ニューズレター
競業禁止は必ずしも代償措置を要件としない
一般に競業禁止特約とは、労働者が在職期間中に獲得する営業秘密又は商業利益と関係のある秘密情報が当該従業員の在職期間中又は離職後に不当な方法で開示され使用者の利益が損なわれることのないように、使用者と労働者が、労働者の在職期間中及び離職後一定期間内、当該使用者の会社と競争関係を有する会社に就職し、過去、原使用者のもとで就業していた期間中に知り得た技術又は業務情報を利用し、競業行為に従事することができない旨取り決めたものである。
民法第562条、「会社法」(「公司法」)第32条、第39条、第54条、第108条及び第209 条等の条文には特定職務労働者の在職期間中の競業禁止については明文規範が置かれているものの、現時点において現行法制には、一般労働者の在職期間中又は全ての労働者の離職後の競業禁止問題について準拠となる如何なる明文規定も置かれていない。
過去において裁判所の実務上の大多数の見解では、競業禁止特約の有効性の審査に際しては、(1)前企業又は使用者に競業禁止特約により保護する必要のある利益が存在する、(2)労働者の前使用者の会社での職務及び地位が主要経営幹部であり、その職務技能が比較的低いものではないため上記の正当な利益を知り得、或いは特別な技能、技術を有し、且つ前使用者の関連機密に接することができる、(3)労働者が過度に困難な情況に陥ることのないよう、労働者転業制限の対象、期間、区域、職業活動の範囲は合理的な範囲を超えてはならない、(4)労働者が競業禁止によって被る損害を補填するような代償措置の存在がなければならない、といった4つの要素を考慮しなければならないとされていた。離職後の労働者の競業行為が顕著な背信性を有するか否か若しくは信義誠意原則に顕著に違反するか否かについては、個別案ごとに、まず競業禁止約定が有効であることをまず確認した後、違約金の基準を斟酌する。
労働者が競業禁止によって被る損害を補填するような代償措置の存在の有無が、競業禁止特約の有効性を考慮するための必要基準の1つであるか否かについて、実務見解はかなり分かれ、過去においては代償措施を欠いているために競業禁止特約は無效と認定された案例が少なくなかった。しかしながら、台中地方裁判所2005年度訴字第358号民事判決は、最高裁判所2005年度台上字第1688号民事判決の見解を引用し、「代償措置と競業禁止義務との間には対価関係の必然性はなく、これを以って有効要件とするのは妥当ではない」と判示した。この判決が実務上において多くの見解の変更を誘発するか否か、着目していきたい。