ニューズレター
専利訂正の効力は係属中の無効審判請求行政訴訟に及ぶ
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台湾「専利法」(※日本の特許法、実用新案法、意匠法に相当)には、何人も他人の専利権(※中国語の「専利権」には発明特許権、実用新案権、意匠権の意味が含まれている。「専利」も同様。以下、これらの意味がすべて含まれる又は含まれる可能性のある場合には原文表記とする)につき、智慧財産局に無効審判請求を提出してこれを取り消すことができる、と規定されている。また、法律には、同一の専利権につき無効審判請求を再請求する場合、その理由は異なる事実及び異なる証拠に基づかなければならない、と規定されているのを除き、無効審判請求を提出する回数については特に制限は設けられていない。したがって、専利権者が権利侵害者に対し民事訴訟手続を取って損害賠償を求める主張を行った後、権利侵害者が自ら又は第三者の名義で係争専利権につき複数の無効審判を請求することによって専利権取消しの機会を増やすことは実務上よく見られる。 |
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複数の無効審判請求を受けている情況において、各請求案件の提出時期、審査過程及び終結時点や結果は必ずしも同じではないため、各請求案件が後続の行政救済段階に入る時点も必然的にいくぶん異なる。たとえば、1件目の無効審判請求案件の行政訴訟が既に知的財産裁判所(智慧財産法院)に係属しているとき、2件目の無効審判請求案件は依然として智慧財産局(※台湾の知的財産権主務官庁。日本の特許庁に相当)で審査中であるかもしれず、このとき、専利権者の当該2件の無効審判請求案件についての攻撃、防御方法は、相互に影響を生じる可能性がある。とりわけ、2件目の無効審判請求案件の行政手続き中、専利権者はその専利請求の範囲、明細書又は図面を「訂正」することで、無効審判請求人の主張を克服することができるが、「訂正」がひとたび智慧財産局によって許可されれば、おそらく原有の専利内容は縮減又はより明確にされることになるため、同時期にまだ知的財産裁判所に係属中の1件目の無効審判請求案件の行政訴訟審理対象につき、訂正後の専利内容を基準とするよう改めるべきか否か、疑義がある。 |
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かかる疑義に対し「改めるべきではない」との見解を有する者は、「行政訴訟の目的は、智慧財産局が無効審判請求案件について行った審決の合法性を審査することにあるので、当然、無効審判請求審決時の専利内容を審理対象としなければならず、その後に訂正された専利内容で当時の無効審判請求審決が合法であるか否かを判断すべきではない」としている。これに対して、「改めるべきである」とする者は、「専利の内容が改変された以上、その法律的効力をないがしろにすべきではない」との見解を示している。 |
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この問題について、知的財産裁判所は2011年9月に作成した100年(西暦2011年)度行専更(一)字第8号判決の中で「改めるべきではない」とする立場を採用している。当該行政訴訟準備手続き終結後、智慧財産局は同一の特許権に係るその他の無効審判請求案件につき「無効審判請求不成立」の審決を作成し、特許権者が特許請求の範囲について訂正を行うことを許可した。特許権者はすぐさま「智慧財産局が訂正を許可した」という結果を裁判所に報告したが、知的財産裁判所は「その他の無効審判請求案件の審決がまだ確定しておらず、かつ、『訂正』という結果が口頭弁論終結時にまだ公告されていなかった以上、行政訴訟で審理すべき範囲ではなく、裁判所は依然として訂正前の特許請求の範囲により審査しなければならない」と判示した。 |
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特許権者は「確かに口頭弁論終結前に訂正結果はまだ公告されていなかったが、智慧財産局は法により、ほどなく公告することになっており、必然的に生じる事実である」と考え、前記判決に対し上訴を提出した。最高行政裁判所は特許権者の訴えを認める見解を採用し、2012年11月に101年度判字第1008号判決をもって知的財産裁判所の判決を破棄した。最高行政裁判所の見解は次のとおりである。 |
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無効審判請求人は同一の特許につき繰り返し無効審判請求を提出することができ、これを制限する規定はない。特許権者は、たとえ前の無効審判請求案件が行政訴訟段階に入っていたとしても、これとは別の無効審判請求案件において当然、当該別の請求案件の請求理由を克服するために、係争案の特許クレームの範囲を訂正することができる。 |
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係争特許案件の訂正の効力は、行政救済手続中の前の無効審判請求案件にも及ぶ。有効性に関する行政訴訟においては、別の無効審判請求と異なる結果が生じる可能性を減らすため、訂正公告後の特許権の内容について審理しなければならない。これは行政処分の対世効に基づいて、まだ確定していない案件との矛盾を防ぐために、為された解釈である。 |
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専利法の規定によれば、訂正が特許主務官庁によって公告された場合、直ちに特許出願日に遡って発効する。これは、特許が取消確定された場合にはじめて特許権喪失の効力を生じるのとは異なる。よって、訂正案件の溯及對世効は、一緒に訂正した別の無効審判請求案件が確定するか否かとは無関係である。 |
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最高行政裁判所はこれとは別に、2012年の101年度判字第1007号判決においても、同じ見解を表明している。言い換えると、もし特許権者が後の無効審判請求手続き中に訂正を申請し、その許可を受けて訂正を行った場合、前の無効審判請求案件の行政訴訟では訂正後の特許内容を考慮に入れなければならない。但し、注意すべきは、最高行政裁判所の上記「特許訂正の効力」に係る見解は、依然として裁判所で係属中、かつ、まだ確定していない無効審判請求行政訴訟についてのものであり、もし判決確定後の非常救済手続きであるならば、適用の余地がないという点である。調べたところ、最高行政裁判所は2011年11月に、無効審判請求人が確定判決の結果を不服として提起した再審の訴えについて100年度判字第2082号判決を作成し、智慧財産局の訂正許可が原確定判決の後であったことをもって、「無効審判請求人はこれに基づいて、原確定判決に『法規適用に明らかな誤りがある』という再審事由がある、と認めることはできない。よって、その再審の訴えを却下する」旨の判決を作成した。 |
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