ニューズレター
中国「馳名商標」は台湾「著名商標」認定の証左となるか?
商標法には著名商標の保護に係る明文規範が置かれており、いったん著名商標と認定されれば、たとえ該著名商標がまだ台湾で商標登録されていなくても、他人が該著名商標と同一又は類似の商標を特定の商品又は役務において登録するのを消極的に防止することができるのみならず、他人が該著名商標と同一類似の商標を特定の商品又は役務において使用したり、企業名称又はドメインネームとするのを積極的に阻止することもできる。
著名商標をどのように認定するかについては、商標法には明文規範が置かれていない。智慧財産局(※台湾の知的財産権主務官庁。日本の特許庁に相当)が制定した「商標法第30条第1項第11号における著名商標保護に関する審査基準」、及び、知的財産裁判所102年(西暦2013年)度行商訴字第141号行政判決及び知的財産裁判所103年(西暦2014年)度行商訴字第37号行政判決が異なる商標異議申立事件において司法院大法官会議釈字第104号解釈の主旨を引用してそれぞれ示した見解、さらには、これまでの実務におけるコンセンサスによれば、いずれも、「商標が著名であるか否かは、我が国の消費者の認知を基準とする」と認めている。我が国の消費者が該商標の存在を普遍的に認知できるのは、通常、該商標が我が国で広く使用された結果である。したがって、商標が著名であると主張しようとする場合、原則として、該商標が我が国で使用されていることに関する証拠を提出しなければならない。
しかしながら、たとえ商標が我が国で使用されていなくても、又は、我が国での実際の使用状況が決して広範なものではなくても、該商標がその他の国又は地域で広く使用され、それによって築いた知名度が既に我が国に及んでいることを示す客観的な証拠があれば、やはり該商標は著名であると認定することができる。商標の知名度が既に我が国に及んでいるか否かについては、該商標の使用地域範囲が我が国と密接な関係を有するか否か、たとえば経済や貿易、観光による往来が頻繁であるか否か、文化や言語が類似するか否かなどの要素を斟酌して総合的に判断することができる。そのほか、該商標の商品が、我が国で販売されている新聞や雑誌により広く報道されている、又は該商標が中国語のインターネットで広く、頻繁に討論されていることなども、該商標の知名度が既に我が国に及んでいるか否かを判断するための参考要素とすることができる。
「海峽両岸智慧財産権保護合作協議」(「中台知的財産権保護協力協定」)が2010年6月29日に締結され、2010年9月12日に発効して以来、中国と台湾の民衆の間で関心の高い議題の1つに、台湾で著名商標であると認定された後、中国で「馳名商標」(※中国の著名商標)であると見做され中国商標法により保護を受けることができるか否か、又は、中国で「馳名商標」であると認定された後、台湾で台湾商標法に規定される著名商標と同じと見做されて保護することができるか否か、が含まれる。現在の実務では、依然として、個別案ごとに判断し、決定する必要がある。
特筆すべきは、知的財産裁判所の103年(西暦2014年)度行商訴字第37号行政判決において、該案件の異議申立の依拠とする商標が著名であるか否かについて、中国大陸国家工商行政管理総局商標局が2008年に該異議申立依拠商標を中国の「馳名商標」であると認定した証拠を参酌し、その他の証拠資料も加えて、該商標を我が国の著名商標と認定している点である。
しかしながら、中国の「馳名商標」の認定を、必ずしも台湾著名商標の証拠とすることができるわけではなく、依然として、名声の高さ若しくは著名度、又は商品若しくは役務の区分を考慮する必要がある。知的財産裁判所の102年(西暦2013年)度行商訴字第62号行政判決は、商標異議申立事件の審理のなかで、「異議申立の依拠とする商標は中国で『馳名商標』と認定されているものの、その著名度は食品類に限定されている。しかも、異議申立依拠商標が使用される商品又は役務は食品類を主としており、ヘアケア・ボディケア用品に該商標を実際に使用していた、又は、多角化経営がヘアケア・ボディケア用品に及んでいた可能性を示す証拠がないのに対し、係争商標はヘアケア・ボディケア用品に使用されている。これら2つの商標の指定商品の性質はまったく異なり、販売ルート及び販売対象も明らかに異なっており、両者の市場は明確に区分されている。客観的に判断して、消費者が、これら2つの商標の出所が同一又は関連を有すると誤認することはない」ことを具体的に示している。したがって、知的財産裁判所は本件商標異議申立事件において、中国で「馳名商標」と認定された証拠を、台湾で著名商標と認定する証左として採用しなかった。
以上をまとめると、「海峽両岸智慧財産権保護合作協議」(「中台知的財産権保護協力協定」)締結後、中台の商標主務官庁又は裁判所は、互いの知的財産権の保護にいっそう力を入れるようになったが、商標保護については結局のところ属地主義を採用しており、関連する権益の保障をいかに確かなものとするかについては、依然として個別の関連法律規範によらなければならない。