ニューズレター
大量解雇労働者保護法の企業への影響
大量解雇労働者保護法は2003年2月7日に公布され、新しい法規定に対応するための猶予期間を事業単位に与えるため、該法は公布日の3ヶ月後から施行される。本法は主に、事業単位が労働者大量解雇の定義に該当する解雇を実施する前に遵守すべき手順を規定するものである。これには、事前に労働組合又は労働者代表に解雇計画書を提出する通知義務、誠実交渉義務、従業員の再就職のサポート、従業員の給料を滞納、退職金又は解雇手当準備金不足の場合の責任者の出国制限、及び財務帳簿関連資料を提出して説明するなどの義務を含み、規定に違反した場合、NT$30,000からNT$500,000の行政罰則金が課される。本法施行は企業の労資関係及び人事コストに大きな波紋及び影響を与えるものと思われる。該法の重点及び派生する法律問題について以下に述べる。
1.「労働者の大量解雇」とは何か
(1)「労働者の大量解雇」の定義
本法にいう「労働者の大量解雇」とは、事業単位が労働基準法第11条各号いずれかの事情を有する(即ち、雇用主が、営業停止、営業譲渡、欠損、業務縮小、業務性質の変更又は労働者が業務に堪えることができないなどの法定事由により従業員を解雇すること)、又は合併・買収、組織変更のために従業員を解雇し、かつその解雇した従業員の人数及び比率が次のいずれかの基準に達する(従業員数の計算には、定期契約の従業員を含まない)ものを指す。
①同一の事業単位における同一の事業所を計算単位とする場合。(a) 従業員数が30人未満の場合、60日以内に解雇する従業員数が10人を超えるとき。(b) 従業員数が30人以上200人未満の場合、60日以内に解雇する従業員数が全従業員数の3分の1又は1日で20人を超えるとき。(c) 従業員数が200人以上の場合、60日以内に解雇する従業員数が全従業員数の3分の1又は1日で50人を超えるとき。
②同一の事業単位で雇用する総従業員数を計算単位とする場合。500人以上の従業員を擁する事業単位が、60日以内に全従業員数の5分の1を超える数の従業員を解雇するとき、本法を適用する。
(2) 従業員数に関する疑義
本法には、「同一の事業単位」及び「同一の事業所」に関する定義がないため、企業は、解雇が本法にいう「労働者の大量解雇」に当てはまるのか否かをどのように計算すればよいのかという疑問が生じる。本法第1条には「本法に規定がない場合、その他法律の規定を適用する」と規定されており、労働基準法第2条第5号の規定によれば、いわゆる「事業単位」とは、本法(即ち、労働基準法)の労働者を雇用して業務に従事させる各種機関を指すと規定されている。内政部の解釈によれば、同一事業単位には本部及び支部を含むとされている。また、司法院は、事業単位とは会社、企業及び商店全体を指すものであり、会社、企業及び商店内部の所属部門を指すものではないとの見解を示している。
同一の労働現場」という言葉は労働組合法(「工會法」)に見られ、労働組合法の「同一の労働現場」の解釈に関して労働委員会が作成した通達によれば、「同一の労働現場」とは工場及び鉱山を指す以外に職場をも含むとされているが、「職場」についてさらなる定義はなされていない。「職場」という言葉と類似するものについて現行の法令を調べてみると、「場所単位」という言葉もあり、内政部及び労働委員会の通達によれば、「場所単位」とは経済活動を構成する主体(工場、農場、事務所等)を指し、租税機関の検印のある会計帳簿を備えているか、又は単独で各種事業登記を行うことができるかを以って判断する。
したがって、本法にいう「事業単位」とは、会社、企業又は商店全体を指す。「同一の労働現場」に前述の「場所単位」の解釈を適用することができるか否か、或は一般に労働者の職場を指すのか、現時点では不明である。事業単位が従業員数を計算する際に適用する基準は、本法の最も根本的な問題でもあり、特に企業が他の会社の一部の営業又は資産を買収し従業員を解雇する必要があり、従業員数を計算する場合、結局、同じ事業単位の同じ労働現場を従業員数の計算単位とすべきなのか、或は従業員数が500人以上の事業単位にしか適用しないと判断するのか、主務機関による時機に適った、かつ一歩踏み込んだ説明が待たれる。
(3) 解雇従業員数に関する疑義
本法は、事業単位が合併・買収、組織変更のために従業員を解雇する場合に適用される。但し、合併・買収又は改組時に、新旧使用者による協議により留任と決まった従業員がそれを拒絶した場合に関しては、企業合併・買収法の規定及び労働委員会の解釈によれば、旧雇用主は労働基準法に基づいて、留任を拒絶した従業員との労働契約の終了を予告し、並びに該従業員に解雇手当を支払わなければならない。しかし、該留任を拒絶した従業員は、新旧使用者の協議により留任が決まっていた者であり、決して解雇リストに名を連ねていたわけではない。したがって、該留任を拒絶した従業員数を本法にいう解雇従業員数に加えるべきか否かについても疑義がある。
本法第1条に規定される立法目的が、事業単位が事前に従業員の大量解雇を伝えなかったがために従業員の権益が損なわれる又は損なわれる虞がある事態に至ることを避けるため、該法を制定して、雇用主に対し、事前に解雇計画書を提出して労働組合又は従業員代表にこれを通知するとともに、それらとの話合いの場を設けるよう要求することにある以上、その立法趣旨には新旧雇用主の留任する従業員を含まないとするのが合理的な解釈であるようである。本法規定から、雇用主が事前に提出する解雇計画書には、解雇対象の選定基準を明記しなければならず、かつ従業員の大量解雇の日の60日前までに労働組合又は従業員代表にこれを通知するとともに、それらと協議が行われなければならないことは明らかである。
一歩譲って、留任を拒絶した従業員数を計算に入れるべきであるとするのであれば、以下のような矛盾が生じることになる。同法によれば、従業員の大量解雇日の60日前までに解雇計画書を提出するとともに労働組合又は従業員代表にこれを告知しなければならない。しかしながら、企業合併・買収法の規定によれば、新旧雇用主は合併・買収基準日の30日前に書面を以って留任通知を送付しなければならず、留任通知を受領した従業員は通知受領日から10日以内に留任に同意するか否かを表明しなければならず、期限を過ぎても通知しない場合、留任に同意したものと見なすと規定されている。つまり、旧雇用主は合併・買収基準日の20日前にならなければ該従業員が留任を拒絶するのか否かを確定することができないことになり、大量解雇労働者保護法と企業合併・買収法の適用時期が整合せず、実務を進める上で混乱を招くことになる。
以上をまとめると、前述の留任を拒絶した従業員数は大量解雇労働者保護法にいう解雇従業員に当たらないように思えるが、この点については、主務機関のさらなる解釈が待たれる。
2. 解雇計画書通知義務
本法の最も重要な目的は、使用者が従業員の大量解雇を事前に通知しなかったがために起こる労使紛争を防ぐことにある。したがって、中央主務機関が指定する産業以外、従業員大量解雇に当てはまる事業単位は全て、大量解雇日の60日前に解雇計画書を主務機関及び労働組合、労働会議の労働者側代表又は大量解雇部署に所属全従業員に通知するとともに、これを公告掲示しなければならない。但し、天災、騒乱又は突発的な事件が理由である場合には、この60日という制限を受けない。事業単位がこの通知義務に違反した場合、NT$100,000以上NT$500,000以下の行政罰則金が課される。
事業単位が提出した解雇計画書の内容には、解雇理由、部署、期日、人数、解雇対象の選定基準、解雇手当の計算方法及び転職指導プラン等の事項を記載しなければならない。事業単位が一部の従業員を解雇する場合、その解雇対象の選定基準をどのように制定すべきであるのか、法には明文規定がないものの、主務機関の解釈では、事業単位がリストラを行う必要がある場合、労働組合の組合員をできるだけ優先的に留任すべきであるとしている。しかし、従業員が労働組合に加入するか否かは、従業員が積極的又は消極的に結社自由に関する権利を行使するか否かに関わる問題であり、両者の雇用時及び解雇時の権利は同じように保護されなければならない。
このほか、本法の規定によれば、事業単位は人種、言語、門地、思想、宗教、政党、出身地、容貌、身体的及び精神的な障害の有無、年齢及び労働組合活動の有無を理由に従業員を解雇することはできない。規定に違反する雇用関係終了は無効であり、主務機関は、期限を定めて事業単位に対し解雇した従業員の復職を命じることができる。期限を過ぎても依然として復職が認められない場合、主務機関は解雇された従業員の訴訟追行をサポートし、かつ特別支出金を設けてこれを補助することができる。この規定は、就業機会均等の精神に基づくものであるが、その範囲は決して明確でない。したがって、事業単位は、解雇対象の選定基準をどのように制定するか、従業員の年収、給与、職階、業務成績、試験成績又は協力度を直接解雇対象の選定基準とすることができるか否か、よく検討する価値がある。
3. 協議義務
労使双方は解雇計画書を提出した日から10日以内に協議を行わなければならず、双方が協議を拒絶した場合、又は協議したものの合意に至らなかった場合、主務機関は当事者が申請した日から10日以内に労使双方から構成される協議委員会を招集しなければならない。協議委員会は、5名~11名の委員から成り、主務機関から委員長として任命派遣されてきた代表者1名並びに労使双方それぞれ同数の代表から構成されなければならない。労働者側代表は、労働組合がある場合には労働組合が、労働組合がなく労資会議がある場合には労資会議の労働者側代表が、労働組合も労資会議もない場合には事業単位の通知によって影響を受ける従業員全員がこれを推薦選出する。事業単位が協議を拒絶した場合、又は全労働者から推薦選出された労働者側代表に通知しなかった場合、NT$100,000以上NT$500,000以下の行政罰則金が課される。
協議委員会は少なくとも2週間に1回招集されなければならず、協議委員会の協議が成立した場合、その効力は従業員1人1人に及ぶことになる。しかし、本法には、協議委員会がどのように協議を成立させるかに関する規定はない。したがって、決議方法について多数決又はコンセンサス方式のいずれを採用するのか、現時点ではわからない。しかし、現在の主務機関の見解を見る限りでは、コンセンサス方式の採用が該法の目的に合致すると解釈する傾向にあるように見受けられる。
このほか、協議委員会が解雇日前に労使双方間の協議を成立させることができなかった場合、その解雇効力はどうなるのか? 事業単位が確かに法定事由を有して従業員を解雇し、かつ解雇する従業員の選定基準が前述の就業機会均等規定に違反しておらず、また解雇手当、退職金も既に労働基準法、業務規則、労働契約又は団体協約規定により給付している場合には、労使双方が解雇日になっても解雇契約書について協議を成立させることができなくても、雇用関係は、有効に終了するものとする。紛争がある場合、労使双方は労使紛争処理法によりこれを解決する。
4. 従業員の再就職のサポート
本法の規定により、使用者は、解雇する従業員の再就職をサポートする義務を負う。該法の規定によれば、主務機関は、協議委員会成立後、就職サービススタッフを職場に派遣し、労使双方をサポートして就職サービス及び職業訓練に関する情報を提供しなければならない。使用者はこれを拒絶することができないほか、従業員が就職サービススタッフの個別サポートを受けることができるよう時間を配分しなければならず、この規定に違反した場合、NT$100,000以上NT500,000以下の行政罰則金が課される。このほか、事業単位が従業員大量解雇後に業務性質の似通った従業員を雇用する場合、該事業単位が大量解雇した従業員を優先的に雇用すべきである。
5. 代表取締役及び実際の責任者の出国制限
事業単位が従業員を大量解雇し、従業員の退職金、解雇手当て又は給料の滞納が一定の人数及び金額に達しているため、主務機関が期限を定めてこれらを給付するように命じたにもかかわらず、該給付期限を過ぎても給付がなされていない場合、董事長(取役締会議長)及び実際の責任者の渡航を制限することができる。但し、事業単位が、①相当の担保を提供している場合、②解散決算後、給付に当てることのできる余剰財産がない場合、③滞納金額が既に破産手続により配当完了している場合には、主務機関は、代表取締役及び実際の責任者の渡航禁止処分を解除することができる。
6. 財務諸表及び関連資料の提供
このほか、本法は、従業員数が30人以上の事業単位は、従業員の大量解雇に当たらないが、以下のいずれかの事情を有する場合、関連単位は、該法に従い通知義務を有すると規定している。
(1) 従業員数が200人未満の事業単位で、従業員の給料を2ヶ月以上滞納している場合、又は従業員数が200人以上で従業員の給料を1ヶ月滞納している場合、労働組合又は従業員が主務機関に通知する。
(2) 労働保険保険料、未払い給与補償基金又は全民保険(日本の国民健康保険に相当)の保険料等を2ヶ月以上滞納しており、かつ該滞納額がそれぞれNT$200,000以上である場合、労工保険局(労保局)及び国民健康保険局(健保局)が主務機関に通知する。
(3) 全ての又は主要な営業を停止する場合、労働組合又は従業員が主務機関に通知する。
(4) 合併・買収が決議された場合、労働組合、従業員又は事業単位が主務機関に通知する。
(5) 最近2年間に重大な労資紛争が発生した場合、労働組合又は事業単位が主務機関に通知する。
前述の関連単位の通知は強制規定ではなく、かつ罰則もないが、主務機関は、関連単位から通知を受けてから3日以内に事業単位に対し財務諸表等の関連資料を提出し説明するよう命じることができる。事業単位がこの規定に違反した場合、NT$30,000以上NT$150,000以下の行政罰則金が課される。事業単位が合併・買収を決議した場合に関しては、通知する単位として事業単位のほかに労働組合又は従業員も含まれているが、合併・買収は企業の経営権限に属し、労働組合又は従業員が合併・買収に係る正確な情報をいかに入手し、これを通知するのか、かつ、労働組合又は従業員がこれに基づいて主務機関に通知した後、事業単位は財務諸表などの関連資料を提出し説明する義務を有し、主務機関の担当者は法によりこの財務諸表等の関連資料について守秘義務を有しているとはいえ、企業の実務運営上の問題となるか否かは、検討に値する。
本法は2003年5月7日に施行される予定であり、本文で述べた若干の疑問点については、おそらく主務機関が関連付属法令を策定し又は一歩踏み込んだ解釈を行って該法施行が企業に与える影響及び法執行上の障害を抑制するのを待たなければならないものと思われる。本法は労資関係及び人事コストに重大な影響を与えるので、企業が従業員の大量解雇を予定しているのであれば、法に抵触しないよう、また労使紛争を引き起こさないよう、事前にしかるべき準備及び計画を進める必要がある。