ニューズレター
技術による投資に関する新規則
立法院は今年1月7日、「促進産業昇級條例」(「産業高度化促進法」)に第19条の2及び第19条の3を新たに加え、特許権及び専門技術による株式取得の各種課税基準を規定した。財政部が2003年10月1日付通達において、「2004年1月1日から、技術など無体資産を以って株式を取得し、所得を得た場合、当該年度に所得税を申告しなければならない」との解釈を示したことが、今回の改正をもたらした。これに対し産業界は、「評価価値による出資の時点では所得をまだ得ていないため、出資者に納税能力はなく、財政部の方針は知的財産権及び人材資源の発展に弊害をもたらす」との見解で一致している。経済部は改正「促進産業昇級條例」を近日中に提案し、課税規定を適切に調整する。
第19条の2の規定によると、2004年1月1日以降、特許権又は専門技術を株式の対価として、台湾の会社に譲渡若しくはライセンシングを行った場合、(1)投資先の会社が新興産業であり、且つ取得した特許権若しくは専門技術を当該会社が自ら使用するか、若しくは(2)評価価値による株式取得の比率が、株式取得後の発行済み株式総数の20%以上に達し、且つその株主(即ち、当該時、特許権又は専門技術の評価価値を以って株式を取得した株主)が5人以下であると経済部が認めた場合、課税を5年繰り延べることができる。5年以内に株式を譲渡する場合は、譲渡時に課税する。
第19条の3の規定によると、2004年1月1日以降、台湾の新興産業の会社の董事の3分の2以上が出席する董事会において過半数による決議を経て、特許権又は専門技術による出資者に株式引受権を発行した場合、株式引受権を行使した年度に所得税を課税する。しかし、株式引受権の行使期間は、発行後5年未満又は以上となる可能性があり、また株価下落のために株式引受権を行使しない可能性もあるので、前条即ち第19条の2が規定する期間は、短縮若しくは延期され、場合によっては株式取得が行われず、課税問題が生じないこともありうる。
今回の条文追加は、財政部がこれまでの「株式取得年度=所得の実現した課税年度」とする考え方を、「株式取得年度は所得を計算する年度だが、課税年度ではない」と変更したことを示すもので、特許・技術の評価価値によって株式引受権を取得した場合は、「株式引受権取得年度に所得がなければ、所得が実現する行使年度が課税年度となる」。
今回の改正を理解するには以下の点に留意しなければならない。
1.改正条項は特許権及び専門技術の評価価値による出資についてのみ規定するもので、財政部通達の「技術など無体資産」のように各種の無体資産(商標、商号など)を広く含む場合とは異なる。
2.専門技術とは技術方法を指し、技術サービスではない。前者が財産取引所得であるのに対し、後者は労務報酬又はその他の所得と見なされる。つまり、技術方法の評価価値による出資は財産出資に属し、技術サービスの評価価値による出資は労務出資の形式と見なされる。技術サービスによるものは前掲の財政部の解釈の対象ではなく、本条例の新条項が規定する範囲にも入らない。
3.「新興産業の会社」は本条例第8条及び第9条が規定する「新興重要戦略性産業の会社」ではないため、この規定は新興重要戦略性産業の製造業及び技術サービスに属する業種には適用されない。これらの業種については、経済部の法律による授権によって関係主務官庁が検討し決定する。
4.所得の計算について本条例第19条の2は「評価価値を以って取得した株式は所得税法によってその所得を計算する」と規定しており、第19条の3は「評価価値を以って取得した株式引受権は、権利行使日の株価が発行価額(約定価格)を超過したとき、差額を所得とする」と規定している。前者は、時価があれば時価によって、時価がなければ額面又は実際価値によることを原則とし、後者は時価によって所得を計算すると明記しているが、大部分の評価価値による株式取得には時価がないため、おそらく「権利行使日の実際の株価」、若しくはその他の条件で額面によって計算することになるかもしれず、これについては今後の課税実務の状況に応じて決定されるだろう。
5.個人が所有する特許権又は専門技術の評価価値による出資の場合どのように所得を計算するかは、新しい規定によると、取得コストを提示できない場合は、株式引受金額の30%を控除するか、若しくは権利行使日の標的株式の時価から発行価額を差し引いた金額の30%によって計算する。つまり、所得額は70%となる。
6.徴税制度に関しては、会社は、株主がその引き受ける株式を譲渡するか、若しくは課税延期期間が満了するか、若しくは株式引受権を行使した年度の次の年度の1月末以前に、関連する課税資料を徴税機関に提出し申告しなければならない。これに違反するものは所得税法第111条第2項の規定により処罰される。
上記の規定をまとめ課税効果を分析すると、評価価値による出資金額は株式を直接取得した株式の価値又は最初に取得したストックワラントの価値に相当していなければならない。第19条の3によると、ストックワラントの発行価額は、「公司法」(「会社法」)第140条の額面金額を下回ってはならないとする規定の制限を受けないため、ストックワラントの発行価額を、単なる象徴的金額(1元など)とすることも可能である。
これによれば、評価価値による出資時の株価を100台湾元と仮定すると、直接株式を取得するケースにおいては当年度の所得は100台湾元として計算され、その後、課税を5年間延期する規定を適用した場合、5年後に該株式が全く無価値であっても納税しなければならないことがわかる。
これに対し、ストックワラントを発行し、株式引き受け価格を1台湾元とする場合、評価価値出資時に特許権者若しくは専門技術所有者に99台湾元の価値の所得を与えたことになり、将来1台湾元で現在既に100台湾元の価値のある株式を取得することができる。但し、この種のストックワラントは譲渡してはならない旨の制限があり、権利を行使するまで所得は生じないため、その99台湾元は現在の所得として計算されない。所得の有無は株式引き受け時の株価によって決定され、仮に株式引き受け時の株価が60台湾元まで下がっていれば、所得を59台湾元として所得税が課税される。したがって、新たに追加された2項の条文は、課税時点が異なるだけでなく、課税の結果もまた異なる。株式引受け時の株価を150台湾元と仮定すると、上昇した50台湾元は、直接株式を取得した場合においては免税の証券資本所得となるが、ストックワラントを発行した場合においては評価価値出資の課税規定が適用され、課税所得は149台湾元となる。
このほか、所得税法第4条第21号の規定によると、外国の営利事業者が所有する特許権や商標権、使用許諾対象となる各種の権利を使用して権利金を支払う場合、一定の条件で免税され、そのうち「使用許諾対象となる各種の権利」には専門技術も含まれる。免税要件の1つは「資本金とせず、一定の権利金又は報酬を取得することを約定する」ことであるため、外国の営利事業者が特許権又は専門技術を台湾の営利事業者に使用許諾する場合、「評価価値による出資」か「権利金報酬の単純取得」であるかによって「課税」若しくは「免税」の差が生じる。評価価値による出資に該当する状況にのみ、上記の財政部の解釈や本条例の新条文が適用される。
また、無体資産の評価価値による投資の所得を「財産取引所得」とする財政部の解釈は、「所有権移転」を指している可能性もあるが、明確な説明は行われていない。本条例は、使用(権)を「譲与」又は「ライセンシング」することを含むと明確に規定し、財産取引所得と権利金所得を「混同」して同一の課税方法を適用するものであり、台湾の納税義務者に適用上の疑義をもたらすことは基本的にないだろう。
しかし外国の納税義務者にとっては疑義が生じる虞がある。例えば、外国の会社が外国特許権(専門技術と見なされる)を台湾の会社に譲渡して株式を取得した場合、取引される財産が台湾国内にあるわけではないので、財産取引所得の判断基準に従うと「中華民国(台湾)に由来する所得」ではないことになる。このようなケースの課税方法はどのように規定すればよいのだろうか? また、ライセンシングはなぜ現金を取得すれば権利金所得となり、株式を所得すれば財産取引所得となるのだろうか? 権利金所得の場合、各種の権利を台湾国内において他人の使用に提供しているか否か、中華民国に由来する所得を構成するか否か、本法は、権利金所得と財産取引所得に課税延期規定などを設けているが、「評価価値による出資」の課税規定に限定し、国内の財産出資に限るべきではないのか?その場合、国外の財産出資についてはいかに法令に組み入れ、その課税・免税を決定するのか否か、前述の時価、実際の価値、額面の所得計算基準についてもさらに詳しい説明が待たれる。