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営業秘密法改正、「捜査秘密保持命令」に関する規定の新設


Winona Chen

台湾の営業秘密法は1996年に施行されて以来、業界からの営業秘密保護に対するニーズに応え、また営業秘密保護法制において刑事責任が新設され又は加重される国際的な趨勢に合わせるため、2013年の改正で営業秘密法違反に対し刑事責任及び域外加重処罰の規定を新設した。しかしながら、2013年の改正にはなお以下の問題点がある。刑事捜査の実務上、検察官が営業秘密事件を取扱う際に、刑事訴訟法第245条でいう「捜査内容の非公開制限規定が設けられているため、捜査資料を関係者へ閲覧及び充分な答弁のために提供し真実を発見することが難しかった。また、捜査資料に接触する可能性のある関係者に対しても、秘密保持義務の履行を命じる法的根拠がなかったため、営業秘密の保有者がその営業秘密が二次漏洩されるリスクに直面することになり、捜査の効率及び正確性に影響を及ぼしていた。

 

捜査内容の非公開の原則を貫徹し、真実を発見するため、また営業秘密の証拠資料の秘密性にも配慮し、立法院(日本の国会に相当)は20191231日、営業秘密法一部条文改正草案を可決し、「捜査秘密保持命令」制度を新設した。その重点は以下のとおり。

 

1.        検察官は営業秘密事件の捜査を行う際に、捜査に必要があると認めた場合、捜査内容に接触する関係者(例えば、被疑者、被告、被害者、告訴人、告訴代理人、弁護人、鑑定人、証人又はその他関係者)に「捜査秘密保持命令」を発令することができる(第14-1条第1項)。

 

2.        「捜査秘密保持命令」を受けた者は、当該捜査内容について、捜査手続の実施の目的以外への使用及び捜査秘密保持命令を受けていない者への開示をしてはならない(第14-1条第2項)。

 

3.        「捜査秘密保持命令」は書面又は口頭で行わなければならず、かつ営業秘密の保有者に状況に応じて意見陳述の機会を与えることができる(第14-2条)。

 

4.        「捜査秘密保持命令」は捜査中(例えば、秘密保持すべき原因が消滅した、又は捜査秘密保持命令の内容に変更の必要がある時)及び捜査終結後に(例えば、案件について起訴猶予処分又は不起訴処分が確定した場合。捜査秘密保持命令の起訴効力が及ばない部分)変更又は取消することができ、また、起訴後に裁判所が発令した秘密保持命令との整合性もとることができる(第14-3条)。

 

5.        「捜査秘密保持命令」に違反した者は、3年以下の有期懲役、拘留若しくは100万台湾元(約366万円)以下の罰金に処し、又はこれを併科する。台湾域外で捜査秘密保持命令に違反した場合にも処罰を受ける(第14-4条)。

 

2019年に新設された「捜査秘密保持命令」に関する規定(以下、「2019年改正案」という)は、総統令により公布、施行される予定である。

 

2019年改正案では、「捜査秘密保持命令」制度の導入により、捜査内容の非公開、真実の発見と営業秘密の保有者の営業秘密証拠資料の秘密性の均衡を図るもので、その立法趣旨は極めて良好だったが、今後の実務運用ではいくつか注目すべき点がある。

 

1.        2019年改正案では、現在のところ、検察官に、職権により「捜査秘密保持命令」を発令し、「捜査秘密保持命令」の規制の下で関連捜査資料を関係者(当事者、被害者、代理人、弁護人、鑑定人、証人又はその他関係者など)に開示するという権限のみを付与しているが、検察官に、関係者による申立に基づき「捜査秘密保持命令」を発令する権限を付与していない。よって、関係者は捜査への協力又は答弁のために捜査資料を閲覧する必要がある場合、2019年改正案では捜査資料を閲覧するため「捜査秘密保持命令」の発令を発動させる関連メカニズムが提供されていない。このような状況の中、捜査の効率及び正確性の向上の目的を達成できるか否かが注目すべき点となるだろう。

 

2.        2019年改正案の「捜査秘密保持命令」制度の実施は、検察官に案件捜査の必要に応じて、「捜査秘密保持命令」の規制の下で関係者に捜査資料を開示することができる権限を付与している。これは、刑事訴訟法第245条に規定されている捜査内容の非公開の制限原則を打ち破る例外規定であり、営業秘密の保有者の権益への影響は甚大である。2019年改正案では、営業秘密の保有者に特定の状況において検察官が発令する「捜査秘密保持命令」に対し意見陳述の機会が与えられたが、営業秘密の保有者が捜査秘密保持命令の範囲(捜査秘密保持命令を受けた者、秘密保持すべき捜査内容又は禁止、制限行為などを問わず)に同意しない場合でも、検察官は捜査に必要であるとして尚も営業秘密の保有者の意見を採用せず直接「捜査秘密保持命令」を発令することができ、さらに営業秘密に関わる捜査資料を捜査秘密保持令を受けた者に開示することができる。そのとき、営業秘密の保有者が、検察官が発令した「捜査秘密保持命令」の処分を不服としても、2019年改正案では不服申立のメカニズムはない(現在のバージョンでは、検察官による捜査秘密保持命令の取消又は変更の処分に対する不服についてのみ、営業秘密の保有者に刑事訴訟法の「抗告」規定を準用し不服申立することができる権利を付与する)。このような状況の中、営業秘密の保有者の権益に対する保護が周到であるか否かが注意すべき点となるだろう。

 

3.        2019年改正案で新設された「捜査秘密保持命令」と「知的財産案件審理法」(中国語「智慧財案件審理法」、以下「審理法」という)で規定されている「秘密保持命令」はいずれも営業秘密の内容に接触する者に対して、当該内容に秘密保持義務を課し、かつ違反した者にいずれも刑事責任を負わせるものである。しかしながら、両者にはまだ以下のような違いがある。

 

3.1.   2019年改正案で新設された「捜査秘密保持命令」は営業秘密事件の捜査段階に適用され、検察官の職権により発令される。一方、審理法で規定されている「秘密保持命令」は裁判所での審理段階に適用され、営業秘密事件に限らず、訴訟資料が当事者又は第三者が所持する営業秘密に関わりさえすれば、営業秘密の保有者は法定要件に従って裁判所にその命令を発令するよう申立てることができる。

 

3.2.   裁判所の審理過程において、当事者双方は原則的にいずれも訴訟ファイル内の証拠資料を閲覧することができ、例外的に秘密の保有者による秘密保持命令の申立が許可された後、その閲覧権限を制限することができる。検察官の捜査においては、捜査内容の非公開の原則に基づき、関係者は元々証拠資料を閲覧してはならず、例外的に検察官が「捜査秘密保持命令」を発令した後、捜査秘密保持命令を受けた者に閲覧が許可される。

 

審理法第11条第2項により、秘密保持命令を受けた者が、秘密保持命令の申立前にすでに営業秘密を取得又は所持していた場合、営業秘密の保有者の申立は秘密保持命令申立の要件を満たさないこととなる。2019年改正案では、「捜査秘密保持命令」は、営業秘密事件の起訴後、裁判所が発令する秘密保持命令との整合性をとる規定(第14-3条)が設けられているが、捜査秘密保持命令を受けた者は、秘密保持命令を受けた者でもある可能性が極めて高く、それらの捜査秘密保持命令を受けた者は捜査中にすでに営業秘密を取得又は所持しているため、前述した審理法の規定によると、営業秘密の保有者は恐らく合法的に秘密保持命令を取得することは難しい。この時、2019年改正案の「捜査秘密保持命令」は審理法の「秘密保持命令」とどのように合法的に整合させるのか疑義が生じる。

 

2019年改正案で新設された「捜査秘密保持命令」規定は、刑事捜査の実務、営業秘密の保有者/所持者の権益及び営業秘密訴訟に関する裁判実務のいずれにも影響があるため、今後、司法院及び行政院(日本の内閣に相当)には、「捜査秘密保持命令」に関する規定を明確化するため、検察官による「捜査秘密保持命令」の発令について関連作業弁法を制定するかいなかを検討し、また、営業秘密法と審理法の2つの法律の適用上に疑義が生じないように、審理法の「秘密保持命令」に関する関連規定も合わせて改正するよう提案する。 

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