ニューズレター
「侵害の排除・防止に係る請求権」の訴訟目的の価額
専利権侵害訴訟案件において、原告は訴えを提起する際、「訴訟の目的の価額」の一定比率に基づいて裁判費用を納付しなければならない。専利権者は訴えの提起時に、通常は、少なくとも「損害賠償請求権」と「侵害の排除・防止に係る請求権」を主張する。後者の請求内容は「被告は侵害行為をしてはならない」というものであり、この請求は「損害賠償請求権」のように具体的な価額があるわけではないため、「侵害の排除・防止に係る請求権」に関する訴訟の目的の価額をどのように決定すべきかについては、少なからず、争いを引き起こしてきた。
過去においてよく見られたのは、当事者が民事訴訟法第77条の12の「訴訟の目的の価額を決定することができない場合、第466条で定める第三審に上訴することができない利益の最高総額に、その10分の1を加算して決定する」旨の規定を援用し、165万新台湾元を「侵害の排除・防止に係る請求権」の訴訟の目的の価額として主張するケースである(注:現在、第三審に上訴することができない利益の最高額は150万新台湾元であるため、この規定により定められる訴訟の目的の価額は即ち165万新台湾元である)。この情況において、被告の大半は「『侵害の排除・防止に係る請求権』の訴訟の目的の価額は決して算定できないものではない」と主張して争うが、被告も「侵害の排除・防止に係る請求権」の訴訟の目的の価額がいくらであるのかを証明することができない。専利権侵害訴訟がかかる無意味な手続きによって不当に長引くことを回避するため、知的財産裁判所も通常、前述の民事訴訟法第77条の12の規定を直接に準用し、165万新台湾元を「侵害の排除・防止に係る請求権」の訴訟目的の価額としてきた。
これに対して、最高裁判所は2013年4月24日付け102年(西暦2013年)度台抗字第317号裁定のなかで、「知的財産裁判所は、双方が根拠を提出できないことのみを理由に、直ちに『その訴訟目的の価額を算定することはできない』と認めるべきではない」と指摘した。
最高裁判所が前記事件を知的財産裁判所に差し戻して審理させた後、知的財産裁判所は102年(西暦2013年)9月12日付け102年(西暦2013年)度民抗更(一)字第1号裁定において、「侵害の排除・防止に係る請求権の訴訟の目的の価額は、被告が係争専利権の侵害を停止したことによって原告が得ることができた利益を基準としなければならない」とする見解を示すとともに、上記の利益を見積もるための証拠を提出するよう双方に具体的に要求しており、民事訴訟法第77条の12の規定を援用or準用して、訴訟の目的の価額を算定することができないことを理由に、165万新台湾元であると直ちに認めることはしなかった。
知的財産裁判所は上記裁定のなかで、侵害の排除・防止に係る請求権の訴訟の目的の価額を算定するための依拠として、いくつかの要因を提示した。当該要因には、専利物品と権利侵害被疑物品の市場競争関係、双方間の取引関係、専利権者が訴えを提起する前の専利物品の年間販売平均数量、専利権者の訴え提起時の専利物品についての利益率、係争専利権の残りの権利存続年数と当該案件に要するであろう審理期間及びその他代替可能な権利非侵害製品の市場占有率などが含まれる。知的財産裁判所は最終的に「当該事件の侵害の排除・防止に係る請求権の訴訟の目的の価額は2000新台湾元余りに達し、同事件の損害賠償請求金額(200万新台湾元)より多い」と判定している。
知的財産裁判所は前記事件のなかで、これまでの取扱を変え、「侵害の排除・防止に係る請求権」の訴訟の目的の価額につき実際に調査する立場を採っているが、当該裁判所が同時期に作成した関連裁定を見ると、決して民事訴訟法第77条の12に規定される便宜的措置を全面的に採用しなくなったわけではないようである。たとえば、102年(西暦2013年)度民専抗字第11号裁定及び102年(西暦2013年)度民専抗字第14号裁定のなかで、知的財産裁判所は依然として165万新台湾元を「侵害の排除・防止に係る請求権」の訴訟の目的の価額としている。