ニューズレター
医薬品の添付文書に記載のない適応症に関する特許侵害紛争において、非侵害の確認訴訟を提起することは可能か
「確認訴訟(確認の訴え)」は、台湾の民事訴訟の一類型であるが、他の訴訟類型と比べて、その提起要件は厳格に設けられている。台湾民事訴訟法第247条第1項は、「法律関係の確認を求める訴えは、原告が即時に確認判決を受ける法律上の利益を有する場合に限り、これを提起することができる。証書の真否または法律関係の基礎となる事実の存否の確認を求める訴えについても、同様とする」と規定している。したがって、原告が確認訴訟を提起できるかどうかは、まず「確認の利益(確認の訴えの利益)」の有無を判断しなければならない。しかし、個々の事案において「確認の利益」が認められるかどうかは、従来からこの種の訴訟における当事者間の攻防の焦点となるだけでなく、実務者にとっても大きな課題となっている。
これついて、最高裁判所は、最近下した112年(西暦2023年)度台上字第7号判決(判決日:2026年3月25日)において、「確認の利益」の判断基準についてさらに見解を示した。本件では、製薬会社A(後発医薬品メーカー、以下「A社」という)の医薬品X(すなわちジェネリック医薬品)が、台湾の衛生福利部食品薬物管理署(以下「TFDA」という)から医薬品製造販売承認(許可証)を受けた後、先発医薬品メーカーB社から「当該医薬品Xの適応症(効能・効果)は、B社が保有し現在も有効に存続している用途特許(以下『特許Z』という)を侵害するおそれがある」という旨の警告書を受け取った。これを受け、A社は、医薬品Xの適応症から当該適応症Yを削除した。しかし、その後、A社は、当該特許Zは実際には特許性を欠くものであるとの見解に至り、医薬品Xへの適応症Yの記載が特許Zの特許権を侵害するかどうかをめぐってB社との間で紛争が生じた。そこで、A社は、B社に対し、「医薬品Xへの適応症Yの記載」は特許Zの特許権を侵害しないことの確認を求めて確認訴訟を提起した。
A社が確認訴訟を提起するための「確認の利益」を有しているか否かについて、本件の第一審判決(知的財産および商業裁判所109年(西暦2020年)度民専訴第79号判決、 判決日:2021年9月28日)および第二審判決(同裁判所110年(西暦2021年)度民専上字第31号判決、判決日:2022年5月26日)はいずれもこれを肯定し、A社勝訴の判決を言い渡した。確認の利益に関する判断の要旨は以下のとおりである。
1. 民事訴訟法第247条第1項前段は、「法律関係の確認を求める訴えは、原告が即時に確認判決を受ける法律上の利益を有する場合に限り、これを提起することができる」と規定している。ここでいう「即時に確認判決を受ける法律上の利益」とは、法律関係の存否が不明確であることにより、原告の私法上の地位侵害を受ける危険が存在し、その危険が被告に対する確認判決によって除去され得る場合を指す (最高裁判所104年(西暦2015年)度台上字第1355号民事判決趣旨参照)。
2. A社は、医薬品Xへの適応症Yの記載について、当事者間に特許侵害行為に基づく法律関係が存在するか否かの確認を求めている。この法律関係の存否は、医薬品Xに適応症Yを記載できるか、またB社が特許権の行使を名目として行う妨害行為を排除できるかという点において、法律上の利益を有する。A社が私法上の地位に対する危険は、B社に対する確認判決によって除去することが可能であり、A社には即時に確認判決を受ける法律上の利益が存在する。したがって、A社が提起した本件確認訴訟は法に反するものではなく、これを認容すべきである。
しかし、本件を不服としたB社がさらに上告したところ、最高裁判所はA社に訴えを提起する確認の利益があるかどうかについて疑義を呈し、前述の112年(西暦2023年)度台上字第7号判決において次のように述べた。「法律関係の確認を求める訴えは、既判力を有する本案判決によって権利または法律関係の存否を確定し、現在の法律関係に関する争いを排除するものであり、そうすることではじめて即時に確認判決を受ける必要性と実効性が認められる。民事訴訟法第246条は、将来の給付の訴えは、あらかじめその請求をする必要がある場合に限ると明確に規定している。すなわち、給付の訴えは現在の給付関係を原則とし、法律要件を満たす場合に限り将来給付の訴えを提起できるとしている。しかし、確認訴訟にはこのような例外規定は存在しない。司法資源は限られているため、不必要な訴訟は、必然的に他の利用者の裁判を受ける権利や審理の効率に影響を及ぼすことになる。将来の法律関係の成否をめぐる争いにおいて、その根拠となる基礎的・必要的事実が、まだ成立していない、あるいは明らかになっていないために不確実性を帯びている場合、これを裁判の対象とすれば、相手方に不必要な応訴の費用や時間、労力を費やすことになり、裁判所に過重な負担を強いる事態を招き、切迫したにニーズを抱える人々が訴訟制度を利用する機会を奪ってしまうおそれがある。さらに、将来起こりうる法的紛争は、当事者が事前に利害関係を衡量して意思決定を行う際の要素であり、本来であれば、専門家による評価、法律相談、想定される相手方との協議、リスクの分散・移転といった他の社会的メカニズムを通じて対処することが可能であり、必ずしも確認訴訟によってあらゆる側面を解決しなければならないわけではない。これらを総合的に勘案すれば、原告は将来の法律関係について、民事訴訟法第247条第1項前段に基づき確認訴訟を提起することは認められない。」最高裁判所はさらに次のように指摘した。薬事法第39条第1項、第46条第1項、第48条の1、同法施行細則第24条などの規定に基づき、医薬品製造販売承認を受けた後、医薬品の適応症を追加する場合、主務官庁の承認を得なければ添付文書に記載することはできない。A社はすでに適応症Yを削除していたため、当該適応症を再び記載するには、改めて主務官庁の承認を申請しなければならない。したがって、A社による「医薬品Xへの適応症Yの記載が特許Zの特許権を侵害していない」を確認する請求が、将来の法律関係の確認を求めるものであるかどうか、また、A社による適応症Y追加の進捗状況は、いずれも確認の訴えの原告適格を判断する上で極めて重要な事項ある。原審がこれらについて証拠調べ・認定を行わなかったことは、法規の不適用および法規の不当な適用という法令違反を構成し、理由不備にも該当する。