ニューズレター
専利権の実施権の設定登録の有無は、前後して許諾を受けた者(ライセンシー)の法的地位にどのような影響を与えるか
台湾専利法(専利:特許、実用新案、意匠を含む)第62条によれば、譲渡、信託、実施許諾(ライセンス)、質権の設定といった専利権の変動については、登録対抗要件主義を採用している。つまり、専利権の変動は登録がなされていなくても有効であるが、第三者に対抗できないにすぎない。第三者に対抗できないという点について、最高裁は96年(西暦2007年)度台上字第1658号民事判決において、これは第三者が専利権を侵害した場合、登録がなければ、専利権の譲受人は侵害者に対してその権利を主張できないとの見解を示した。これに対し、当事者間においては、同判決は、登録は契約の効力発生要件ではないため、当事者間の専利権の譲渡は依然として効力を生じ、当事者だけでなく権利の承継人も拘束される、つまり、承継人は、登録がなされていないことを理由に、原譲受人に対し、その専利権の譲渡が有効に成立していないと主張することはできない、としている。しかしその後、司法の見解が変更された。司法院(台湾の最高司法機関)の98年(西暦2009年)「知的財産法律座談会」「民事訴訟類関連議題」提案及び検討結果第9号の決議において、登録対抗制度は取引行為における第三者を保護することを目的としたものであり、不法行為を保護するものではないとの見解が示された。さらに、最高裁104年(西暦2015年)度台上字第671号民事判決もこの趣旨に従い、専利法における「登録がない限り第三者に対抗できない」という規定は、専利侵害者を保護するものではなく、当該登録に係る実施許諾などの事項自体について争いがあり、保護に値する第三者を保護するためのものであると判示した。したがって、前述の専利法第62条における登録対抗制度は、取引の安全を確保するために設けられたものと解される。つまり、先行する専利取引が登録されていない場合、その取引をもって後続の取引の相手方に対抗することはできないという制度である。
知的財産および商業裁判所(以下「IPCC」という)は、2026年1月30日付の114年(西暦2025年)民専上字第15号民事判決において、前述の登録対抗制度が取引の安全を保護するという趣旨に基づき、専利権者が同一の専利について、前後して異なる相手方に非独占的実施許諾(以下「通常実施権」という)および独占的実施許諾(以下「専用実施権」という)を行い、かつ、いずれも設定登録がなされていない場合に、それぞれの権利義務をどのように認定すべきかについて、その法的見解を示した。
本件は、実用新案実施料(ロイヤリティ)に起因する紛争であり、被控訴人(一審原告)は、台湾実用新案登録第M571911号(以下「係争実用新案」という)の実用新案権者である。被控訴人はまず、控訴人(一審被告)に対し、係争実用新案の通常実施権を許諾し、その許諾期間を2023年6月14日から2024年6月13日までと定めた。その後、被控訴人は、2023年11月15日に訴外会社甲と実用新案権専用実施権許諾契約書を締結し、被控訴人が係争実用新案について甲社に専用実施権を許諾すること、許諾地域には台湾域内が含まれること、許諾期間は契約締結日から係争実用新案が消滅するまでとすることを定めた。
その後、被控訴人はIPCCに提訴し、控訴人が双方の合意に基づき、被控訴人に実用新案実施料を支払うべきであると主張した。第一審裁判所は、当事者間に係争実用新案の実施料に関する合意が確かに存在することを認め、2025年6月16日、IPCC 113年(西暦2024年)民専訴字第51号民事判決において、控訴人に対し被控訴人への実用新案実施料を支払うよう命じた。控訴人はこれを不服として控訴を提起した。第二審裁判所も第一審と同じ立場を取り、まず、当事者間に係争実用新案の実施料に関する合意が確かに存在することを認め、両者間の通信記録や客観的に確認可能な行為に基づき、1件あたり2.6台湾元に出荷数量を乗じた金額を実施料とする合意があったと認めた。
次に、控訴人は第一審および第二審において、被控訴人が係争実用新案について甲社に専用実施権を許諾したため、控訴人がその許諾期間中に係争実用新案を実施することが困難になったと主張し、これに基づき、被控訴人は、民法第227条第1項において準用される同法第226条第1項に基づき、控訴人が被った損害について不完全履行に基づく損害賠償責任を負うべきであり、たとえ裁判所が控訴人に対して実施料の支払いを命じたとしても、控訴人は前述の損害賠償債権をもって相殺することができると主張した。
前述の相殺が認められるか否かを判断するポイントは、未登録の実施権が前後して許諾を受けた者(ライセンシー)の法的地位にどのような影響を与えるかを明らかにすることにある。第二審裁判所は、前記最高裁104年(西暦2015年)度台上字第671号民事判決の趣旨と同様の立場を採り、専利権の実施権には登録対抗主義が採用されていると判断した。いわゆる対抗とは、様々な権利間において、権利の具体的行使の際に生じる衝突、矛盾または相互対立の状況を指し、その際に「登録」の有無を権利帰属の判断基準とするものである。この趣旨はあくまで取引行為における第三者を保護することにあり、侵害者を保護することではない。
調査の結果、被控訴人が係争実用新案について控訴人に通常実施権を許諾したこと、および被控訴人がその後さらに係争実用新案について訴外会社甲に専用実施権を許諾したことのいずれもについても、経済部智慧財産局(台湾の知的財産権主務官庁。日本の特許庁に相当。以下「智慧局」という)への設定登録は行われていなかった。第二審裁判所は、前述の係争実用新案の実施権はいずれも登録されていないため、専利法に基づき第三者に対抗することはできず、すなわち、控訴人および甲社はいずれも、それぞれ取得した実用新案実施権をもって相手方に対抗することはできないと判断した。控訴人が被控訴人から係争実用新案の通常実施権を取得した時点は、甲社が被控訴人から係争実用新案の専用実施権を取得した時点よりも早いため、甲社が取得した係争実用新案の専用実施権には、先に成立した被控訴人と控訴人間の通常実施権の許諾関係も当然に含まれるものとされる。
これにより、甲社と被控訴人との間の専用実施権の許諾関係は、控訴人が被控訴訴人との間の通常実施権許諾契約に基づいて取得した係争実用新案の実施権に影響を及ぼすものではないため、上訴人はなおもその取得した実施権に基づき係争実用新案を実施することができる。また、第二審裁判所は、被控訴人が控訴人に付与した通常実施権には何ら瑕疵がなく、控訴人が主張するような、被控訴人が債務の本旨に従って履行せず、不完全履行があったという事実も存在しないとの判断を下した。よって、これをもって控訴人が負う実用新案権実施料の支払い債務と相殺する主張は認められない。
また、甲社と被控訴人との間の専用実施権許諾契約には、実施権の設定登録を行う義務が定められている。これに対し控訴人は、いったん当該専用実施権の登録が完了すれば、甲社は専利法に基づき控訴人に対抗できるようになるため、被控訴人は民法第227条第1項において準用される同法第226条第1項に基づき、不完全履行に基づく損害賠償責任を負うべきだと主張した。これについて第二審裁判所は、控訴人がその通常実施権について直接智慧局に実施権の設定登録を行えば、専利実施許諾をめぐる紛争または侵害の法的リスクを効果的に排除できたはずであり、それにもかかわら、控訴人がそれを怠ったことは、議論の余地がないわけではないと述べた。
以上をまとめると、本件における係争実用新案の実施許諾はいずれも智慧局への実施権の設定登録が行われていないため、いずれの当事者の被許諾者も、それぞれ取得した実施許諾をもって相手方に対抗することはできず、実施許諾の時点や性質に基づいてその効力を判断せざるを得ない状況にある。自己の権利を確実に保護するためにも、被許諾者は、実施権を取得する際に、後続の紛争を回避するために、適切な設定登録を行うことを推奨する。