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電気自動車(EV)の発展趨勢とその特許出願動向から特許出願戦略とポートフォリオを探る


郭家佑/Ian Su/David Wang

概要

 各国の環境政策に応じて、電気自動車(Electric Vehicle以下「EV」という)の台数も増加しており、また、EV技術の発展により、自動車関連企業だけでなく、より多くの関連企業EV産業に参入でき、自動車産業の構造に変化をもたらすことなった。台湾、米国、中国での特許出願の動向によると、EV関連技術の特許は年々増加しており、その中で、車載用電池と充電技術関連の特許出願数が大きな割合を占めていることが分かる。現在のEVの発展趨勢と特許出願動向に応じて、各企業は、研究開発成果を効果的に保護し、また他の企業の特許権を侵害しないように、さまざまな研究開発段階でその対応する特許戦略を調整することをお勧めする。

一、各国における環境政策とEV保有台数の成長

 今日環境意識の高まりに伴い、排気ガス規制に対する要求も次第に厳しくなってきている。「パリ協定Paris Agreement1」に基づいて、多くの国が2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするとの目標を掲げた。例えば、ドイツとインドは2030までにガソリンディーゼルなど化石燃料を使用する自動車(以下「化石燃料車」というの新車販売を全面禁止することを表明した。イギリスは20201118日に提出した「グリーン産業革命」計画2で、化石燃料車の新車販売禁止期限を、当初の2040年から2030年に前倒しして、2035までにハイブリッド車(Hybrid Vehicle、以下「HV」という)の新車販売を禁止すると発表した。日本政府も202012から、化石燃料車の新車販売を2030年代半ばに禁止するための関連制度の整備と計画を推進し始めた3。ノルウェーとオランダは、早ければ2025年までに化石燃料車の新車販売を禁止する。他のEU諸国も各自動車メーカーに厳しい二酸化炭素排出量削減義務を課する規定を明文化している。以上のことから、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするとの目標を達成するための主要国の決意とグリーン政策を見ることができる。

 このような雰囲気と政策の下で、フォード(Fordやホンダ(Hondaなどの世界の主要自動車メーカー各社も、今後10年間で化石燃料車を段階的に廃止すると相次いで発表した。台湾の工業技術研究院(ITRI)は、20209月に50社以上企業と共同で「台湾EV充電産業技術推進連盟4」を設立し、EV産業の関連会社を統合し、標準化された充電インターフェースを構築し、互換性のある充電伝送及び通信規格で台湾のEV産業エコシステム(生態系)を構築し、ユーザーにより便利な充電環境を提供し、台湾のEVの普及率と関連産業の発展を促進することに取り組んでいる。

 地球温暖化防止という人類共通の認識の下で、今後の車両の発展はバッテリー式電気自動車(Battery Electric Vehicle、以下「BEV」という)やHVなどの性能向上に関する研究開発に向かって進んでおり、これは既に各自動車メーカーの共通の方向性であることが明らかになった。国際エネルギー機関(International Energy Agency, IEA)が発行した「Global EV Outlook 20205によると、世界で使用されているEV台数は、2014年から2019年にかけて毎年約60%増加し、2019年には約720万台に達した。中国はEV産業に対して積極的に奨励し、さらに消費者のニーズに応えるよう、政策や規制で各自動車メーカーにEVの開発を加速させ、2017年には米国を抜いて世界最大のEV市場となり、2019年には世界のEV市場の約47%を占めている。

二、EVの発展

 EVは早くも1834年に世界の歴史に登場したが、電池容量、充電速度、1充電当たりの航続距離などの技術的制約を受け、発展があまり進んでいなかったが、近年になってから技術の進歩によりEVの発展がより成熟し、急速に進んできいる。

 BEVHVの研究開発では、米自動車メーカー、テスラTeslaとトヨタ自動車それぞれこの2つの分野のリーダーであり、長期にわたり電池、モーター、動力分配装置又は電力制御ユニットの研究開発にさまざまな資源を投入している。ただし、BEVHVはどちらも、充電ステーションなどの必要なインフラストラクチャをより多く設置し、競争力のある技術の孤立を防ぎ、また政府がより有利な政策を策定するために、より多くの自動車メーカー参入させることが必要である。そのため、技術分野の最前線に立つトヨタは数多くの特許を持っているにもかかわらずHVの普及拡大のため、トヨタは20194月にその保有する23,740件のEV及び燃料電池関連技術の特許実施権を無償で提供した6一方、テスラは積極的に特許を出願していないが、2014年にも200件以上のEV関連技術の特許実施権を無償で提供したことある。以上のことから分かるように、トヨタとテスラは、独自の技術が業界標準とことを望むほか、特許無償開放を通じてより多くの自動車メーカーがこの分野の研究開発に参加し、EVの発展を促進することも望んでいる。

 近年、テスラのEV販売の急増により、各大手自動車メーカーも積極的にEV化戦略を展開するようになった。ドイツの高級車メーカー、ポルシェは、2025年までに販売台数全体の半分をHVもしくはBEVとするという目標を設定した7。同社2020年に発売した初の量産EV「タイカン(Taycan)」は、満充電状態で500Kmの航続距離を誇り、かつ急速充電が可能で、100kmの航続距離を5分で充電することができ、充電ステーションでの時間を大幅に節約できる。また、アウディ(Audi)、メルセデスベンツ(Mercedes-Benz)、BMWといった伝統的な自動車メーカーも量産EV製品を発売EVさらなる普及を促進する。

 上記の各国の政策や企業動向から、EV自動車業界が直面しなければならない革命であり、今から1030年後、化石燃料車やHV続々と市場から撤退していくことがうかがる。米市場調査会社、Allied Market ResearchAMRは、世界のEV産業の規模は2025年に5,672億米ドル(約62兆日本円)に達すると予測している8。自動車関連企業は言うまでもなく、他の関連企業も時代の変化に迅速に対応し、独自の技術でEV分野への参入可能性及びその利益の最大化を求めなければならない。通信やビデオ技術、伝送コンポーネント、電気機器、制御チップやシステム、電子制御関連技術などのEV関連技術の企業は、EV関連技術の応用に独自の技術と経験を取り入れれば競争優位を確立することでき、各大手自動車メーカーとの協力関係を築くことで、EVの波に乗新しいビジネスチャンスを創出することができる。

三、EVは自動車産業の構造を変える

 EVでは、従来の内燃機関に関連するエンジン、トランスミッションなどの動力系部品や、吸排気系部品が不要となる代わりに、電池やモーター関連の部品が必要部品となるため、必要な部品数を3割減らすことができる。そして、世界の100年以上の歴史を持つ自動車メーカーが長年にわたって開発してきたこれらの電力系部品の製造に用いられる高度な技術力を必要としないため、EV産業に参入するハードルが低くなり、電池やモーターを製造する企業にとってはEV分野に参入する可能性が大幅に高まっている。例えば、2003年に中国の電池メーカー大手BYD(比亜迪)によって設立された中国の自動車メーカーであるBYD Auto比亜迪自動車)は、数年以内に多数のEVモデルを開発・製造し、市場シェアを急速に拡大し、現在、BYD Auto は中国最大のEVメーカーになっている。もう一つ例は、テスラの創設者も以前は自動車メーカーに従事していなかったことである。アップルも時代の流れに乗り遅れず、同社初のEVアップルカー(Apple Car)」を発売する予定である。

 また、ダイソン(DYSON)を例にとると、同社はこれまでに蓄積したモーターや電池などの経験を活かして、充電回当たりで最大で約960kmもの長距離走行が可能となる自社開発の電気モーターを搭載したSUVタイプのEVを開発した。このEV開発プロジェクトは、ビジネスコストを考慮して201910月に中止されたが、EV開発過程で開発された全固体電池技術と次世代モーター技術は、重要なEV関連技術であり、これについて他のEVメーカーとの連携・協力により、将来的にもEV分野において重要な役割を果たすことができるだろう。このほか、アマゾン(Amazonも電気トラック会社のRivian出資して、カスタマイズされたバッテリー式電気トラックを共同で開発した。これは、Amazonのロジスティクスのラストワンマイルの配送に使用されるとともに、同社が提唱した気候誓約(ClimatePledgeの実現を図るものである

 パナソニックと同じくテスラのサプライチェーンにも参入した中国車載電池大手CATL寧德時代)は、電池の製造コストを削減し、EV航続距離を向上させるために、コバルトだけでなくニッケルも使用しない電池技術を積極的に開発してる。同社はまた、現在テスラ向けに開発している新しい電池は航続距離200kmもの寿命を実現できると発表した。現在、世界大手電池メーカーは主にCATLLG ChemPANASONICBYDであり、EV用電池の世界市場の約8割を占めている9

 台湾では、電力設備メーカー、華城電機(Fortune Electric)が近年、太陽光発電とエネルギー貯蔵を組み合わせたEV充電ステーション「EValue」を開発し、2016年からテスラ、ポルシェなど用の充電設備を次々と設置してきた。また、自動車部品大手、和大工業(HOTA)は数倍のコストを早期にかけてEV用ドライブシャフトのサプライチェーンを構築した。その規模化石燃料車のサプライチェーンよりもまだ小さいにもかかわらず、テスラのサプライヤーとなることに成功しEVトレンドに追いつくことができた。このほか、EV産業の台頭により、パワーモジュール、モーター、減速機、銅箔などの関連部品や材料産業の活性化も促進されている。

 これまで、大手自動車メーカーはその各種モデルに対して共通のモジュラープラットフォームを開発していたが、このプラットフォームのコンセプトはEVにも適用でき、新規参入者の研究開発費と生産コストの削減や製品の多様化に有利である。例えば、電池モジュールとホイールハブモーターモジュールシステムとを車両のシャーシに取り付けることで、プラットフォームをモジュール化することにより、さまざまな商用車に適用できるようになる

 このような背景のもと、鴻海(Foxconnと裕隆汽車(Yulon Motor)は2020年に「MIH EV向けオープンプラットフォーム(MIH Open Platform)」を共同で構築した。このプラットフォームにより、非伝統的な自動車企業が車両のシャーシや電池の開発に莫大な費用と長い時間を費やすことなく、EV生産のパイプラインにより簡単にアクセスすることができる。また、このプラットフォームの「モジュール化・フレキシブル化・カスタム化」の特性に基づいて、企業が新しいブランドモデルの外観と内装装備に専念し、必要に応じてドライブシステム、ホイールベース、その他のハードウェアアーキテクチャを調整することができる。これまで自動車の開発や製造に携わっていなかったエレクトロニクス企業でさえ、このプラットフォームを利用すればEVの開発や生産に参加する可能性がある。

四、EV関連特許出願の最新動向

 EV関連技術の特許は年々増加している。EV関連技術の主なIPC国際特許分類コードB60L1B60L3B60L7B60L9B60L15B60L50B60L53B60K6 / 20B60W20B60R16H01M及びH02J-7に対応するものをベースとした2015年以降に台湾で出願され、かつ公開された特許出願件数の統計データ(下図のの棒グラフを参照)をみると、年々増加傾向を示している。さらに分析すると、車載用電池関連のIPCコードH01MH02J-7に対応する出願件数が大半を占めている(下図の赤の棒グラフを参照)ことから、現在、主に車載用電池及び充電技術の研究開発に集中していることことが分かる。


出所:台湾特許情報検索システム、https://twpat.tipo.gov.tw/、検索日付20201117


 同様に、上記IPC国際特許分類コードに対応するものをベースとした2015年以降に中国で出願され、かつ公開された特許出願件数の統計データ(下図のの棒グラフを参照)からもEV関連技術の特許出願件数が年々増加傾向であることがうかがえ、そのうち、車載用電池関連のIPCコードH01MH02J-7に対応する出願件数も同じように非常に高い割合を占めている(下図の赤の棒グラフを参照)。

 

出所中国特許照会システム、http://cpquery.cnipa.gov.cn/ 、検索日付20201117


 米国の特許出願件数の統計データを分析したところ、ほぼ同じ傾向が見られた。


出所Patent Full-Text Databaseshttp://patft.uspto.gov/ 、検索日付20201117


 上記EV関連特許出願の動向から分かるように、EVに搭載される電池は、ユーザーに航続距離が長く充電時間が短いEVを提供するため、将来的には高安全性と高性能を兼ね備えた全固体電池が主流となり、今後、EV電力関連の特許が依然大きな割合を占めることが見込まれる。さらに、EVの動作や電池管理制御などの関連資料、クラウドへのデータのアップロードによるEV制御と電池管理の最適化に関する特許にも注意を払ったほうがいいと思われる

五、特許出願戦略と特許ポートフォリオ

 科学技術の日進月歩につれて、2019年から世界の人工知能AI)技術が爆発的な進化を遂げており、その中に、AIとディープラーニング(Deep Learning、深層学習)技術を活用して研究開発を行うことにより、技術革新の時間が大幅に短縮された事例もある。このような状況では、他人の特許権侵害や研究開発の方向性の途中変更を回避するために、企業が研究開発に時間とコストを投資する前に、公告又は公開された特許及び特許出願を定期的に確認及び分析することが必要である。研究開発終了後には、特許取得により適切に新技術を保護することをお勧めする。それにより、企業は、研究開発の成果が競合他社にコピーされたときに相応の対策を講じることができるほか、所有する特許を交渉の切り札として関連会社とのクロスライセンスにより、ロイヤルティ(実施料)を下げたり、その他の有利な条件を交換したりする機会もある。取得した特許が実際に製品に適用されていなくても、他社に特許実施権を許諾しロイヤルティを得ることも考えられる。

 これらの企業の知的財産権の経営管理戦略及び具体的な目標計画は、会社の上級管理職の統括指揮のもとに、会社の知財又は法務担当者によって計画及び実施されるか、又はその関連業務を特許又は法律事務所に委託することが望ましい。特に大手自動車メーカーや新規参入者が競争優位に立つために積極的に研究開発を行っている状況では、将来のEV市場の商業的利益を保護するため、できるだけ早く新技術の特許権を取得することが大切である。したがって、競合他社の関連特許の取得について、柔軟かつ迅速に把握する必要があり、他社の特許権を不注意により侵害してしまうことのないよう、社内に知的財産に対応する専門チームを設立するか、特許又は法律事務所の専門家の豊富な実務経験及び知識を活用することをお勧めする。

 そのため、研究開発に着手する前に、同じ研究開発に時間やコストを浪費しないように、まず開発しようとする技術分野について先行特許の調査を行い、他社の研究開発成果の範囲を確認し、また、他社の特許権を侵害しないように、状況に応じてその保護範囲を迂回する回避設計design aroundを行うことをお勧めする。

 研究開発の着手前に、関連する他社の研究開発成果や特許が見つからなかったが、研究開発開始後に関連技術特許が公開又は公告されていることを発見した場合は、当該特許技術を分析し、自社の研究開発内容が当該特許を侵害しいるかどうかを判断し、又は当該特許を無効にしたり、その権利範囲を狭めたりする可能性があるかどうかを検討しなければならない。

六、まとめ

 EV政策に関して各国で明確な達成時期を定めており、また大手自動車メーカーがEV積極的に投入するにつれ、我々はEV中心とする生活にどんどん近づいている。今後、EVの普及を阻む要因である航続距離、充電時間、充電ステーション及び価格などの関連課題は次第に解消され、その時、街のいたるところをEVが走ることになる。また、さまざまなスマートデバイスや5Gの発展により、EVの機能も単なる移動手段に限られなくなる。この重要な時期に、EV関連企業、さらにはさまざまな技術分野の企業にとって、現在のEV、電池関連技術の特許出願動向及び各企業の動向に随時注意を払い、企業自身の競争優位に基づいてさらに資源を投入し、技術の向上と先導的地位を追求し、さらに特許又は企業秘密によって研究開発の成果を保護し、市場の優位性と企業価値の拡大を図ることは、一刻の猶予も許されないものである

 


 

1  パリ協定、国連気候変動枠組条約、https://unfccc.int/process-and-meetings/the-paris-agreement/the-paris-agreement   

2  GOV.UKhttps://www.gov.uk/government/news/pm-outlines-his-ten-point-plan-for-a-green-industrial-revolution-for-250000-jobs 

3  每日新聞"政府、2030年代半ばにガソリン車新車販売禁止" https://mainichi.jp/articles/20201203/k00/00m/020/001000c  

4  工業技術研究院、"工業技術研究院「台湾EV充電産業技術推進連盟」を設立"https://www.itri.org.tw/ListStyle.aspx?DisplayStyle=01_content&SiteID=1&MmmID=1036276263153520257&MGID=109092811071443379

5  IEA Technology report "Global EV Outlook 2020"https://www.iea.org/reports/global-ev-outlook-2020

6  科技政策研究と情報中心、科技産業情報室、"トヨタはハイブリッド車特許を無償開放"https://iknow.stpi.narl.org.tw/Post/Read.aspx?PostID=15455   

7  Damon Lowney "PCNA President and CEO says 50% of Porsches will be plug-ins by 2025" Porsche Club of Americahttps://www.pca.org/news/2019-11-19/pcna-president-and-ceo-says-50-porsches-will-be-plug-ins-2025

8  Cmoney"「電気自動車産業」の予想:生産額は300%成長,道路を走行する車両数は10年で30倍に"https://www.money.com.tw/invest/article/176294  

9  36KrJapan"韓国LG化学のリチウム電池世界シェア CATLやパナソニックを抜き世界1位へ"https://36kr.jp/72410/

 

 

 

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