ニューズレター
商標の善意の先使用に地域制限はない
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「他人の商標の登録出願日前に、善意で同一又は類似の商標を同一又は類似の商品若しくは役務に使用する場合、他人の商標権の効力による拘束を受けない」ことは、商標法第30条第1項第3号に規定されている。しかし、当該条項のただし書には、別途、「原使用の商品又は役務に限る」と規定されている。商標法第30条第1項第3号の規定によれば、善意の先使用者は先に使用した商標を原使用の商品又は役務に引き続き使用することができる。 |
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現在、実務において、比較的争いとなるものは、商標の善意の先使用には、地域に係る制限があるか否か及びその製造・販売規模を拡大することができるか否か、という点である。たとえば、善意で先に使用したもとの地域が台北市であった場合、その他の地域に拡大して使用することができるか否か、及びもともとは1店舗でのみ使用していた場合、複数の店舗に拡大して使用することができるか否か、といった疑義がある。 |
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知的財産裁判所は2009年の刑事判決(98年度刑智上易第40号)で具体的な商標権の権利侵害事件につき、「商標法第30条第1項第3号改正前の条文は立法院の『二読会』で『原製造・販売規模』という言葉が削除されており、このことから、当該法条の『原使用の商品又は役務に限る』という一文には、製造・販売規模の制限がないことがわかる」と判示している。しかし、いわゆる「製造・販売規模」の意味については、結局のところ、それが「店舗数」の制限を指すのか、或いは「地理的な区域」の制限を指すのか、言い換えると、善意の先使用者は商品又は役務を提供する店の数を増やすことができるのか、異なる地理的区域に支店を開くことができるのかについては依然疑問が残る。 |
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「法改正『二読』時に『製造・販売規模』という語が削除されたのは、支店数の制限緩和のみを意図するものであり、決して地理的な区域の拡張には及ばない。したがって、開設した支店の地理的区域がもとの店と過度に離れている場合は、善意かつ合理的な使用であると認めるべきではない」とする実務見解がある。 |
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知的財産裁判所は、「立法過程で意図的に『原製造・販売規模に限る』という語が削除された以上、『原使用の商品又は役務に限る』という語を、製造・販売又は経営規模の制限にまでさらに拡張できるとは認め難い」と判示している。つまり、本法条の法改正過程において「原製造・販売規模に限る」という語が削除された以上、原製造・販売規模を制限しようとはしていないことを意味しており、よって、改正後の法条に記載されている「原使用の商品又は役務に限る」という語には、地理的区域及び業務規模に係る制限はないと解釈しなければならない。本条項に地理的区域及び営業規模についての制限がない以上、「罪刑法定主義」の原則に従い、自ら拡張解釈して善意の先使用者の権利を過度に制限し並びに刑法の適用を拡張すべきではない。 |