下します。特許権の有効性に係る最終的な決定には、36年の歳月がかかり、その後ようやく権利侵害問題が審理されるので、その間、権利人と相手方の権利に対する保護はいずれも定かではありませんでした。

     新法の規定によれば、知的財産裁判所又は普通裁判所が知的財産訴訟案件を審理する際には、知的財産の有効性に関する紛争につき自ら判断しなければならず、知的財産の有効性の決着がついていないことを理由に、権利侵害訴訟の審理を停止する旨の裁定を下すことはできなくなります。知的財産局が審理する特許、実用新案登録、意匠登録の無効審判請求又は商標登録の無効審判請求手続きに相対して、知的財産裁判所が有効性紛争につき下す判断は、訴訟当事者を制約する相対的な効力しか有さず、絶対的な対世効は具えません。新法の施行に合わせ、過去において、知的財産権有効性紛争のために裁判所によって訴訟手続き中止の裁定を下された訴訟事件は、200871日に全面的に審理が回復されることになります。

2.  知的財産主務官庁訴訟に参加することができる

       知的財産権紛争は、その他の訴訟と比べて技術争点に及ぶことが非常に多く、また科学技術のバックグラウンドを同時に併せもつ裁判官が非常に少ないため、前記訴訟の審理時には、専門知識や能力を具える技術専門家に多くの部分を頼らなければなりません。しかし、前記技術専門家又は鑑定機関の参与及び意見提供は、必ずしも裁判所の案件審理時の各種技術支援のニーズに全面的かつ十分に応えきれているとはいえず、これは、従来、知的財産権訴訟案件の審理における問題点の一つとされてきました。

       新法によって、有効性紛争につき判断する権限及び義務が裁判所に与えられたため、今後、知的財産有効性に係る争いは、二つの選択肢が可能となります。即ち、特許、実用新案、意匠又は商標の有効性について疑義を質す場合、知的財産局に対してのみ無効審判請求を提出するのか、或いは関連する訴訟において裁判所に対し知的財産権有効性に係る争いを提出するのかを選択することができ、また、当事者は同時に知的財産局及び裁判所に対し知的財産権有効性に係る争いを提出することもできるようになります。同一の知的財産権の有効性判断に対する知的財産局と裁判所の見解を効果的に整合するため、新法の規定では、裁判所が技術審査官を配置する以外に、訴訟に参加する方式を以て、権利侵害訴訟中の知的財産権有効性に係る争いについて意見を述べるよう知的財産局に命じることができ、これも以前にはなかった新たな訴訟手続きです。

3.  強制執行力を具えた証拠保全制度を設ける

     知的財産権侵害紛争の立証は、権利人がこれを行わなければなりませんが、現行の民事訴訟法により規定されている、裁判所に対する証拠保全の申立ては、その執行が法による強制力を具えていないため、実務においては、ときに権利侵害者が執行協力を拒絶するといった事態が生じ、その結果、証拠保全がその効果を達成できないことがありました。

     新法は、前述証拠保全の執行が強制力を具えないことをめぐる問題について解決方法を示しました。新法の規定により、200871日以降、証拠保全手続きの執行はようやく強制力を有するものとなり、証拠保全執行の相手方には執行を拒絶する権利がなくなります。

4.   秘密保持命令が可能となる  

     営業秘密について、現行の法制度は営業秘密保護法、民法及び刑法等を利用して、関連する保護を提供しています。知的財産権訴訟の進行中、裁判所は訴訟ファイルの閲覧を制限する旨の裁定、又は非公開で審理を行う旨の裁定を下し、当該営業秘密を保持する者の合法的な権益を保障することができます。しかし、前述の秘密保持措施は、訴訟当事者が関連証拠物等に接触すること及びこれらを考慮することができず、その結果、答弁を提出することができなくなるといった事態をまねく可能性があり、また、もう一方の当事者の合法的な訴訟進行を妨害するための悪意の手段として濫用される可能性もあります。

     知的財産訴訟の双方の当事者は、往往にして関連市場の競争者であり、それが訴訟手続中に提出又は開示した書類又は証拠物が、当該当事者又は第三者、及びその技術上又は商業上の秘密に関わるものである点に鑑み、新法では、具体的な営業秘密保護メカニズム秘密保持命令が導入されました。新法施行後、当事者又は如何なる第三者も、訴訟中又は訴えが提起される前に、法により、秘密保持命令を下すよう裁判所に申し立てることができ、いったん裁判所が秘密保持命令の申立てを許可すれば、裁判所は裁定を作成して、秘密保持の対象物及び拘束の裁定を受けて、秘密を保持すべき者を裁定中に明記し、故意に秘密保持命令裁定に違背して不法に秘密を漏洩した者は、全て刑事責任(3年以下の懲役)を負うこととなります。

5.  仮処分の法律要件を変革する

       現行の民事訴訟法の規定によれば、知的財産権の権利者は、重大な損害の発生を防止するため又は差し迫った危険を回避するため、初歩的な証拠を提出して裁判所に仮処分を申し立て、相手方がその権利侵害行為に基づいて特定の製品を製造又は販売することを禁止することができます。仮に権利者が適切な初歩的証拠を提出することができなくても、担保金を裁判所に提出すれば、これを初歩的証拠を提出できなかった代わりとし、先に仮処分の保護を取得することができます。

       新法の規定によれば、権利者が適切な初歩的証拠を提出しなければ、仮処分の保護を取得することはできず、担保金を提出しても初歩的証拠の提出に代えることができなくなります。裁判所が仮処分の裁定を許可するか否かについて検討する際には、権利侵害訴訟に勝訴する可能性、申立ての許可・却下が双方に対して補填不可能な損害を及ぼすか否か、及び公共利益に対する影響等の要素を考慮しなければならなくなるので、今後、仮処分申立ての敷居は、より高くなるものと思われます。

三、新制度下の審理補助メカニズム及び特色

上記の特色以外に、新制度の要点を以下に列記いたします。

1.  知的財産の民事、刑事及び行政訴訟に関する案件の範囲を明確に規定する。

2.  知的財産の民事、刑事及び行政訴訟の訴えの提起、上訴及び抗告につき、管轄裁判所を明確に規定する。

3.  知的財産案件の当事者及び訴訟関係者の住居所と裁判所との間に音声及び映像を相互に伝送する設備がある場合、裁判所は遠距離テレビ会議方式を以て、審理を行うことができる。

4.  裁判所が知的財産案件の審理に必要であると認めるとき、技術審査官に職務執行を命じることができ、また、技術審査官忌避の規定を設けることができる。

5.  知的財産民事訴訟審理の質を高めるため、民事訴訟法の簡易訴訟手続き、及び小額訴訟手続きに関する規定の適用を排除する旨を明確に規定する。

6.  裁判所が知的財産案件を審理する場合は、既知の専門知識について当事者に弁論の機会を与えなければならず、これを行ってはじめて裁判の基礎として採用することができる。

7.  知的財産民事及び行政訴訟審理中、裁判長又は受命裁判官は、当事者に争点を十分に説明するとともに、適時、心証を開示しなければならない。

8.  知的財産案件審理中、営業秘密に関わる事項は、非公開で裁判することができ、訴訟資料及び証拠ファイルの閲覧、抄録又は撮影を制限することができる。

9.  知的財産民事及び行政訴訟中、文書又は検証物を保有する当事者又は第三者が、当該証拠の提出を求める裁判所の命令に正当な理由なく従わない場合は、罰金に処すことができ、必要であると認める場合は、強制処分を行うことができる

10.裁判所は知的財産案件につき、申立てにより秘密保持命令を発することができ、違反者に対し刑事制裁を科すことができる旨明確に規定し、これによって訴訟の促進及び営業秘密の保護の双方に配慮する。

11.知的財産民事及び刑事訴訟において、裁判所は、知的財産権に取消又は廃止すべき理由があるか否かの争点につき、自ら認定しなければならず、関連法律中の訴訟手続き停止規定の適用を排除しなければならない。

12.知的財産民事訴訟審理において、裁判所は、知的財産権に取消又は廃止すべき理由があるか否かを判断するために必要があると認めるとき、裁定を以て知的財産主務官庁に訴訟に参加するよう命じることができ、並びに、その効果を明確に規定する。

13.知的財産民事及び行政訴訟の証拠保全手続きにおいて、相手方が正当な理由なく保全の実施を拒絶するとき、裁判所は強制力を以てこれを排除することができるが、必要な程度を超えてはならない。

14.当事者が知的財産民事及び行政訴訟事件について、暫定状態を定める仮処分を下すよう申し立てるとき、その要件について釈明しなければならず、その釈明に不足がある場合、裁判所はこれを却下しなければならない。また、裁判所が暫定状態を定める仮処分を命じた後、30日を過ぎても本案訴訟を提起しない場合、裁判所はその処分を取り消すことができる。

15.裁判所が知的財産権侵害刑事事件の附帯民事訴訟案件を審理する場合、第三審裁判所を除き、自ら裁判しなければならず、刑事事件と同時に裁判しなければならない旨を明確に規定する。但し、簡易手続きにおいて提起された附帯民事訴訟は、必要であると認める場合には、刑事訴訟裁判後60日内に、これを裁判することができる。

16.簡易手続きの附帯民事訴訟第二審裁判について、第三審裁判所に上訴又は抗告する場合は、民事訴訟法の簡易訴訟手続きの第二審裁判に関して、第三審裁判所に上訴又は抗告する旨の規定を準用する。

17.発明特許権、実用新案権、意匠権、又は商標登録の取消、廃止に関する行政訴訟において、当事者が口頭弁論終了前に、同一の取消又は廃止理由について提出した新たな証拠につき、知的財産裁判所は依然としてこれを斟酌しなければならない旨を明確に規定する。

18.本法施行前に既に各級裁判所に係属している知的財産案件については、その暫定的な処理に係る規定を明確に規定する。

新制度によって知的財産訴訟の質及び執行効果が向上することは疑いようもなく、権利者の権利行使に役立つ以外にも、台湾の知的財産訴訟制度をよりいっそう国際水準に近づけることにもなります。

  以上のとおりご説明いたしましたが、ご質問、お気づきの点、ご要望などございましたら、お気軽に林(chlin@leeandli.com)までお問い合わせください。

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