ニューズレター
知的財産裁判所は智慧財産局の補助対象を指定しなければならない
2008年7月1日に発効した「知的財産案件審理法」(「智慧財産案件審理法」)の第17条には、当事者(通常は被告)が権利侵害訴訟において特許権無効の抗弁を為すとき、裁判所は、必要なときには、知的財産主務官庁に訴訟参加を命じ、特許の有効性について意見を述べさせることができ、かつ、この「参加」の性質は「補助参加」であり、即ち、民事訴訟法第61条の「参加人は参加時の訴訟程度に応じて、当事者の一切の訴訟行為を補助することができる。但し、その行為が当該当事者の行為に抵触する場合、効力を生じない」旨の規定を適用しなければならない、と規定されている。言い換えると、智慧財産局(※台湾の知的財産権主務官庁。日本の特許庁に相当)は、訴訟に参加する際、特許の有効性に係る争点について意見を述べなければならないのみならず、原告又は被告のうち一方のみを補助することができる。
しかし、当事者は同時に智慧財産局にも無効審判請求を提出し、その手続きがまだ終了していない可能性があるため、実際には、智慧財産局は訴訟参加時に特許の有效性について具体的に意見を述べることができず、当該局が原告と被告のいずれを「補助」すべきか決定することも困難である。たとえ、智慧財産局に係属する無効審判請求案件がなくとも、当該局は結局のところ、紛争が生じた当事者ではないため、当該局の審査官に対し、前もってファイルに入念に目を通して当事者間の紛争を完全に理解するよう要求し、訴訟で適切に意見を述べさせることは、現実には期待できない。智慧財産局による訴訟参加は、結果として、権利侵害訴訟の審理に実質的な益をもたらしていない。ゆえに、知的財産裁判所は設立後、この制度を積極的に訴訟において運用することが少ないようである。
この点に鑑み、最高裁判所は2009〜2011年の判決の中で何度も、「智慧財産局の訴訟参加」の重要性を述べてきた。かかる判決には、98年(西暦2009年)度台上字第2373号判決、99年(西暦2010年)度台上字第112号判決、100年(西暦2011年)度台上字第480号判決、100年(西暦2011年)度台上字第1013号判決及び100年(西暦2011年)度台上字第986号判決などが含まれ、当該これらの判決は、「智慧財産局が既に無効審判請求不成立の審決を下している場合、仮に裁判所がその判断を覆そうとするのであれば、情況を斟酌し、智慧財産局に訴訟参加を命じなければならない」と強調している。そのうち、100年(西暦2011年)度台上字第986号判決は、さらに一歩踏み込んで、「仮に、智慧財産局に係属中の無効審判請求案件がまだあれば、知的財産裁判所は、無効審判請求案件が確定してから、智慧財産局の専門的な意見を実際に探る必要があるかどうかを検討しなければならない」と指摘している。
最高裁判所が判決の中で前述の原則を繰り返し述べているため、その後、知的財産裁判所は、手続上の欠陥を回避すべく、何度も智慧財産局に訴訟参加を命じている。しかし、前述の智慧財産局が意見を表明できない理由が依然として存在しているため、たとえ裁判所が智慧財産局に対し訴訟参加を命じる手続きを履行しても、往々にして形式的なものとなっており、効果は見られない。特に、「知的財産案件審理法」に定められている「智慧財産局は一方の当事者を補助しなければならない」旨の規定はすっかり空文に成り果てている。こうした問題に対し、最高裁判所は2013年9月25日の102年(西暦2013年)度台上字第1800号判決の中で、知的財産裁判所がどのように改善していくべきか、極めて具体的に指し示している。
上記最高裁判所の判決趣旨によれば、知的財産裁判所は智慧財産局に対し訴訟参加を命ずる裁定を下す際、智慧財産局が知的財産裁判所の命令にある程度従って、攻撃、防御方法を提出することができるよう、智慧財産局の補助する当事者がいずれの側かを明示しなければならない。また、最高裁判所は判決の中で、「知的財産裁判所は裁定の中で智慧財産局が補助すべき対象を明示しておらず、また、開廷時、当該局に、原告又は被告のいずれの側を補助するために訴訟に参加したのか、いかなる声明又は表明もさせていないのに、判決では、智慧財産局を『被告の参加人』と直接記している。これは明らかに知的財産案件審理法の立法主旨に反している」とも指摘している。
最高裁判所の上記見解が、知的財産裁判所及び智慧財産局の今後の「訴訟参加」手続き処理に混乱をもたらすことになるか否か、注視する価値がある。蓋し、知的財産裁判所が、いかなる情況下で、智慧財産局に原告を補助して特許権の有効性を守るよう命ずべきか、また、いかなる情況下で、被告を補助して特許無効の立場を後押しするよう命ずべきか、明らかに疑問が残る。とりわけ、智慧財産局の審理する無効審判請求手続がまだ終了していないとき、情況はいっそう難しいものとなる。