ニューズレター
台湾における団体訴訟法制の発展
「財団法人証券投資人及期貨交易人保護中心」(「財団法人証券投資家及び先物取引家保護センター」、以下「保護センター」とする)が2004年に投資家に代わって提起した、あるインサイダー取引民事賠償請求訴訟につき、今年1月に台北地方裁判所は、保護センター側勝訴の判決を下した。これは当該保護センター成立以来、第1号のインサイダー取引民事賠償請求訴訟勝訴の先例となり、証券市場における不法行為に対する賠償請求の訴えにとって、大きな指標的意義をもつ。
前述のような保護センターが投資家に代わって提起する訴訟形態は、いわゆる団体訴訟である。個人が主体となって提起する訴訟と比べてみると、団体訴訟には、(1)団体訴訟のほとんどが消費者関連の事件、公害事件及び投資取引事件など被害者数の多いタイプの案件において提起されている、(2)団体訴訟は同一事件の被害者が個別に訴訟を提起する状態を回避することができ、ひいては当事者の挙証責任及び審理に係る裁判所の負担を軽減することができる、といった特色がある。
我が国の法制上の団体訴訟に関する規定は、大まかに次のように区分することができる。
1.消費者関連の事件:消費者が商品の瑕疵又はサービス不良により損害を受けた場合、通常その人数は多く、損害を受けた消費者が個別に訴訟を提起すれば、当然、裁判所の負担は非常に重くなるため、この種の案件には団体訴訟を行う必要がある。消費者保護法第50条第1項には「消費者保護団体は同一の原因の事件について、多数の消費者が損害を受けているとき、20人以上の消費者から損害賠償請求権を譲り受けた後、当該消費者保護団体の名義で訴訟を提起することができる。消費者は最終弁論前であれば、訴訟参加を取り消すことができ、並びにかかる取消の事実を裁判所に通知する」と規定されている。したがって、消費者関連事件の被害者は本条の規定により団体訴訟を提起することができる。
2.公害事件:環境汚染を例に採ると、それによって生じた損害は、通常、特定地区の居住者全体がこれを受けるもので、その人数は非常に多く、且つ損害を受けた原因が類似しており、団体訴訟を通じて紛争解決する必要がある。したがって、民事訴訟法第44条の1には「多数の共同利益を有する者が同じ公益社団法人の構成員である場合、定款に規定されている目的範囲において、当該公益法人を選定人として、訴訟を提起することができる。法人が前項規定により当該法人に所属する者のために金銭損害賠償の訴えをするとき、構成員のすべてが被告が支払うべき総額を判定することに書面により同意し、且つ支払い総額の分配方法について協議が成立している場合には、裁判所は、被告が各構成員に支払われるべき金額をそれぞれ個別に認定することなく、被告が構成員全体に支払うべき総額についてのみ裁判することができる」、と規定している。したがって、公害事件の被害者は本条規定により団体訴訟を提起することができる。
3.証券・先物取引事件:証券及び先物市場は、投資家及び取引家が分散しているため、同じ原因事実で生じた損害に対して、往々にして資源上の制約から賠償請求意欲も低い。また、投資家又は取引者が訴訟を提起した場合、裁判所の負担は非常に重くなる。そこで、「証券投資人及期貨交易人保護法」(「証券投資家及び先物取引家保護法」)第28条には「保護機関は公益を守るため、その定款に規定されている目的範囲内において、多数の証券投資家又は先物取引家が被害を受ける事態を招いた同一の証券、先物取引事件について、20人以上の証券投資家又は先物取引家から訴訟又は仲裁遂行を授権された場合、当該保護機関の名義で起訴又は仲裁を行うことができる」と規定されている。したがって、証券投資家及び先物取引家は本条の規定により団体訴訟を提起することができる。
以上の3形態の団体訴訟はいずれも我が国の実務上、関連する先例が存在する。証券・先物取引事件の団体訴訟を例に採ると、「証券投資人及期貨交易人保護法」が2003年1月1日に施行された後、保護センターが投資家のために団体訴訟を提起するケースは増えてきており、投資家は不実の財務報告、インサイダー取引及び株価操縦などの原因について、保護センターを通じて、不法行為に従事した会社の取締役・監事に損害賠償を請求することができ、且つ当該保護センターが提起する団体訴訟において原告側が勝訴するケースが増えつつある。
伝統的な訴訟形態は個人を単位としているため、訴訟法上の挙証責任及び審理手続きに関連する規定は全て個人を念頭に考慮、設計されている。団体訴訟によっていかに裁判所の負担を軽減していくかという目的と共に、さらに一歩進めて原告及び被告双方の利害の調和が重要な課題となっている。