ニューズレター
企業合併買収新法制
立法院は2002年1月15日に企業合併買収法を三讀通過させ、並びに当該法は大統領により2月6日に公布・施行された。本法の制定により、企業の合併・買収に不利な既存法の障壁が取り除かれたばかりでなく、政府審査許可手順の簡略化及び税金面での優遇措置の提供など、産業のグローバル化に対応して国内経済を向上させようとする政府努力を十分に体現している。以下に、その内容について簡単に述べる。
1.会社法に優先する規定
(1)取締役の責任、独立した専門家、臨時管理人に関する規定の増加
会社法は昨年修正され、取締役の忠実義務が明文で規定された。また、企業合併法第5条では、会社が合併買収の決議に際しては、取締役会は、株主全体の最大利益を考慮しなければならず、合併・買収の処理については善管注意義務を負う旨規定されている。会社が合併・買収で損害を被ったとき、決議に参加した取締役員は、会社に対して賠償責任を負わなければならない。
公開発行株式会社が取締役会を招集し合併・買収事務処理に関する決議するとき、本法第6条の規定により、独立した専門家に株式交換比率又は株主への配当金又はその他の財産の配当の合理性について意見を求め、これを取締役会又は株主会決議の際参考・根拠としなければならない。
本法第14条では、会社の取締役会が職権を行使できない虞があるときは、取締役会が職権を行使できないことによって合併・買収手続に支障を来すことのないよう、株主会の特別決議で臨時管理人を選出・任命し、会社法で規定されている代表取締役及び取締役会の職務を代行させることができる旨規定されている。
(2)新株引受権の例外規定
会社法第267条第1項乃至第3項では、会社が新株を発行するとき、従業員及び現株主は優先的に株式を購入する権利を有する旨規定されている。これは、会社が合併・買収のため新株を発行する情況においてしばしば手続上の混乱をもたらしていた。そこで本法第8条には、株式会社が以下の事情に基づいて新株を発行する場合、従業員及び現株主に新株引受権を付与する必要はない旨明示されている。
①発行する新株全てが第3者により取得される。
②発行する新株全てが他企業の発行済み株式の取得のために使用される。
③株式移転・交換のために新株を発行する。
④会社分割のために新株を発行する。
(3)株主議決権拘束契約、株主議決権信託、株式譲渡制限契約の効力の承認
これまで我が国の会社法及び裁判所の見解では、株主議決権拘束契約の効力は認められておらず、且つ株主議決権信託及び株式譲渡制限契約の効力については学説に争いがあった。しかし、株式の取得者は安定した経営権及び会社戦略決定への参加を主要目的としており、書面契約によって株主権の行使の保障又はそのた必要な合意をすることができなければ、企業合併・買収の経営リスクをコントロールすることは困難となり、企業の合併・買収を行う意欲を大幅に低下させることになる。したがって、本法は、アメリカの立法例及び国際合併・買収実務を参考とし、第10条において、株主は書面契約によって株主議決権の共同行使の方法及び関連事項について合意することができ、且つ会社が合併・買収を行うとき、株主は、その保有株を信託会社又は信託業務を兼業する金融機関に移転し、株主議決権信託を行い、受託者は約定により株主議決権を行使することができる、と規定している。また、第11条では、株式譲渡制限契約の有効性が明文化されており、株主間又は会社と株主間の書面契約により以下の事項について合理的にこれを制限することができる。
①株主が持ち株を譲渡するとき、優先的に会社に譲渡すること。
②会社、株主又は指定された第三者が優先的に他の株主の持ち株を引き受けること。
③株主が他の株主に持ち株の譲渡を請求すること。
④株主が株式を譲渡する場合又は株式について特定者のために質権を設定する場合、会社取締役会又は株主総会の同意を要件とすること。
⑤株主が株式を譲渡する又は株式について質権を設定する対象。
⑥他人への譲渡又は他人のための質権を設定を一定期間制限すること。
非公開発行株式会社は、更に、定款に上述の合意事項を記載することで、会社法第163条第1項の制限を排除することができる。但し、公開発行株式会社の新株発行に際し上述の株式譲渡制限又は株式の質権設定制限を設ける場合、その事実を開示しなければならない。
(4)株式購入請求権
会社法第186条及び第317条では、会社が資産や営業を譲渡又合併を行う際、これに反対する株主は、株式購入請求権を有することが規定されている。本法第12条では、一歩進んで、会社が定款を修正して株式譲渡又は株式の質権設定に制限を加える場合、又は会社が合併、買収、株式移転・交換、分割する際には、これに反対する株主は株式購入請求権を有することが定められており、会社が合併・買収を行う一定の情況下において、株主が会社に対し当時の公正な価格により、その保有する株式の購入を請求できることを認めている。
(5)多国籍合併買収の許可
これまでは実務上、会社法の合併に関する規定は台湾企業にのみ適用されると見なされていたため、多国籍間の合併・買収を行うことができず、これは企業のグローバル化という流れに反するものであった。そこで本法は、台湾企業と外国企業による多国籍間合併・買収の認め、これを明文化した。
2.合併に関する規定
(1)多様な合併形態の導入
本法では、更に、以下のような様々な種類の合併形態を導入している。
①第18条の「非対象式合併」は、存続する会社が合併のために発行しようする新株が存続会社の議決権のある発行済み株式総数の20%未満で、消滅する会社の株主に交付しようとする現金又は財産の価値総額が存続会社の価値総額の2%未満であり、且つ消滅する会社が債務超過の虞がない場合、存続会社の取締役会の特別決議を以って合併契約を締結することができ、株主総会の決議を必要としない。
②第19条の簡易合併は、会社がその発行済み株式の90パーセント以上を所有する子会社を合併しようとするとき、各会社の取締役会の特別決議を以って合併契約を締結することができる。その他、会社法の規定によれば、会社合併時の対価は株式に限定されているが、本法ではこの制限を緩和し、現金を合併の対価とすることを認めている(第22条)。
(2)債権者の保護
会社法の規定によれば、会社は合併の決議後各債権者に対しそれぞれ通知及び公告を行い、30日以上の異議申立て期間を置かなければならず、債権者はこの期間内に異議を提出することができる。会社が前記の通知及び公告を行わず、指定期間内に異議を提出した債権者に対し弁済せず、又は相当する担保を提供しない場合、その合併は債権者に対抗することができない。本法第23条では、この債権者の保護に関する規定が重ねて置かれ、会社は、弁済及び担保提供に加え、専ら債務の弁済を目的とする信託をし又は合併が債権者の権利を妨げないことを証明することを以って弁済又は担保の提供に代えることができる旨規定されている。
(3)財産権利の移転
現行法では、消滅会社の財産及び権利について、いつ、どのような方法で移転登記を行うべきかが明示的に規定されておらず、混乱を招いていた。そこで本法第25条では、存続会社又は新たに設立される会社が消滅会社の財産を取得する場合、その権利・義務の移転は、合併基準日から発効することが明確に定められている。但し、法律の規定によりその権利の取得、設定、喪失又は変更について登記すべき場合には、当該登記を行わなければ処分することができない。財産・権利の変更又は合併の登記については、直接関連登記機関に登記することができ、且つ原則として合併基準日から6ヶ月以内に当該登記を実施しなければならない。
3.買収に関する規定
(1)包括的な譲渡/引受け
このタイプは、本法第27条の規定によれば、会社が以下の方法で行う買収を含む。
①会社が包括的に他の会社の資産及び負債を引き受ける場合。
②会社が包括的にその資産及び負債を他の会社に譲渡する場合。
③会社が全部又は主要な部分の営業又は財産を他の会社に譲渡する場合(会社法第185条第1項第2号)。
④会社が他の会社の全ての営業又は財産を譲り受ける場合で、会社の経営に大きな影響をきたす場合(会社法第185条第1項第3号)。会社がこのタイプの買収を行おうとする場合、株主総会の特別決議が必要である。
本法は、この種の買収について特別に民法第297条及び第301条の債権譲渡及び債務引受けに関する規定の適用を排除し、会社が債権譲渡の通知を公告の方式で行うことを認め、且つ債務引受け時の債権者の承認要件を排除し、また買収の進行にあたって必要とされていた債務者への通知又は債権者による承認などの煩雑なプロセスを免除することによって、買収の効率を高めている。この項の規定は多国籍間の合併買収にも適用される。
(2)親子会社間の合併・買収
会社が100%保有する子会社の営業又は財産の全部又は主要部分を合併・買収し、譲り受ける営業又は財産を評価し、当該会社に新株を発行し、且つ当該会社と子会社が既に一般的に認められる会計原則によって合併財務諸表を作成する場合、本法第28条の規定によれば、会社の取締役会決議のみを要件とし、会社法第185条規定の株主会の決議を必要としない。
前記の規定は、多国籍間合併買収、即ち、台湾企業が営業又は財産の全部又は主要部分を当該台湾企業が100%の株式を保有する中華民国国外に設立した子会社に譲渡する場合、又は外国企業が営業又は財産の全部又は主要部分を当該外国企業が100%の株式を保有する中華民国内に設立した子会社に譲渡する場合においても適用することができる。
(3)株式交換・移転
本法第29条の規定によれば、会社は株主総会の特別決議を経て株式交換・移転の方法でその他の既存又は新設の会社(即ち、親会社)に買収され、当該会社の100%持株子会社となることができる。この買収タイプでは、発行株式は授権株式総数の4分の1以上とする会社法の制限(会社法第156条第2項、第278条第2項)及び公開発行株式会社の取締役、監査役が持株の50%以上を譲渡した場合、自動的に解任される旨の規定(会社法第197条際1項、第227条)、及び取締役、監査役による持株譲渡に関する証券取引法の制限規定(証券取引法第22条の2、第28条)は適用されない。
会社が株式交換・移転を行うとき、取締役会は、企業合併買収法第30条に規定される事項について記載した交換・移転契約を作成し株主総会に提出しなければならず、株主会招集通知の送付時に、各株主にこれを送付しなければならない。この株式転換による買収タイプは、台湾企業と外国企業との多国籍合併買収にも適用することができる。
(4)上場及び店頭登録
上場若しくは店頭登録会社がその他の既存又は新設の非上場企業と株式交換・移転を行い、当該他企業の100%持株子会社となる場合、本法第31条の規定によれば、会社は株式交換・移転及び上場に関する手続を完了後上場を廃止しなければならず、他方、親会社は上場条件を充足する場合、これに代り、持ち株会社として、上場継続資格を得ることができる。
4.分割に関する規定
(1)会社分割の定義及び手順
会社法には会社分割制度が既に導入され、関連手順の規定が追加されているが、会社分割の定義が欠けている。本法は会社分割について次のよな明確な定義を置いている。即ち、分割会社がその営業の一部又は全部を独立の既存又は新設の会社に譲渡し、当該既存又は新設の会社が発行する新株を当該分割会社又は当該分割会社の株主に交付する行為をいい、全ての異なる分割形態を含む。
会社が分割を行うとき、本法第32条の規定により、取締役会が分割計画を作成して株主会に提出し、株主会の特別決議による承認を受けなければならない。
(2)債権者の保護
会社債権者の権益を保護するため、本法は分割会社に次の事項を義務づけている。即ち、分割会社は、分割の決議後速やかに各債権者にそれぞれ通知及び公告し、並びに30日以上の期間を指定して、債権者が当該期間内に異議を提出できる旨の告知をしなければならない。会社が前記の通知及び公告を行わない場合、指定期間内に異議を提出した債権者に対し弁済しない場合、相当の担保を提供しない場合、債務弁済のための信託を行わない場合、又は分割が債権者の権利を妨げないことを証明しない場合、本法第32条に規定によれば、その分割は債権者に対抗することができない。
このほか、分割後営業を譲り受ける既存又は新設の会社は、業務が分割されることで生じる債務と分割前の会社の負債とを分けることができる場合を除き、会社が分割前に負った債務については分割基準日から2年以内に、その譲り受けた営業の出資範囲内において、当該会社と連帯責任を負わなければならない。
(3)上場/店頭登録
本法第32条には、分割会社が上場/店頭登録会社である場合、分割後も上場/店頭登録を維持することができる旨明示的に規定している。分割後営業又は財産を譲り受ける既存又は新設の会社は、会社分割及び上場/店頭登録の基準に合致した後、上場/店頭登録を維持又は上場/店頭登録を開始することができる。
台湾証券取引所及び店頭売買センターは現在、会社法の改正及び企業合併買収法の関連規定に合わせ、その関連規定を改正中であり、現段階では、分割後の会社が一定の要件を充足することを依然として要求しており、この一定の条件に合致してはじめて上場/店頭登録を維持することができる。また、一定の基準を定めて分割後の会社に上場/店頭登録廃止を要求することも検討中とのことである。
5.租税優遇措置
本法は、下記の租税優遇及び措置を提供するものであり、且つその大部分は多国籍合併・買収にも適用することができる。
(1)繰延べ項目の償却
会社が合併・買収で支払う対価が取得する財産の公正な市場価格を上回るとき、差額は暖簾代であり、理論上将来的な経済効果及び利益を有しており、存続期間内において年毎に分割して償却しなければならない。合併買収で生じた費用は、性質的には開業費に類似しており、これも償却欄に加える必要がある。そこで、本法第35条及び第36条にはそれぞれ、暖簾代は15年以内に、合併・買収費用は、10年以内に償却することができる旨規定されている。
(2)所得税連結申告
会社が合併、分割、買収を行った結果、一課税年度に他企業の90%以上の株式を保有するに至ったとき、高い持株関係のため、それらは事実上同一の会社である。そこで本法第40条には、親会社が納税義務者となり、子会社とまとめて営利事業所得税及び未分配余剰金に課せられる営利事業所得税を申告できる旨規定されている。これによって、親子会社の収入及びコスト、費用、損失を一括して計算し、損益を相殺することができ、並びに徴税作業を簡略化することができる。
(3)取引き損失
会社が営業又は財産をもって他企業の株式を購入又は交換するとき、その得た株式の価値が営業又は財産の帳面上の価値を下回り、そこから生じる取引き損失は、合併・買収年度の損益への影響の拡大を防止するため、年毎に分割償却が必要となるる。そこで本法第43条には、取引き損失は15年以内に償却することができる旨規定されている。
(4)財産形式の移転は非課税
非課税とは、免税、課税範囲除外、課税の繰り延べの3概念を含む。企業合併・買収による財産の移転の際、締結される各項契約証書には印紙税が発生することになり、また不動産所有権の取得申告は契約税を納付しなければならず、更に株式投資の名義変更には証券取引税が課せられる。以上3種類の税金は全て合併・買収移転で生じた移転税又は流通税であり、これらの免税規定は即ち合併・買収に対する障壁を排除することができる。
営業税は、貨物又は労務の販売時に課税される税金であり、合併・買収による貨物又は労務の移転も営業税課税範囲に含まれ、合併・買収の障壁を排除するために本来免税規定を設ける必要がある。
土地価額増加税は、時間的な累積効果を有するため、目標会社が自ら取得した土地が合併・買収時に既に相当な土地価額増加税が累積しており、直接免税規定が適用されるならば、合併・買収前に負担すべき土地価額増価税が完全に免除されることになり、合併・買収によって積極的な租税優遇を享受することとなり、課税の公正性に反する。これに対して、合併・買収時の土地移転の際に合併・買収を行う会社に土地価額増価税が課すのであれば、本来、将来実際に移転する際に課税されるべき価額増価税が前倒しで合併・買収時に課せられることとなり、やはり合併買収の障害となる。そこで、土地価額増価税には寄託方式を採用することによって、繰り延べ効果を達成した。また、土地価額増価税寄託の納税義務は、本来目標会社に属すべきであるが、土地所有権が既に合併・買収会社に移転されているので、合併・買収会社名義で寄託するのが適当であり、寄託された税金は、土地とともに全て合併・買収会社名義で登記され、且つ将来土地が再移転された際の代金について一切の債権及び抵当権に優先して返済を受ける旨規定することで、寄託された土地価額増価税に十分な保全構造をもたせるている。
特に注意すべきなのは、会社の合併・買収を財産又は株式購入の方式で行う場合で、合併・買収の対価の65%以上が議決権付き株式で支払われなければならず、これによってはじめて上記の税金を非課税とすることができる。また、合併・買収で土地を取得して3年内に、合併・買収された会社が株式交換の対価として交付した持ち株が上記の65%を下回る場合、寄託した土地価額増加税は、合併・買収される会社から追徴されることとなり、合併・買収会社が全額納付する義務を負う。合併・買収の方式が合併又は分割で、財産又は株式によるものでなく、上記の租税措置適用を望む場合、65%の株式対価を取得しなければならないという制限はなく、当然株式交換で生じる土地価額増加税の追徴寄託の問題もなくなる。
(5)租税優遇措置の延長
企業合併・買収法租税制度の基本理念は、合併・買収前の既存の租税状態又は地位を維持することにある。合併・買収に参加する会社が合併・買収前に既にある種の租税優遇措置、例えば営利事業所得税免除又は投資控除許可などを取得していた場合、企業合併・買収法が規定する合併、分割及び買収の要件を充足し、且つ合併・買収後の会社が依然として同一の優遇条件及び基準に合致してさえいれば、もともと取得していた租税優遇措置の権利は、合併・買収後の会社が継続して享受すべきで、合併・買収の影響を受けない。また、それが継続して享受できる範囲も合併・買収前のもともとの限度額を基準とすべきである。これは、本法第37条第1項及び第2項の理念である。唯一租税優遇措置延長継続の規定が適用されないものは、本法第29条に規定される株式交換・移転の合併・買収タイプである。当該株式交換・移転後、目標会社は合併・買収会社の100%子会社となるため、目標会社は依然として経営を継続し、租税優遇措置を享受しているので、合併・買収会社が受継ぐ必要はない。
(6)主要営業又は財産の譲渡の営利事業所得税の免除
本法第39条には、会社が全部又は50%以上の営業又は財産を譲渡して得た所得については営利事業所得税を免除する旨規定されている。但し、譲渡対価のうち80%以上は、議決権付株式でなければならず、且つ取得した株式は全て株主に譲渡しなければならない。また、会社が分割して獲得した株式を全て株主に譲渡する場合も営利事業所得税が免除される。このように取得した株式を株主に譲渡しなければならないと規定しているのは、株主の総合所得税に課税するためであり、即ち株主は合併・買収時に総合所得税を負担することになる。台湾では1998年に両税の統一が実施され、株主は会社が納付する営利事業所得税からその納めるべき総合所得税を控除することができる。
(7)合併・買収前の損失の控除
合併・買収前の損失が、所得税法第39条の要件を充足している場合、合併・買収後の会社は、依然として合併・買収前5年間に生じた損失を控除してから納付すべき所得税を計算することができる。つまり、合併・買収に参加する会社の損失は、第38条に規定により、合併・買収後の持株比率によって控除できる損失額を計算する。例えば甲、乙2つの会社がともに赤字会社で、経営改善のために合併して丙社が成立し、甲社の株主は丙社の60%の株式を、乙社の株主は丙社の40%の株式を取得した場合、甲社がもともと有していた損失額に60%、乙社がもともと有していた損失額に40%を足したものが丙社が将来控除することのできる損失額である。
会社分割については、株式の分割比率により計算する。例えばA社がX部門を分割して新たにB社を設立し、A社が30%の減資を行った場合、A社がもともと有していた損失の30%はB社が成立後の課税所得額から控除することができる。但し、A社が分割後に減資を行わず、分割して取得したB社の株式を株主に分配しない場合、A社は、B社を100%保有し、A社がもともと有していた損失は全てA社が控除を申告する。
その他、財産の譲渡による合併・買収タイプでは、財産譲渡又は株式譲渡であろうと、譲受会社は、譲渡会社の損失の控除を受けることができない。その理由は、譲渡する財産と損失は無関係であり、譲渡によって買収される会社の運営が変わることはないので、買収される会社がもともと有する欠損について買収会社が控除を申告する必要はないからである。
(8)滞納していた銀行債務を移転とともに返済した場合は、営利事業所得税が免除される
産業構造の調整を早め、余力を有する会社が赤字会社を合併・買収することを奨励するため、合併・買収会社が被合併・買収会社に伴って負う滞納分銀行債務を弁済した場合、合併・買収する会社の一定の営利事業所得税が免除され、赤字会社同士が合併する場合もこれに従い扱うことができる。
6.労働法方面の事項
(1)労働者留用
労働基準法及び労働委員会のこれまでの解釈では、企業が合併・買収を行うとき、会社間による労働者留用に関する判断の可否、及び留用する労働者による留用拒絶の可否などについては、明確にされておらず、争いがあった。そこで本法第16条には次のように規定された。合併・買収後に存続、新設会社又は譲受会社は、合併・買収基準日の30日前に労働条件を明記した書面を以って留用する労働者に通知しなければならず、また、通知を受け取った労働者は通知受領日から10日以内に書面をもって新たな雇用主に対し留用に同意するか否かを通知しなければならない。期限を過ぎても通知しない場合には留用に同意したものと見なす。
労働者の留用に際しては、新雇用主は、旧雇用時の年収を承認しなければならない。留用しない労働者又は留用に同意しない労働者には、合併・買収前の雇用主が労働基準法の規定により退職金又は解雇手当を支給しなければならない。但し、既に留用に同意していた労働者が、個人的な理由で留用を望まないとき、雇用主に解雇手当の支給を請求することはできない。
(2)退職準備金の移転
雇用主は労働基準法の規定により退職準備金の積み立てを行い、これは本来労働者の退職金の支給に用いられ、企業が合併・買収を行うとき、一部の労働者には退職金又は解雇手当の支給が行われるが、一部の労働者については、留用の結果、新雇用主に移転することになる。このとき、旧雇用主が積み立てた退職準備金を移転することができなければ、前記留用労働者の退職金の権益に影響がでる可能性がある。そこで本法第15条では次のように規定されている。会社が合併を行うとき、消滅会社が積み立てた退職準備金について、留用しない労働者の退職金又は解雇手当が支払われた後、その残金は存続又は新設会社の退職準備金口座に移転されなければならない。また、会社が全部又は一部の営業を買収又は分割する場合、譲渡会社又は分割会社は留用しない労働者の退職金又は解雇手当を支払った後、比率に応じて留用労働者分の退職準備金を譲受会社の退職準備金口座に移転しなければならない。
7.金融措置
産業構造を改善し又は経営効果を高めるため、企業合併・買収に参加する会社は、本法第44条の要件を充足すれば、行政院開発基金の融資を申請することができる。