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実用新案権者が技術評価書を提示せずに警告した行為は不当な権利行使に該当し公平交易法の適用対象となるのか



現行の専利法(日本の特許法、実用新案法、意匠法に相当)113では、実用新案登録出願については形式審査(日本の方式審査に相当)のみで登録される制度が採用されているが、権利濫用を防ぐため、同法では、専利権者と第三者が当該登録実用新案が新規性や進歩性等の実体的要件を満たしているかどうかを確認、把握できるよう、登録実用新案に対して「実用新案技術評価書」(中国語「新型専利技術報告」、以下「技術評価書」と略称)制度が設けられた。「技術評価書」の役割については、20135月改正前の専利法(旧法)第116条では、「実用新案権者は、実用新案権の行使時に、実用新案技術評価書を提示して警告しなければならない」と規定されていたが、20135月改正後の同法(現行法)第116条では、「実用新案権者は、実用新案権の行使時に、実用新案技術評価書を提示しなければ警告することができない」という文言に改正された。新旧法の条文構造は異なっている。2013年改正の趣旨は、「権利濫用を防ぐために現行法は、実用新案権の行使時に、技術評価書を提示して警告しなければならないと規定している技術評価書の提示はその権利を主張するための要件の1つでなければならない技術評価書を提示せずに警告した場合、その実用新案権を主張することができない」と述べ、その立法目的は「権利濫用の防止」にあると改めて述べたほか、さらに「技術評価書の提示」を実用新案権を主張するための要件とした。これは、注意規定として位置付けられた旧法とは異なり、権利者による権利行使の適法性に大きな影響を及ぼす。単に専利法第116条に基づいて技術評価書を提示していないことは、必然的に「権利濫用」に該当するといった法的評価を与えるかどうかはともかく、実用新案権者が技術評価書を提示しなければ警告することができないとの現行規定に違反した場合、どのような法的効果が生じるかは、専利法には明文化されていない。 

これに対して、智慧財産局(台湾の知的財産権主務官庁。日本の特許庁に相当。以下「智慧局」という)によると、「技術評価書を提示せずに警告した行為について、専利法には関連規制はないが、公平交易法(日本の「不正競争防止法」、「独占禁止法」に相当。以下「公平法」という)の関連規制に従って対処することができる」とのことである(https://topic.tipo.gov.tw/patents-tw/cp-783-872381-a7836-101.html。ただし、公平法は取引秩序の維持を目的としており、その立法目的は上記の「権利濫用の防止」とはやはり異なる。よって、単に専利法第116条の規定どおりに技術評価書を提示しなかった場合は、「当然」公平法に違反すると直接認定するか、それとも、個別の事案ごとに判断すべきかについて疑義が生じるおそれがある。 

なお、智慧局が言及した「公平法の関連規制」について注意すべきなのは、公平交易委員会(日本の公正取引委員会に相当)取引相手への警告状の送付行為について、「事業者が著作権、商標権又は専利権の侵害者に警告状を送付した案件に対する公平交易委員会の処理原則」(中国語「公平交易委員會對於事業發侵害著作權、商標權或專利權警告函案件之處理原則」、以下「処理原則」という)を制定しており、この処理原則第3142によると、事業者は競合相手に警告状を送付するには、原則として一審の勝訴判決を取得するか、警告状に鑑定報告書を添付するか、又はその他の先行手続を実行することにより、その主張する侵害事実に対する確認義務を果たした上でその侵害事実を警告状を受け取った取引相手に適切に通知しなければならず、権利者が上記の関連規定を確実に実行すれば、その警告状の送付行為は「正当な権利行使」として認められ、公平法の適用除外となるということである。ただし、上述したとおり、専利法第116条においては、別途「技術評価書の提示」を実用新案権の主張の要件としているため、個別の事案において実用新案権者が技術評価書を提示せずに取引相手に警告状を送付した場合、たとえ処理原則第3点及び第4点を満たしていても、「正当な権利行使」と認められるかどうかは依然として疑問が残る。 

上記の法律問題に対し、最高裁判所が202185日付けで下した109年(西暦2020年)台上字第3133号民事判決(一審判決:知的財産裁判所106年(西暦2017年)度民公訴字第14号民事判決、裁判日付:201865日;二審判決:知的財産裁判所107年(西暦2018年)度民公上字第3号民事判決、裁判日付:20191017日)では以下のように具体的な見解を示した。 

本件原告は商社ABであり、主要販売チャンネルでリバーシブル傘(以下「係争製品」という)を販売しているが、被告Cは技術評価書を請求せずに、係争実用新案権をもって原告の協力事業者に電子メール又は弁護士による通知書を送付し、係争製品を販売しないよう警告した。これにより、係争製品の販売ができなくなった。原告ABは、Cが公平法等の規定に違反したとして、侵害の除去及び係争製品の販売禁止による損失をCに請求した。これに対して、Cは、これらの取引相手に警告状を送付する前に、既に係争製品の鑑定報告書を取得しているため、処理原則第34に規定する要件を満たして「正当な権利行使」に該当する旨の抗弁を提出した。 

本件裁判所は、Cが警告状を送付する際に鑑定報告書を同時に提示せず、また警告状を送付する前予め又は同時に侵害の疑いのある製造業者にも通知しなかったと認定し、Cが処理原則に違反したとして原告の請求を認めた。被告が控訴した後、控訴審裁判所は、Cが確かに警告状の送付前に既に鑑定報告書を取得し、かつ、原告Aも警告状の送付前に権利侵害紛争を知っていたため、Cによる警告状の送付行為は処理原則第3点の規定を満たして「正当な権利行使」に該当するとして、一審判決のCに不利な部分を破棄した。これを受けて原告ABは最高裁判所に上告し、同裁判所は控訴審判決を破棄するとともに、専利法第116条に従って技術評価書の提示が「権利の正当な行使」の前提であると判示した。その判決要旨は以下のとおりである。 

1.           専利法第116条は、「実用新案権者は、実用新案権の行使時に、実用新案技術評価書を提示しなければ警告することができない。」と規定している。この規定は、実用新案権者による権利の濫用を防ぐだけでなく、技術評価書の提示がその権利を主張するための要件であることも明らかにしている。よって、技術評価書を提示せずに警告した場合、正当な権利行使とは言い難い 

2.           公平法第45条の趣旨により、専利法第116条の規定に従って警告してからはじめて正当な権利行使に該当し、同法の適用対象とはならない。 

3.           処理原則第3点でいう鑑定報告書は、専利侵害の有無の鑑定で、専利が有効という前提で作成されたものであり、有効性の欠如を補うための技術評価書とは性質が明らかに異なっているため、専利侵害鑑定報告書を技術評価書の代わりとすることはできない。 

4.           処理原則第34点に定められた先行手続は、権利侵害を確認するための手続にすぎず、実用新案権者がその権利の有効性を証明するために提示すべき技術評価書の代わりとするには十分ではない。よって、当該原則の手続を実行しても、専利法第116条に規定されている警告状送付の要件の欠如を補うにはまだ十分ではない。 

5.           事業者が技術評価書を提示せずに、直ちに競合相手が実用新案権を侵害しているという警告を送付した行為が取引秩序に影響を与え、不公正な競争を引き起こすに足りる場合は、公平法が適用される。 

言い換えれば、最高裁判所は、実用新案権者が技術評価書を提示せずに警告した場合、たとえその警告が処理原理に規定されている先行手続を実行したとしても、権利濫用に該当し、公平法の違反になると考えているようである。この見解が裁判所の一般的な見解になるかどうかは、引き続き注視するに値する。



1 処理原則第3点の条文:

「事業者が次に掲げるいずれかの権利侵害確認手続を実行してから、警告状を送付した場合、その行為は著作権法、商標法又は専利法に基づく正当な権利行使に該当する。

(一)裁判所の一審判決で著作権、商標権又は専利権侵害が認定された場合。

(二)著作権審議及び調停委員会の調停で著作権侵害が認定された場合。

(三)専利権侵害の疑いのある対象物の鑑定を専門機関に依頼して、鑑定報告書を取得し、かつ警告書の送付前又は送付と同時に、侵害の疑いのある製造業者、輸入業者又は代理店に対して侵害の排除を請求するよう通知した場合

事業者が第1項第3号後段の侵害排除を通知しなかった場合においても、事前に権利救済手続をとった、又は合理的に可能な注意義務を尽くした、又は前項の通知が客観的に不可能である、又は通知を受けるべき者が既に権利侵害紛争の事情を知っていると認めるに足る具体的な証拠があるとき、侵害排除通知の手続を実行したものとみなす。」

2 処理原則第4点の条文:

「事業者が次に掲げるいずれかの権利侵害確認手続を実行し、かつ公平法第20条、第21条、第24条、第25条に規定する違法状況がなく、警告状を送付した場合、その行為は著作権法、商標法又は専利法に基づく正当な権利行使に該当する。

(一)警告状の送付前又は送付と同時に、侵害の疑いのある製造業者、輸入業者又は代理店に侵害の排除を請求るよるよう通知した場合。

(二)警告状において著作権、商標権又は専利権の明確な内容、範囲及び侵害された具体的な事実(例えば、係争権利がいつ、どこで、どのように製造、使用、販売又は輸入されたか等)を記入して、係争権利に侵害の疑いがある事実を受領者に十分知らせた場合。

事業者が第1項第3号後段の侵害排除を通知しなかった場合においても、事前に権利救済手続をとった、又は合理的に可能な注意義務を尽くした、又は前項の通知が客観的に不可能である、又は通知を受けるべき者が既に権利侵害紛争の事情を知っていると認めるに足る具体的な証拠があるとき、侵害排除通知の手続を実行したものとみなす。」

 

 

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