ニューズレター
手段機能的な用語で表示される請求項が「明確性」を欠くか否かについての
知的財産裁判所最新判断
2004年7月1日に改正、施行された旧「専利法施行細則」第18条第8項には「複数の技術特徴の組合せに係る発明につき、その特許請求の範囲の技術特徴は、手段機能的又はステップ機能的な用語で表示することができる。特許請求の範囲を解釈するときは、発明の説明において叙述される当該機能の構造、材料又は動作及びその均等範囲を含まなければならない」と規定されている。この規定は2013年1月1日に施行された新「専利法施行細則」第19条第4項と同じである。上記規定に基づいて、手段機能的用語方式で請求項が書かれている特許につき、もしその特許明細書中に「対応する構造、材料又は動作を見つけることができない」場合、旧「専利法」第26条の「発明の説明は、当該発明が属する技術分野の通常知識を有する者が、その内容を理解し、それに基づいて実施することができるように、明確かつ十分に開示しなければならない」という「明確性」の要件(新「専利法」では第26条第1項に規定されている)に合致しない、とする見方がある。知的財産裁判所は2010年1月に作成した98年民専上字第19号民事判決でこの種の主張を採用している。 |
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当該案は特許権者によって上訴された後、最高裁判所が2011年3月31日に100年(西暦2011年)度台上字第480号判決を作成して知的財産裁判所の判決を破棄し、全案を「更審」(※最高裁で原審判決が破棄された場合、高等裁判所に差し戻され、再審理されることになり、これを「更審」という)に差し戻した。但し、知的財産裁判所は、2011年10月に作成した100年民専上更(一)字第5号判決でも依然として同じ理由を以て、当該案係争特許の特許請求の範囲が手段機能的用語に属し、発明の説明中に対応する構造及び材料を見つけることができないため、「明確性」の規範に違反する、と判示している。特許権者は再度上訴し、最高裁判所は2012年10月に101年度台上字第1673号判決において再度原判決を破棄し、「更審」に差し戻した。もともと当該最高裁判所判決には、前述の「手段機能的用語」と「明確性」の問題について多くは触れられていなかったので、知的財産裁判所が2回目の「更審」手続において、当該問題をどのように処理するのか、注視する価値がある。 |
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これに対し、知的財産裁判所が2013年1月24日にその他の特許紛争について作成した行政判決から、裁判所の立場の変化を知ることができるかもしれない。101年度行専訴字第28号判決のなかで、知的財産裁判所は、無効審判請求人が主張する「係争特許の請求項は手段機能で書かれているが、発明の説明中に対応する構造及び材料を見つけることができないため、『明確性』を欠いている」との見解を採用せず、当該案係争特許の有効性を認めた。裁判所の見解は以下にまとめることができる。 |
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特許明細書の発明の説明、図面又は特許請求の範囲をどのように書くべきか、「専利法施行細則」及び「専利審査基準」に規定されているのは、主に形式及び必要記載事項に関するものであり、それが保護しようとする技術思想を一体どのようにして文字で表現すべきかについては、実際のところ、依然として出願人まかせである。特許明細書の記載が「専利法」の十分開示要件又は明確性に関する規定に合致するか否かは、依然として出願人が記載した文字により、特許出願された発明の属する技術分野の通常知識を有する者の基準を以て、その発明の説明が実施可能なものであるか否か、及び、その特許請求の範囲が既に明確であり、かつ裏付けとすることができるか否かを判断しなければならず、純粋に論理型の言語順序でなければならない、又は発明の実施例の全体的な構成について一つ一つ描写しなければならない、と出願人に要求しているわけでは決してない。さもなくば、技術思想の保護といった特許の目的を縮減し、かつ、特許が具体的な実施物しか保護できないよう、その形を変えさせることになり、文字で表彰された技術思想の保護を強調する現在の特許制度と合致しない。 |
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特許主務官庁はそれが制定した「専利法施行細則」及び「専利審査基準」において、発明の説明又は特許請求の範囲の記載方式を定めているが、これはその行政権限に基づくものであり、出願人に対して行う指導、協力又は提案は、行政指導的性質に属し、権力関係を変える公権力行為では決してない。2004年に改正、施行された「専利法施行細則」第18条第8項には、手段、ステップ機能的用語に関する記載方式が規定されている、即ち「複数の技術特徴の組合せに係る発明につき、その特許請求の範囲の技術特徴は、手段機能的又はステップ機能的な用語で表示することができる。特許請求の範囲を解釈するときは、発明の説明において叙述される当該機能の構造、材料又は動作及びその均等範囲を含まなければならない」と規定されており、特許主務官庁はこれにより出願人を指導する。この方式で記載する場合、解釈上はこれらの内容を含むことになるため、もし発明の説明に当該機能に該当する構造、材料又は動作及びその均等範囲が叙述されているのであれば、「専利法」に規定される明確性及び十分開示などの要件に、より合致しやすくなる。但し、手段機能的用語の方式で記載する場合、当該機能の構造、材料又は動作及びその均等範囲などを叙述しなければ、「専利法」の明確性及び十分開示要件に関する規定に合致しない、というわけでは決してない。したがって、たとえ特許請求の範囲が手段機能的用語の方式で記載されていると解釈されたとしても、発明の説明に、当該機能に対応する構造、材料又は動作及びその均等範囲が叙述されていなければ、「専利法」第26条第2、3項に規定される特許要件に絶対に合致しない、という意味ではなく、依然として当該記載が、それが属する技術分野の通常知識を有する者にとって、明確又は十分開示の要件に合致するか否かを見なければならない。 |
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係争特許の発明の説明には既に、係争特許の問題を解決する技術内容及び請求する標的が明記されているため、明確性かつ十分開示要件に合致している。また、係争特許の請求の範囲の独立項のエレメントはいずれも装置であり、かつ、既に、各エレメントのそれぞれの機能及び各エレメント間の作用関係を具体的に特定しているため、「専利法」の明確性要件に合致している。このほか、係争特許の発明の説明、特許請求の範囲及び図面の開示方式は、「専利法施行細則」中の開示フォーマットに関する規定に決して違反していないため、係争特許は「専利法」の規定にも合致している。 |
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上記101年度行専訴字第28号判決に関連する特許の技術分野及び内容は、以前議論された98年(西暦2009年)民専上字第19号などの一連の判決に関連する特許の技術分野及び内容と同一ではないため、そのそれぞれの判決結果は必ずしも一概に論じることはできないだろう。但し、知的財産裁判所は同じ法律主張の異なる案件を処理するなかで、前後して確かに異なる立場を採っており、法律解釈論及び適用論上においても全く異なる見解を採用しているため、将来、もし再び類似する主張のその他の案件があれば、一体どのような処理方式を採用するのか、大いに注目する価値がある。 |