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バイオメディカル・テクノロジー分野におけるナノ材料技術の発展と特許技術の応用



  ナノテクノロジーの概念は、1959年に米国の物理学者、リチャード・ファインマン(Richard Feynmanにより初めて提唱された。以来、60年にわたってさまざまな科学技術分野で盛んに発展しており、今でもなお各国がリソースを投入して推進に努める研究テーマの1つである。(ナノテクノロジーがこのよう極めて重要な位置を占める理由は主として以下の点である。物質のサイズをナノメートルスケールに縮小すると、過去とはまったく異なる特性を示すことができ、これによって過去の研究開発で直面したボトルネックや困難を打破し、より優れた性能を備えた方法や製品を提供することができる。例えば、電子産業における半導体材料用のナノエッチング技術、環境産業における廃水ろ過用のナノファイバー膜、エネルギー産業におけるエネルギー貯蔵用のグラフェン電池などであり、その中で最も注目されているのはバイオメディカル産業への応用である。

 ナノテクノロジーの基礎研究が徐々完備されつつあるなか、そのバイオメディカル分野への応用も絶えず発展しており、病気の予防、診断から治療に至るまで、ナノテクノロジーが幅広く応用されている。その例としては、以下のようなものが挙げられる。核磁気共鳴画像MRI解析用の造影剤としてナノ磁性粒子を使用することで、特定の標的細胞と特異的に結合して造影効果を高めることができる。ナノバイオチップとナノバイオセンサーは核酸又はDNA分子の濃度の測定に応用することができ、少量の検体又は試薬だけで迅速かつ正確に分析結果を得ることができる。ナノ粒子型ドラッグデリバリーシステム(Drug delivery system、以下「DDS」という)は、従来の制限を打ち破り、薬物を標的部位に特異的に到達させた後、薬物を効果的に放出させることで、薬物の安定性向上などを図る。これらの研究成果はいずれも、医療の進歩に大きく貢献している。

 近年、上記の技術開発の急速な進展に伴い、バイオメディカル分野におけるナノテクノロジーの応用に関する特許も年々増加してい。世界五大特許庁(USPTOSIPOWIPOEPOJPO)で公開されているデータを用いて分析を行ったところ、以下のような結果を得た。過去5年間で、世界のナノバイオメディカル分野に関する特許公開件数は着実に増加しており、初期の段階においては米国(USPTO)は特許件数において世界をリードしているが、現在では、中国の特許件数最も多い。これに対して、WIPOEPO及びJPOでは、顕著な増減傾向が見られない。応用面では、関連特許は大きくナノドラッグデリバリー、ナノ計測、ナノ光学、ナノ磁性、ナノ材料などの分野に分けられ、中でもナノドラッグデリバリーとナノ材料が最も大きな割合を占めている。

 米国の臨床研究会社IQVIAは、20203月に、世界の医薬品支出は年間25%のスピードで増加しており2024年には1.1兆米ドル(約109.6兆日本円)を超えると予測しておりこのような巨大市場に引き付けられ、大手製薬各社が相次いで関連研究開発に参入してきいる。さらに、経済部(日本の経済産業省に相当)が20207月に発行した「バイオテクノロジー産業白書」によると、2009年に世界で最も売れた処方薬トップ10はいずれも伝統的に化学合成によって製造された低分子医薬品であったのに対し、2019年には既に6種類ものバイオ医薬品(biologics、生物製剤)がランクインしていることから、新薬の開発は精密かつ複雑な構造を持つタンパク質性医薬品に向かって進んでおり、ナノテクノロジーもここで重要な役割を果たしていることが分かる。標的への選択性が低く、副作用が多く、薬効が不十分であるなどという従来の薬物送達の欠点とは異なり、ナノテクノロジーを活用したDDSは、標的部位に薬物を効果的に送達して作用させることができる。その中で、一般的なナノキャリアには、ナノ粒子(nanoparticle、リポソーム(liposome、ミセル(micelleなどが含まれこれらのナノキャリアは、その表面の特殊な修飾により、さまざまな困難を乗り越えて薬物を正確に特定の標的部位に送達することで、標的への選択性の増強、途中で薬物分解していまうリスクの低減を図ることができる。それはがん、アルツハイマー病又は他のまれな疾患に対してかなり顕著な治療と緩和効果を持っている。

 過去20年間で、米国FDA(食品医薬品局)は臨床治療に使用された50種類以上のナノ医薬品(ナノメディシン)を承認した。その中で、米国RNAi治療のリーディングカンパニー、Alnylam Pharmaceuticals社によって開発されたONPATTROオンパットロ)は、2018年に販売が承認され、FDAが初めて承認したRNA干渉(RNA interferenceRNAi)のナノ医薬品で、それに関連する特許は合計21件ある。ONPATTROは、siRNAを脂質ナノ粒子に封入する技術を用いて、注入後にsiRNAを肝臓に直接送達して放出する製剤であり、当該siRNAは干渉効果を誘導することにより、その対応するRNAを分解して疾患の原因となるトランスサイレチン(TTR)タンパク質の産生を抑制する。これにより、遺伝性アミロイド性多発神経障害を抑制し、まれな疾患の患者の四肢の痛みや感覚喪失などの症状を緩和させる。このほか、2020には臨床試験を実施していたがん治療用のナノ医薬品は29種類にも達しており、近い将来、市場に出回ることになり、がん患者に一縷の希望をもたらすものと信じている。

 ナノキャリア自体の特性を利用して医薬品の有効性を高める以外に、臨床では他の技術と組み合わせて医薬品開発の障害を克服することもできる。例えば、米ジョンズホプキンス(Johns Hopkins)大学が出願した特許(US 2019201326)は集束超音波とナノ医薬品を組み合わせた技術に係るもので、つまり、神経調節薬を搭載したナノキャリアを静脈内に注射し、ナノキャリアの表面が超音波感受性を持つ化合物で修飾されるため、当該ナノキャリアは、集束超音波の誘導によって薬物を標的の脳領域に放出し、それによって薬物の作用領域や作用時間を制御するというものである。また、集束超音波はDDSの補助としてだけでなく、MRI技術と組み合わせて、非侵襲的治療法を提供することもできる。つまりMRIガイド下集束超音波MRI-guided Focus Ultrasound)治療法である。この治療法は、MRI画像技術を造影剤としての新規磁性ナノ粒子(例えば、米カリフォルニア大学によって出願された特許:US 10667716 B2)と組み合わせることで、当該ナノ粒子はMRI画像の解像度を一層向上させ、腫瘍領域をより正確に特定することができ、さらに、多周波超音波をその領域に集中させ、瞬時に温度を上昇させることにより、腫瘍組織内のタンパク質を変性・凝固壊死させて患者の症状を緩和するというものである。

 世界各国がバイオメディカル産業の発展を加速させる中、関連法規の改革、健康保険制度の調整は、関連企業の各国市場に対する評価に影響を与え、この結果、各国における特許ポートフォリオに変化を招くことになる。科学技術が日進月歩で発展するとともに、患者のニーズとや業界の利益をどのように両立させるかは、現代社会において検討に値する議題である。

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