ニューズレター
登録から5年以上経過した商標の評定請求および商標法第58条第2項における悪意の認定について―最高行政法院112年度上字第664号判決
一、本件の事実関係
(一) 原告の前権利者である「晶華經典美醫診所蕭奕君」は、2012年10月25日-に「
」(晶華整形外科及び図)商標を、-商標法施行細則第19条に定める商品及び役務分類第44類「理髪、美容、サウナ、スキンケア、ダイエット・ボディメイク、美容コンサルティング、マッサージ、アロマセラピーサービス、医療、クリニック、形成外科、各種病理検査、調剤、医薬コンサルティング、健康コンサルティング」等の役務に指定して、被告経済部知的財産局に登録申請し、被告の審査を経て、登録第1592586号商標(以下「本件商標」という)として登録が認められた。
その後、2020年9月3日、参加人「晶華國際酒店股份有限公司」は、自ら登録した「
」(晶華GRAND FORMOSA)及び「晶華」文字商標を根拠に、本件商標が商標法第30条第1項第11号に違反すると主張し、商標評定(取消請求)を申請した。
(二) 知的財産局は、参加人の評定申請は商標法第58条第1項に定める5年除斥期間を既に経過していたが商標法第30条第1項第11号前段及び第58条第2項の規定が適用されるとして、本件商標の登録を取消す処分をした(2022年3月30日付中台評字第H01090113号商標評定書)。
(三) 原告は訴願(行政不服審査)を申し立てたが棄却された。これを不服として行政訴訟を提起したが、知的財産・商業裁判所2022年度行商訴字第75号判決は、原告の処分取消及び訴願決定取消請求に理由がないとして訴えを棄却した。さらに最高行政法院112年度上字第664号判決も上訴に理由がないと判断し、本件商標の登録取消が確定した。
二、本件の主な争点
(一) 参加人の評定根拠商標は著名商標であるか?
(二) 本件商標の登録は悪意に基づくものであり、商標法第58条第2項の規定に該当し、同条第1項の5年期間の制限を受けないか?
<参考>
商標法第58条
1 商標の登録が第29条第1項第1号、第3号、第30条第1項第9号から第15号まで、又は第65条第3項に違反する場合については、登録公告日から5年を経過した後は評定の申請または請求ができない。
2 商標の登録が第30条第1項第9号、第11号に違反し、かつ悪意による場合は、前項の期間制限を受けない。
(三) 本件商標の登録は商標法第30条第1項第11号前段の適用があるか?
<参考>
第30条第1項第11号
他人の著名な商標又は標章と同一又は類似のもので、関連する公衆に混同誤認を生じさせるおそれがあるもの、又は著名な商標若しくは標章の識別性若しくは信用を損なうおそれがあるもの。但し、当該商標又は標章の所有者の同意を得て登録出願した場合は、この限りでない。
三、知的財産・商業裁判所及び最高行政裁判所の認定
(一) 著名性について
参加人は1976年に設立され、1992年以降、評定根拠商標を順次取得し、長年にわたり「晶華GRAND FORMOSA」商標をホテル、旅館等の役務に使用してきた。また、2004年には経済部知的財産局の中台異字第G00000000、00921448号商標異議審定書により著名商標と認定されている。したがって、参加人が「晶華」の二文字をチェーンホテルブランドとして、レストラン、ホテル、旅館等のサービスにおける信頼と品質が、我が国の関連事業者や消費者に広く認知されていることが認められる。よって、本件商標の登録申請時、評定根拠商標は既に著名商標であった。
(二) 悪意について
(1) 知的財産・商業裁判所の認定
以下を考慮すると、原告の商標登録申請は善意ではなかった。
● 原告の診療所は参加人ホテルに隣接(距離が極めて近い)
● 原告のウェブサイトに、診療所の看板とホテルの建物が同一画面に映る写真を掲載している。
● 前述のとおり、本件商標の登録申請時、評定根拠商標は既に著名商標であった。
(2) 最高行政裁判所の認定
最高行政裁判所は、以下の点を指摘し、「悪意」は単に「知っている」ということだけで悪意を認定したわけではないということを強調した。
➤ 現行商標法第58条第2項は2003年5月28日(民国92年5月28日)に改正公布された。改正理由は「商標の登録が改正条文第23条第1項第12号に違反し、かつ悪意による登録取得の場合、不正競争の利益を得る意図があるため、知的財産権の保護に関するパリ条約第6条の1第3項を参考に、期間の保護を受けるべきではないとして、第3項に『第1項の期間の制限を受けない』と明記した」とされている。
➤ パリ条約第6条の2(3)の解釈(l)によれば、「一般的に、登録専用権者または使用者が著名標章の存在を知りながら、衝突する標章の登録または使用によって混同を生じさせ、その利益を得ようとする場合、『悪意』と判断できる」とされている。すなわち、商標権者が他人の著名商標や標章の存在を知りつつ、抵触する商標の登録によって混同を生じさせ、不正競争の利益を得ようとする意図がある場合、これが上記規定の「悪意」に該当する。
➤ 原審は、単に上訴人が参加人の著名商標を「知っていた」だけで悪意と認定したのではなく、上訴人が消費者に両者の関連性を想起させる意図があり、類似名称で本件商標の登録を申請したことを明確に説明しており、上訴人が評定根拠著名商標の名声に便乗して不正競争の利益を得ようとする意図があったことを認定している。
(三) 誤認混同のおそれについて
● 「整形外科」は識別力がないため、主要識別部分は「晶華」であり、類似性が低くない。
● 役務内容を比較すると、第44類の美容、ダイエット、マッサージ等のサービスは同一または高度に類似しており、対象とする顧客も重なる。
● 評定根拠商標は著名商標であり、参加人は長年にわたり多角的経営モデルで多様なサービスを提供している(例:参加人が経営するホテル・旅館のフロアには美容、理髪、サウナ、マッサージ等のサービスが多く提供されており、これは関連消費者に広く認知されている事実である)
● 原告は善意ではない。
(四)以上より、本件商標は第30条1項11号前段に該当し、取消は正当と判断した。
四、本件から学ぶべきこと
(一) 権利者は異議申立て及び評定請求の除斥期間に注意し、立証責任の増加を回避すべきである
不登録事由があるのに登録されてしまった商標を取消すための制度としては、異議申立て制度と評定制度がある。両制度を選択する際に最も重要となるのは申立て可能な期間(除斥期間)である。
● 異議申立て:登録公告日から3か月以内(商標法第48条第1項)
● 評定:原則として登録公告日から5年以内(商標法第58条第1項)
登録公告から5年を経過した商標に対して登録の取消しを求める場合、権利者は当該登録の出願が悪意によりされたこと、かつ商標法第30条第1項第9号・第11号に該当することを追加で立証しなければならず(同法58条2項)、立証責任が大幅に増える。
また、商標法第30条第1項第10号により評定を請求する場合、「根拠となる商標が過去3年以内に使用されていたことの証拠又は未使用が正当な理由に基づくことの証拠」が必要となる(商標法第57条第2項・第3項)。
一方、登録公告後3か月以内に同じ事由で異議を申し立てる場合、申立人は根拠とする商標の使用証拠を提出する義務はない。
(二) 商標法第58条第2項の「悪意」は単に知っているのみでは足りず、「不正競争による利益を得ようとする意図」が必要となる。
「悪意」の意味は法律領域によって異なり、単に知っていることを指す場合と故意を指す場合がある。
経済部知的財産局が発行した「パリ条約解説」[1]によれば、悪意(bad faith)の解釈は次のとおりである。
「行政または司法機関は、抵触標章の登録または使用が悪意(bad faith)であるかどうかを判断し、悪意であれば申請期間の制限はない。一般的に、登録専用権者または使用者が著名標章の存在を知りながら、抵触する標章の登録または使用によって混同を生じさせ、その利益を得ようとする場合、『悪意』と判断できる」。
したがって、商標法第58条第2項の「悪意」とは、単に知っているだけでなく、他人の著名商標を知った上で、「抵触する標章の登録または使用によって混同を生じさせ、その利益を得ようとする」意図が必要であり、これが悪意の要件に該当する。この基準は、本件最高行政法院112年度上字第664号判決でも詳細に説明され、認定されている。
(三) 事業者は登録商標を積極的に使用し、商標の著名性を裏付ける証拠を保存するだけでなく、商標監視を強化し、企業の商標権の適時保護及び商標の希釈化防止に努めるべきである
ブランドの構築及び保護には、企業が多大な広告・マーケティング費用と労力を投入する必要があり、特に著名商標の確立には、企業の長年にわたる経営と資源投入が不可欠である。しかし、ブランド商標の知名度が向上すると、企業が長年蓄積した信用に便乗しようとする者が、類似商標を自らの商品や役務を指定して出願または使用することもある。新たな商標出願や登録に常に注意を払わなければ、市場や商標登録簿上に類似商標が存在することになりかねない。他人がこれらの類似商標をどのような品質の商品や役務に使用するかはコントロールできず、最悪の場合、商標の希釈化を招き、商標の識別性が損なわれ、商品やサービスの出所を示す商標の指示機能が失われ、ブランドイメージが大きく損なわれ、ブランド価値が徐々に消耗されることになる。
また、現時点では、実務上、商標法第30条第1項第11号後段の商標希釈化を認める事例は少なく、事業者の商標権利・利益を十分に保護できていない可能性がある。したがって、事業者は商標を積極的に使用して製品をマーケティングするだけでなく、商標出願及び登録の監視を強化し、市場動向を適時に把握し、有利なタイミングで商標関連権利・利益を行使・維持できるようにすべきである。
※日本語版は、中国語版をベースとして作成しましたが、一部内容の簡略化、又は補足を行っています。
[1]経済部知的財産局(經濟部智慧財產局),《巴黎公約解讀》,頁68,https://www.tipo.gov.tw/tw/tipo1/207-21913.html(最後瀏覽日:2026年1月12日)。