ニューズレター
先使用権主張の抗弁を立証する手段
専利法(日本の特許法、実用新案法、意匠法に相当)第59条第1項第3号には、特許権の効力は、出願前、すでに台湾で実施されていたもの、又はその必要な準備をすでに完了していたものには及ばさないと明らかに規定してあり、これは学説上でいう「先使用権」であるが、一般的に特許権侵害訴訟の被告による非侵害の抗弁として用いられる。この抗弁が裁判所に採用されるか否かの鍵は、主に証拠の証明力にある。「過去」(特許出願前)にすでに存在していた製品内容を証明する必要があることから、立証は容易ではない。本文章では、直近2年間における知的財産裁判所の関連判決を振り返り、裁判所は当事者の証拠方法を採用し、又はしない旨の理由を以下に要約する。
先使用権の抗弁を採用しない知的財産裁判所の判決は、以下のとおりである。
1、2019年2月14日付の107年(西暦2018年)度民専上字第15号民事判決
被告が提出した製品カタログの図面には係争特許の主な技術的特徴が開示されていないので、係争製品が特許出願前にすでに製造販売されていたことを証明できない。被告が提出したネット広告の紹介にも製品の外観及び型番のみ開示されており、製品内部の構造は開示されていないので、証拠が開示する製品が係争製品であると確定できない。また、被告は公正証書及び公証を受けた物証を提出し、物証の実物ケースの銘板には特許出願前の出荷日が表示してある等と主張したが、公証人が見た物証は公証当時の状態であり、以前の状態ではなく、内部部品の状態について公証人は知り得ず、公証前にすでに交換された可能性があり、また、ケースの銘板がシールでありすでに交換された可能性もある。その他の物証にも型番の記載等がないことから、被告の先使用権の抗弁は採用できない。
2、2020年5月21日付の108年(西暦2019年)度民専上字第24号民事判決
訴訟の包袋における説明資料、図面及び先使用製品の製造工程に関する書面説明に基づき、先使用製品と係争特許発明の技術概念は異なり、先使用製品が特許権を侵害する係争製品であるとは認めがたい。残りの証拠は、係争特許の構造を具体的に開示しておらず、被告が係争特許の優先日より前に係争製品を製造する能力があったことのみを証明するもので、係争製品について先使用権を有することを証明するには不足している。また、係争製品が確かに「出願前すでに台湾内で実施されていたもの、又はその必要な準備をすでに完了していたもの」であることも認めがたい。
3、2020年4月29日付の108年(西暦2019年)度民専訴字第65号民事判決
訴訟の包袋における写真に示された構造部品の特徴と係争特許の請求項に係る発明の技術的特徴には違いがあり、係争特許の出願前にすでに係争特許の請求項1に係る発明の技術内容全体と同じ物品がすでに製造されたとは認めがたい。
先使用権の抗弁を採用する知的財産裁判所の判決は、以下のとおりである。
1、2020年6月30日付の108年(西暦2019年)度民専訴字第81号民事判決
被告が提出したカタログ、輸出申告書のコピー、製品図面確認書、当該製品図面確認書に基づき製作した完成品から、被告は確かに係争特許の出願前に訴訟当事者ではない者に上記した証拠の製品の図面確認書に基づきサンプルを製作するよう委託し、訴訟当事者ではない者はサンプル完成品を製造して引き渡した。裁判所に提出した製品と前述した証拠図面に示された各部品のサイズはいずれもほぼ同じであるので、被告は係争特許の出願前にすでに国内で原告会社が権利侵害と主張した係争製品を製造していたことが認められた。
2、2020年11月6日付の109年(西暦2020年)度民専訴字第25号の判決
(1)係争製品は2018年11月17日及び同年11月24日にそれぞれ新潟及び東京で開催された新商品展示会に出展され、これは係争製品のポスター、係争製品の展示・操作についての展示会場の写真及び同年12月の係争製品カタログによって証明される。係争特許の出願日前に、Aサイト資料では前述した係争製品のカタログの一部の写真を使用して係争製品及び価格を掲載しており、Bサイト資料でも、前述した係争製品のカタログ写真を使用して係争製品を紹介していることから、係争製品は係争特許の出願日前にすでに日本で販売されていたことが分かる。
(2)被告会社は同年7月に「極密」扱いの電子メールで係争製品の写真、規格、希望小売価格、卸価格を提供して、販売店に同年7月までに事前注文フォームを提出するよう依頼し、メールにも係争製品の販売期日が明記されている。これも、前述の被告の日本本社による係争製品の展示・販売、係争製品カタログの発行等の関連注文、展示、販売のスケジュールと合っているため、前述した電子メールは真正であると認めるに足りる。被告は前述の係争製品の売買に必要な事項を台湾の販売店数社に通知し、事前注文フォームを提供し、かつ期限を過ぎた場合には補充注文と見なすと告知し、すでに係争製品の売買に必要な内容を表明済みであり、また、特定の販売店に向けて契約を締結することにより、販売店に承諾の意思表示を求めることから、被告会社はすでに係争製品について販売を申し出済みと認めるべきである。
(3)被告会社は被告の日本本社から係争製品を輸入しており、これは領収書及びパッキングリストによって証明される。同年12月に、被告会社は台湾でイベントを開催し、イベントにおいて係争製品を展示及び使用し、これは当該イベントの関連写真、イベントのパンフレット、Facebookのスクリーンショット等によって証明される。これらは、被告会社が係争製品について前述した販売店に対する売買の申し出後、係争製品の新商品PRイベントを推進するために被告の日本本社から新品を輸入したことを証明できる。よって、係争特許の出願前において、被告会社はすでに係争製品について台湾内で販売店に販売の申し出をしており、上記目的で係争製品を輸入し、そしてPRのために実施行為を行ったものである。特許法により、係争製品は係争特許の特許権の効力が及ぶものではない。
以上から、被疑侵害者側は、裁判所が有利な判断を下すよう、積極的に様々な証拠を提出して先使用の時点(特許出願より前)、先使用製品と被疑侵害品の同一性、及び先使用行為の態様等を証明する必要があることが思われる。