ニューズレター
従来技術文献に記載されていないが実質的に示唆されている部分に基づく特許の新規性の認定について
特許制度の目的は、出願人に独占的かつ排他的権利を付与することで、その研究開発成果の公開を奨励し、一般公衆が当該公開された発明又は創作を利用できるようにすることにある。このため、特許出願前にすでに公然実施され公衆が知り得る発明又は創作については、保護を付与する必要はなく、これは特許法第22条第1項による「新規性」の要件として規範されている。
現行の特許審査基準における新規性の判断基準には3つの手法があり、特許出願に係る発明が引用文献で開示された従来技術と「完全に同一」である、又は「両者の相違点が文字の記載形式又は直接的かつ一義的に導き出せる技術的特徴にのみ存在する」、又は「両者の相違点は対応する技術的特徴の上位・下位概念にのみ存在する」という判断手法が含まれ、特許出願に係る発明又は創作が従来技術と完全に同一又は実質的に同一であれば、当該特許出願は新規性の欠如により特許権を付与しないと認定しなければならない。
最高行政裁判所は前述した新規性の判断基準について、2015年12月17日付の104年(西暦2015年)度判字第764号判決において、さらに次のように判示しており、「無効審判請求事件で新規性を審理する時は、各請求項に記載された係争発明を単一の無効審判の証拠と対比し、無効審判の証拠において開示された内容を基準としなければならず、当該内容には無効審判の証拠の形式上明確に記載された内容及び形式上記載されていないが実質的に示唆される内容が含まれる。いわゆる『実質的に示唆される内容』とは、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、無効審判の証拠公開時の通常の知識を参酌して、直接的にかつ一義的に導き出せる内容であることを指す。言い換えれば、単一の無効審判の証拠では係争特許のすべての技術的特徴が開示されていないが、当該未開示の部分は当該無効審判の証拠において本質的に固有なものであり、又は必然的に当該無効審判の証拠に存在するものであるため、当該無効審判の証拠自体に必要不可欠なものとなる場合、その属する技術の分野における通常の知識を有する者の観点をもって、当該未開示の部分が、当該無効審判の証拠に必然的に含まれるものであると認めることができる場合に限られる。」、一方、「無効審判の証拠において、形式上明確に記載された内容、及び形式上記載されていないが実質的に示唆される内容は、なおも係争発明の技術的特徴を開示することができない場合には、当該無効審判の証拠は係争発明が新規性欠如を証明するに足りない。」
この個別事件において、原裁判所である知的財産裁判所は、係争特許の特許請求の範囲と引例との技術的特徴を相互に対比した後、両者は文字の記載形式が違うだけであるとして、当該引例は係争特許に係る請求項が新規性を備えないことを証明するに足りるとした。しかし、最高行政裁判所ではこの見解を覆し、係争特許と引例との構成要件及び構造には実質的な差異があり、文字の記載形式だけの違いではないと認定し、かつ引例に開示されていない差異も、当該引例において本質的に固有なものでもなく、又は必然的に当該証拠に存在するものでもないため、当該引例は、請求項1について新規性欠如を証明するに足りない、とした。
これらから分かるとおり、司法実務では、新規性の審理は引例の形式上明確に記載された内容に限られるものではなく、また引例の形式上記載されていないが、その属する技術の分野における通常の知識を有する者が当該証拠において本質的に固有であり、又は必然的に存在すると認定する部分も含む。しかしながら、当該「実質的に示唆される内容」は依然として係争発明の技術的特徴を開示するものでなくてはならず、それにより初めて係争特許の新規性欠如を認定することができるのである。