ニューズレター
特許権の「全部維持又は無効」に関する調整及び実務の変更
台湾の現行の「専利法」(※日本の特許法、実用新案法、意匠法を含む)のもとでは、智慧財産局(日本の特許庁に相当)が一部特許」の法律根拠がないため、出願のすべての内容をもって考慮しなければならず、全体について審査した結果、専利権を付与しない事情がないと認めた場合にのみ、専利権を付与することができる。また、専利無効審判においては、智慧財産局が無効審判請求人の主張及び専利権者の答弁を審理して、たとえ一部の請求項についてのみ無効であると認められるとしても、現行の専利関連法規には、「一部特許」の法的根拠がないので、全体について無効審判成立を審決することしかできない。こうした、「専利一体不可分性」に基づいて派生する「全案准駁原則」(※特許権全体について維持又は無効の審決を下す原則)は、現在、実務上の慣行的な取扱いとなっている。 |
最高行政裁判所は、2010年11月25日に作成した99年(西暦2010年)度判字第1261号判決のなかで、智慧財産局が無効審判の審決において全ての請求項が無効であると認め、かつ、知的財産裁判所が行政訴訟において一部の請求項のみ無効であると認めた事件に対し、上記の「全案准駁原則」に基づき、智慧財産局の下した「全部無効」の審決を維持するとともに、その理由を「裁判所にも、一部をもってその審決を取り消すことのできる、いかなる法律根拠もない」と説明した。また、最高行政裁判所は「原処分を取り消し、智慧財産局に差し戻すことによって、専利権者に、知的財産裁判所が有効であると認めた一部の請求項について再度応答及び訂正する機会を与えるべきである」とする専利権者の主張については、この判決のなかで、「かかる主張には根拠がない」とはっきりと述べている。 |
上記の「全案准駁原則」は、2011年4月6日に立法院(日本の国会に相当)第一読会を通過した「専利法」改正案においても、重大な改正点となる。上記の改正案の第75条第2項及び第81条第2項の規定によれば、専利権が2以上の請求項を有する場合、一部の請求項につき無効審判請求を提起することができ、また、無効審判の審決は請求項ごとにこれを行わなければならないと規定されている。これに準ずると、一旦「専利法」改正案が正式に可決、施行されれば、将来、智慧財産局は、現行のいわゆる「専利全体性」及び「全案准駁原則」の制限を受けることはなくなり、一部の請求項について無効審判の成立/不成立の審決をすることができるようになる。但し、この改正案は、まだ立法院を通過しておらず、いつ施行されるのかも明らかでない。 |
最高行政裁判所は、2011年6月3日に作成した100年(西暦2011年)度判字第896号判決で、前記の99年(2010年)度判字第1261号判決と類似する情況の事件(即ち、智慧財産局が無効審判の審決において全ての請求項が無効であると認めたものの、知的財産裁判所が行政訴訟において一部の請求項のみが無効であると認めた事件)について、全く異なる取り扱い方式を採用している。最高行政裁判所は当該判決のなかで、次のように説明している。 |
「『全案准駁原則』に基づけば、行政裁判所が行政訴訟において請求項ごとに審理した結果、たとえ一部の請求項のみ無効であると認めたとしても、一部勝訴/一部敗訴の判決を下しようがない。このように、『逐項審査』(※請求項ごとに審理する)制度は、行政訴訟において実質的な意味がないと言える。よって、このような場合、行政裁判所は、専利主務官庁が許可すべき一部の請求項につき、無効審判手続きにおいて、『専利審査基準』の『無効審判請求』の部分に定められている『専利主務官庁は、まず職権で専利権者に応答を述べるよう又は訂正するよう通知しなければならない』という義務を果たしていないことを理由に、その無効審判成立の審決は違法であると認め、これを取り消さなければならない。 |
これに基づけば、専利権者は、再度応答及び訂正する機会を得て、その専利権効力の存続を確保することができるようになる。 |
最高行政裁判所の前記100年(西暦2011年)度判字第896号判決に引用されている「専利審査基準」を詳細に見ると、その真意は、「専利主務官庁が無効審判手続きにおいて、一部の請求項のみが『特許性』を具えないと認める場合は、まず、職権で専利権者に応答又は訂正するよう通知しなければならず、応答も訂正もしない、又は訂正後も依然として当該一部の請求項が『特許性』を具えない事情を解消することができないとき、専利主務官庁は全部について無効審判成立の審決を下さなければならない」旨を規範することにある。過去の実務では、この基準を「智慧財産局の審査に限って、一部の請求項のみが『特許性』を備えないと認める場合」に適用し、全ての請求項について、いずれも「特許性」を備えないと認める場合には、まず、応答又は訂正するよう通知する必要はない、と解釈されてきた。前記2つの判例にかかわる事実は、いずれも、智慧財産局が無効審判において全ての請求項がいずれも無効であると認めるものである。しかし、最高行政裁判所は100年(西暦2011年)度判字第896号判決のなかで、前記の「先行通知」規範の拡大応用を通じて、現行の「全案准駁原則」の制限があるなかで、専利権者に応答及び訂正の機会を与え、専利権者に対する保障をさらに充実させた。 |
以上に述べたように、既に「全案准駁原則」を採っていない「専利法」改正案ではあるが、まだ可決、施行に至っていない。行政裁判所は、既に明らかに法改正の趨勢を考慮に入れているため、最近の判決でも、これまでとは異なる姿勢で、専利権者が自らの専利権を守ることができるようにしている。 |