ニューズレター
専利権の間接侵害
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台湾「専利法」(※日本の特許法、実用新案法、意匠法に相当)には、「特許権者の同意を得ないで、当該特許に係る物品の製造、販売の申出、販売、使用又は前記目的のために輸入をした者は権利侵害行為に責任を負わなければならない」と規定されている。現行「専利法」では、直接に上記行為をなした場合にのみ の権利侵害を構成する。台湾の現行法制度には、外国法における、専利権の「間接侵害」又は「寄与侵害」(indirect infringement又はcontributory infringement)に類する概念がなく、専利権者が間接侵害者の責任を主張しようとする場合は、民法の「共同侵害」に係る制度に拠らざるを得ない。 |
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民法第185条には、「複数人が共同して不法に他人の権利を侵害したときは、連帯して損害賠償責任を負う。そそのかした者及び幇助した者は、共同行為者とみなす」と規定されている。ここでいう「そそのかし」及び「幇助」行為とは、他人を「教唆」又は「幇助」して、他人に権利侵害行為をさせる、若しくは他人を手助けして、権利侵害行為の実行を容易にすることを指す。理論上、専利権者は、直接侵害者及び直接侵害行為が存在し、かつ、間接侵害者の「そそのかし」又は「幇助」行為が権利侵害結果の発生に対して相当の因果関係を有することを証明できさえすれば、間接侵害者に共同侵害責任を負わせることができる。また、民法では、同時に全ての連帯債務者に対して損害賠償を請求するか、そのうちの1人又は複数人の連帯債務者についてのみ全部又は一部の損害賠償を請求するのかを権利者が選択することを認めている。そのため、専利権者は間接侵害行為者に対してのみ損害賠償請求の訴えを提起することができる。また、訴訟において、直接侵害者の身分を明らかにする必要はなく、直接侵害者を被告に加える必要もないので、訴訟戦略上、極めて柔軟に運用することができる。 |
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しかし、専利法自体には「間接侵害」の概念が規範されていないので、民法の「共同侵害」制度を運用することができるとはいえ、間接侵害者を被告とする判例は過去の司法実務においてほとんど見られず、ましてや、これまで裁判所が「間接侵害」の法律適用について具体的に見解を示したことがほとんどないことは言うまでもない。智慧財産局は、今回の専利法改正草案の検討の初期段階で「間接侵害」制度を新たに設けることを検討しており、2008年10月には、法改正諮問会議を召集し、各界の識者を招いて、智慧財産局が検討している法律条文の内容について意見提供を受けた。また、2009年7月には、専利間接侵害国際検討会議を開催して、アメリカ、ドイツ、日本及び国内の専門家を招聘して、この議題について議論している。しかし、智慧財産局が2009年8月に経済部に報告し審査を仰いだ専利法改正草案に「間接侵害」は組み込まれなかった(新たな専利法は既に2011年12月に改正、公布されており、2013年1月1日から施行される予定である)。 |
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専利制度には、現在も関連規定はないが、智慧財産法院が2008年7月に設立されて以来、民法の共同侵害の法理を引用して間接侵害者を訴える事例がしばしば見られる。智慧財産法院の判決を見ると、「間接侵害者は権利侵害に対し責任を負わなければならない」という姿勢について既にコンセンサスが形成されていると言える。以下、2012年におけるいくつかの判決を挙げる。 |
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99年民専訴字第59号判決(判決日:2012年6月14日) |
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被告が製造、販売したウェハ製品は、原告の請求項1における技術特徴のすべての構成要素を備えているわけではない点において、そのウェハ製品についての販売の申し出及び販売行為は専利侵害を構成しない。しかし、被告の製品規格書における当該ウェハについての使用説明は、請求項1における技術特徴のすべての構成要素、及び文義に合致していた。裁判所はこれを理由に、「被告は少なくとも文言解釈に合致する権利侵害物の試作版を作製したことがあるはずであるから、権利侵害物を製造、使用する行為を有し、この部分は専利侵害を構成する」と判示した。 |
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特に強調すべきことは、智慧財産法院がこの判決のなかで、最高裁判所の2009年の判決(98年度台上字第1790号判決)の主旨を引用し、「民法上の『そそのかした者』は『故意』を必要とせず、過失により第三者に対し教唆することによって、注意を欠いた第三者に他人の権利を不法に侵害させれば、そそのかした者は共同侵害責任を負わなければならない」と判示した点である。 |
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101年民専上易字第1号(判決日:2012年6月7日) |
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被告が販売する製品には、「本体」と「袋状体」が含まれており、販売時に同時に出荷証明書が交付され、それには、どのように「本体と袋状体」を組み合わせて排水袋にするのか、どのように石を当該袋状体内にセットして使用するのかが図示されている。被告の製品(本体と袋状体)は原告の特許請求の範囲における技術特徴のすべての構成要素を備えてはいないが、使用者が袋状体内に碎石を詰めてセットし、本体と袋状体を結合して一体とすれば、直ちに、特許請求の範囲における技術特徴のすべての構成要素を表現することになる。 |
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前記99年民専訴字第59号判決で、裁判所が「『そそのかし』又は『幇助』行為は『故意』の状況に限定されない」と判示したのとは異なり、本事件の審理を担当した裁判官は、最高裁判所の2003年の判決(92年度台上字第1593号判決)及び著名な研究者である王澤鑑大法官(※大法官とは、台湾では憲法解釈に携わられ、総統に指名され、監察院の同意を経て就任される専門家をいう)が教科書のなかで示した意見を引用して、「『そそのかし』又は『幇助』は必ず『故意』を必要とする」と判示した。本事件の被告は、その出荷証明書の図面は政府公共事業公開入札募集公告及び構想図面説明を参照して作製したものであると主張し、さらに、その「本体」と「袋状体」は、本来それぞれに用途があるため、裁判所は「被告はその主観において自らが製造、販売する係争製品が原告の請求項1の主要な核心的技術内容(essential element)を実施するものであることを知悉しておらず、また、後日、本体と袋状体を結合して一体とし、袋状体内に碎石を詰めてセットすれば、請求項1の範囲に完全に含まれることになることも知悉していなかった。被告に、『権利侵害行為者に助力を与え、権利侵害行為を容易にさせる』という何らかの『幇助の故意』があったと認めることはできない」と認め、裁判所は最終的に「被告は権利を侵害していない」とする判決を下した。 |
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100年民専訴字第69号判決(判決日:2012年5月11日) |
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原告の専利の対象が「装置」であるのに対し、被告が製造及び販売するものはコンピュータ・ソフトウェアであり、原告専利の特許請求の範囲には含まれない。消費者が被告の製品を購入した後、これをコンピュータにインストールして使用した場合にのみ、係争製品をインストールしたコンピュータ装置は原告の専利範囲に含まれる。 |
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裁判所は「消費者には、原告の専利権を侵害する明らかな故意又は過失がないため、権利侵害行為を構成しない」と判示した。本事件に直接侵害行為が存在しない以上、被告の共同侵害行為が成立することはあり得ない。 |
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100年1民専訴字第2号判決(判決日:2012年3月23日) |
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原告の専利範囲は、包装構造装置であり、被告は有名なアニメーションの図案(以下「アニメ図案」)に係る商標権及び著作権を特定商品に使用させることを第三者に使用許諾しており、当該第三者は使用許諾を受けたアニメ図案をその包装構造装置内に標示していた。原告は、第三者の包装構造装置が自らの専利範囲に含まれると考え、被告が第三者への著作権使用許諾を終了しようとしないことを理由に、「被告は権利侵害を幇助しており、共同侵害責任を負わなければならない」と訴えた。 |
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裁判所は「第三者は自ら係争製品の設計、製造及び販売事項について責任を負っている。被告は第三者に、有名なアニメ図案の使用許諾を行っただけであり、原告が主張する係争権利侵害製品への図案の使用を当該第三者に許諾したわけではない」と示した。即ち、被告の権利使用許諾行為と、第三者の権利侵害行為によって原告に生じた損害との間には、相当の因果関係はなく、故意又は過失もないとして、裁判所は「被告は原告の専利権を侵害していない」とする判決を下した。 |
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以上4つの判決はいずれも「直接侵害者及び直接侵害行為が存在しなければならない」、「間接侵害者の教唆又は幇助行為が権利侵害結果の発生に相当の因果関係を有する」などを含む間接侵害責任の要件について論じており、立場も一致している。但し、間接侵害者の教唆又は幇助行為が故意によるものでなければならないのか、又は過失がありさえすればよいのかについては、まだ定説がないようである。この疑義については、今後さらに多くの事例及びそれらの判例研究が待たれる。 |
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