ニューズレター
民法運送人責任の変更
4月21日公布した民法改正条文中民法運送人責任に関する改正は次の通りである。
1.物品運送人に対する損害賠償請求権の消滅時効の短縮
改正前の規定によると、運送による損害賠償の請求権は運送終了又は終了すべきときより二年間これを行わないときは、時効により消滅する。改正後の規定では、消滅時効期間は一年に短縮されている。これに対し、旅客運送に係る消滅時効期間は、変更していない。
2.貨物引換証の交付は貨物の受領後とすることの明文化。
改正前の規定では、運送人は荷送人の請求により貨物引換証を交付すると定めされていたが、運送人は、貨物を受領する前に貨物引換証を交付することを拒絶できる旨明文化していなかったため、容易に紛争を生じた。紛争を避けるため、法改正では、運送人は貨物の受領後荷送人の請求により貨物引換証を交付する旨明示された。
3.貨物引換証が紛失、盗取又は滅失したとき、除権判決を得る前に担保を供して貨物引換証の再交付を請求することができる旨の規定が加えられた。この規定には遡及効がある。
海商法上の船荷証券は、その性質上、貨物引換証と類似し、海商法第105条は民法第627条乃至第630条の貨物引換証に関する規定を船荷証券に準用している。改正民法第629条の1が規定する再交付は、船荷証券に準用又は少なくとも類推適用することができると考えられる。したがって、船荷証券を紛失、盗難又は滅失したとき、一定の条件の下、その再交付を求めることができる。
貨物引換証は有価証券であるため、過去紛失、盗取又は滅失された場合、規定によれば、公示催告の申立、除権判決手続が終了するまで、権利者は権利を行使することができない。しかしながら、公示催告、除権判決手続は数ヶ月かかるのが通常であり、貨物引換証の権利者及び運送人にとって不利益となる。したがって、改正法では、公示催告手続の開始後運送人に担保を供して貨物引換証の再交付を請求することができることとした。
4.引渡が困難な場合、運送人は荷送人にその旨を通知し、その指示を求め、荷送人が指示しないとき、運送人は荷送人の費用をもって貨物を倉庫に寄託することができる旨の規定が加えられた。
5.旅客運送責任の加重:旅客運送遅延責任について、法改正前は不可抗力による抗弁が認められたのに対し、改正法では、不可抗力の事由があっても運送人が遅延責任を負わなければならない。但し、その責任は旅客が遅延により生じた必要な支出を限度とする。
6.旅客荷物の競売に関する改正
改正前の規定では、引渡を受けない旅客荷物の競売は六ヶ月を経過した後でなければこれを申し立てることができなかった。しかしながら、改正法では、引渡を受けない期間が一ヶ月に達した荷物については、運送人は期間を定め催告し、期間を経過してなお引取りがされないとき、直ちに競売することができることとなった。旅客の所在が不明なときは催告せず直ちに競売することができる。傷みやすい荷物は到達日から24時間を経過した後、競売することができる。
7.運送取扱人に対する損害賠償請求権の時効は二年から一年に短縮される。
8.債務不履行により債権者の「人格権」に損害が生じたとき、当該損害について、賠償を請求することができることとなった。
改正民法第227条の1によれば、債務不履行により債権者の「人格権」が侵害されたとき、債務者はその賠償責任を負う。即ち、物品の毀損、到着遅延又は旅客運送中の受傷により、名誉及び信用を含む「人格権」につき、非財産的損害が生じたとき、その損害を賠償しなければならない。但し、当該請求権の時効が1年か2年かについては争いがある。
上記改正条文の施行日は2000年5月5日であるが、第三項には遡及効がある。なお、債権法施行規則第3条2号によると、前記第1項及び第7項にいう物品運送人、運送取扱人に対する請求権は、改正法施行日の2000年5月5日から起算し請求権時効成立日までが1年を超えるとき、2000年5月5日から1年以内に行使しなければならない。