ニューズレター
著作権法改正案
WTO加盟に備え1998年に改正・施行された著作権法は、TRIPs協定(貿易関連知的所有権に関する協定)に従っている。しかしながら、高度科学技術及びデジタル情報技術の急速な発展は、著作権法制に大きな影響を及ぼし、また、世界知的所有権機関(WIPO)が中華民国85年(1996年)に制定した「WIPO著作権条約(WIPO Copyright Treaty)」及び「WIPO実演・レコード条約(WIPO Performances and Phonograms Treaty)」に対応するため、智慧財産局は検討を重ね、近年著作権法改正案を公布した。当該改正案は改正条文16条、追加条文4条の計20条から成っており、改正の骨子は次の通りである。
1.専用実施権者に対し著作権侵害に係る告訴権を認める旨の条項の追加
最高裁判所は、既に1995年の判決において、著作権専用実施権者による告訴権を確認しているものの、実務上は依然として議論を引き起こしていた。ゆえに改正法では著作権専用実施権者の告訴権を明確に定め、かつ特別な取決めがなければ、著作権者はその著作権を行使することができないことを特別に規定している。
2.公衆送信権の追加と、放送及び実演の定義の修正
「WIPO著作権条約(WIPO Copyright Treaty)」第八条は、著作者に対し公衆送信権--その範囲は、相互式伝達及び公衆に対し著作物を提供する権利に及ぶ--を認め、「WIPO 実演・レコード条約(WIPO Performances and Phonograms Treaty)」第十条及び第十四条は、実演家及び録音物の製作者に対しその実演及び録音物を公衆に提供する権利を認めるている。これに従い、追加された「公衆送信権」とは、公衆によって情報が受信されることを目的とし、有線又は無線により公衆に対し著作物の内容を伝達することをいい、放送、相互式伝達、公衆への提供又はその他の伝達を含む。「相互式伝達」とは、情報を受け取った公衆が自ら選定した時間又は場所の要求に応じ、自動的に著作内容を伝達することをいい、相互式伝達前の著作物の送信可能化を含むが、放送は含まれない。「公衆への提供」とは、著作内容を相互式伝達の前の送信可能化をいう。また、修正された「放送」の定義は、公衆によって同時に情報が受信されることを目的とし、有線又は無線によって、音又は映像で公衆に著作内容を伝達することをいう。原放送者以外の者が、有線、無線、拡声器又はその他の機器によって、原放送の声又は映像を公衆に伝達する場合もこれに含まれる。「実演」とは、演技、舞踏、歌、楽器演奏又はその他の方法によって、現場の公衆に著作内容を伝達することをいう。
3.電子化著作権管理情報の保護規定の追加
WIPOの「著作権条約」及び「実演・レコード条約」に従い、電子化著作権管理情報の保護規定を加えた。これは、次に該当する場合、著作権侵害とみなすことを明確に定めるものである;著作権者の権利に損害を与えることを知悉し、不当に電子化著作権管理情報を削除又は改変する場合;オリジナル又はその複製物に係る電子化著作権管理情報が既に不法に削除又は改変されていることを知悉し、これを頒布し、頒布するために入力し、又は公衆送信することによって著作権者の権利に損害を与える場合がこれに当たる。当該規定に違反する場合、一年以下の懲役、又は懲役及びNT$50,000以下の罰金の併科を以って処罰される。
4.科学技術保護措置規定の追加
デジタル・ネットワーク環境において、著作権者は、常に、科学技術保護措置によって、著作物の違法な複製又はその他の方法による利用を防止することができる。およそ当該科学技術保護措置を回避する方法は、それが直接著作権を侵害する行為でない場合でも、著作権の侵害を促し若しくは助長する効果がある場合、それを阻止することができる。他人の著作権の侵害を意図して、専ら科学技術保護措置を回避する設備を製造、入力、頒布し、又は科学技術保護措置を回避するためのサービスや情報を提供する者は、一年以下の懲役、又は懲役及びNT$100,000以下の罰金の併科を以って処罰される。
5.インターネット・サービス・プロバイダー(ISP)の著作権侵害に係わる免責規定の追加
他人がインターネット・サービス・プロバイダー(ISP)の提供する設備又はサービスを利用して著作権を侵害する場合、当該インターネット・サービス・プロバイダー(ISP)は共同責任を負うべきか否かが、各国で議論となっている。改正案では、インターネット・サービス又は設備を提供する者は、次のいずれかの事情に該当する場合、他人がそのサービス又は設備を利用して行う著作権の侵害行為に対し、著作権侵害責任を負わないことを明示している。
(1)他人が放置し、自らがその内容を認識していない著作物を公衆に提供し、かつ客観的に見て当該著作物へのアクセスの阻止を期待できない場合又は技術的にこれが不可能な場合。
(2)他人が提供する著作内容について使用者に対しアクセス機能の提供のみ行う場合で、使用者の要求に応じ自動的かつ暫定的に当該著作物を保存できる機能が含まれている場合。
6.合理的使用に係る条項の修正
コンピュータ・ネットワークの利用形態に従い、合理的使用に関連する条項中の「放送」を「公衆送信」に改める。
7.製版権の譲渡又は信託登記に係わる規定の追加
信託法第四条第一項の規定には「信託のため、財産権の登記又は登録をしなければならない場合、信託の登記なく第三者に対抗することはできない」と規定されている。他方で、現行の著作権法第七十九条は製版権の取得について登録主義を採用していながら、製版権の譲渡と信託に関しては登録の規定がない。そこで、信託法第四条第一項の規定との整合性を保つため、製版権の譲渡又は信託につき登録規定を必要を追加した。
8.著作権の審議及び調停委員会が行う著作権仲介団体が定める使用料率に係る審議規定の削除
著作権が私権に属することに鑑み、著作権の利用許諾及びその使用料の額は、仲介団体と利用者間の私法上の関係に属するものであり、双方の話し合いにより、市場のメカニズムの決定に委ねるべきである。不必要な誤解を避けるために、使用料率は、著作権の審議及び調停委員会の審議を経て決定されるという規定を削除した。
改正案には、創作性を有さないデータベースに保護を与えるべきか否かの規定はなく、智慧財産局は、当該修正案に関する公聴会を開催し、提出される意見を待って決定したいとしている。