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進歩性を判断する際の商業的成功の要素の参酌について



 専利(特許、実用新案、意匠を含む)が進歩性を有するか否かの判断については、単に従来技術を機械的に寄せ集めて対比するだけで、後知恵により専利に進歩性はないと判断する審査官の審査傾向を完全に避けることがしばしば困難である。したがって、専利審査基準には、「発明が予期せぬ効果を奏する」「発明が長年存在してきた課題を解決する」「発明が技術的偏見を克服する」「発明が商業的成功を得る」という「進歩性の補助的判断要素(secondary considerations)」が定められており、さらに、出願人が補助的証明資料を提供してその進歩性を裏付ける場合、併せて斟酌しなけらばならないことも定められている。しかしながら、実務運用上、専利権者が「発明が商業的成功を得た」ことをもって専利が進歩性要件を満たしていることを主張しようとしても、これまでのところ大きな困難があるようである。これは2020430日に作成されたばかりの最高行政裁判所109年(西暦2020年)度判字第232号行政判決から分かる。

 
 当該事件において、無効審判請求人は、係争特許は進歩性が欠如しているとして無効審判を請求したが、これに対し経済部智慧財産局(台湾の知的財産権主務官庁。日本の特許庁に相当。以下「智慧局」という)は審理を経て、無効審判不成立の審決(維持審決)を下した。請求人はこれを不服とし、経済部へ訴願を提起したが、経済部は、原無効審判不成立の審決の取消決定をした。特許権者はこれを不服とし、知的財産裁判所へ行政訴訟を提起し、同裁判所は審理を経て、係争特許は進歩性が欠如しているとの判断をし、特許権者の訴えを棄却した。そこで特許権者は最高行政裁判所へ上告を提起し、「商業的成功を得た」ことをもって進歩性を有することを主張した。
 
 最高行政裁判所は審理を経てもなお原審の見解に賛同し、「商業的成功」は唯一の要素ではなく、進歩性の補助的判断要素に過ぎず、かつ、特許製品が商業的成功を得ているか否かは、その技術的特徴に加えて、販売テクニック、広告宣伝、市場の需給状況、社会全体の経済景気などの要素にも関連しているものであり、また、引用文献は係争特許の進歩性の欠如を証明するに足るものであるからには、いわゆる「商業的成功」という進歩性の補助的判断要素はもはや斟酌される必要はない、との見解を示した。
 
 しかしながら、最高行政裁判所の上記見解により、進歩性の有無は従来技術の単なる寄せ集めに基づいて判断すると、「発明が商業的成功を得る」という進歩性の判断要素は適用される余地はほとんどない。特に、本件の係争特許は智慧局が審理を経て進歩性ありと認定したものであり、言い換えれば、本件引用文献が確かに技術的特徴を開示しているか否か、それを組み合わせる合理的な動機付けがあるか否かについてはまだ議論の余地があると思われる。一概に最高行政裁判所の上記理由をもって「商業的成功」という要素の導入を否認すると、上述した後知恵による判断を避けるという目的に反しており、また、専利審査基準が「出願人が補助的証明資料を提供してその進歩性を支持するのであれば、併せて斟酌しなければならない」と強調した規定にも反することとなる。
 

 最高行政裁判所による109年(西暦2020年)度判字第232号行政判決と比べて、知的財産裁判所が2019214日に作成した107年(西暦2018年)度行専訴字第75号判決は、「商業的成功」を特許の進歩性判断の要件として斟酌しなければならないことを肯定している。当該判決では、引用文献は特許の請求項における一部の技術的特徴を個別に開示しているが、当該引用文献の組み合わせに合理的な動機付けがあるか否かは、当該発明の属する技術分野における通常の知識を有する者にとって尚も疑念があり、また、主観的恣意的な判断によって引き起こされた後知恵を避けるため、本件には進歩性の補助的判断要素を導入する必要があると認定された。当該事件において、知的財産裁判所は総合的に斟酌した結果、「商業的成功」を斟酌したうえで当該特許は確かに進歩性を有すると認定した。知的財産裁判所の上記判決は参考に値するものである。

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