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専利権者が権利を行使した後に敗訴した場合、損害賠償責任を負うべきか



知的財産権訴訟の実務において、専利権者(専利:特許、実用新案、意匠を含む)は、競合他社が侵害の疑いのある製品の製造・販売を継続することを防ぐため、法に基づき仮差押えや仮の地位を定める仮処分(暫定的な処分)などの保全命令を申し立て、その後に本案訴訟を提起することがある。しかし、本案訴訟において専利権者の敗訴判決が確定した場合、保全命令によって損害を被った競合他社が、逆に専利権者を相手取り、不法行為や公平交易法(日本の「不正競争防止法」および「独占禁止法」に相当。以下「公平法」という)違反を理由に提訴したとき、専利権者が「当初は合法的に取得した専利権を正当に行使したにすぎない」として損害賠償責任を免れることができるかどうかは、しばしば争点となる。また、現行の知的財産事件審理法(中国語:「智慧財案件審理法」)第52条第6項および民事訴訟法第531条第1項などの規定によれば、仮の地位を定める仮処分が本案での敗訴確定により取り消された場合、あるいは保全命令が債権者(すなわち保全命令を申し立てた専利権者)によって自ら取り下げられた場合、専利権者は損害賠償責任を負うこととなる。しかし、専利権者が本案で敗訴した後に、仮の地位を定める仮処分や仮差押えの決定を自ら取り下げなかった場合、その責任はどのように認定されるべきか。また、競合他社がその後損害賠償を求めて提訴した場合、その消滅時効はいつから起算されるのか。これらはいずれも重要な法的問題である。知的財産および商業裁判所(以下「IPCC」という)が2026416日に下した113年(西暦2024年)度民公上更一字第2号民事判決では、これらの問題について見解が示され、専利権者に対してより厳格な立場が取られた。

 

本件は、2005年頃、甲社が、自社の保有する特許権および実用新案権(以下「係争専利」という)が競合他社である乙社に侵害されたとして、外部機関に依頼して専利侵害鑑定報告書を作成させ、これに基づき、裁判所に保全命令を申し立て、乙社に対する仮差押えおよび仮の地位を定める仮処分を求めたことに端を発する。同時に、甲社はプレスリリースを配信し、乙社の海外顧客に対して弁護士名での警告書を送付したため、乙社の事業運営に多大な影響が生じた。最終的に、裁判所は、専利侵害の本案訴訟において、乙社の製品が甲社の係争専利の権利範囲に属さないと判断し、甲社敗訴の判決が確定した。これを受け乙社は、甲社に不法行為および不正競争があったとして、損害賠償を求める訴えを提起した。第一審(IPCC 108年(西暦2019年)度民公訴字第4号)および第二審(IPCC 110年(西暦2021年)度民公上字第3号)では、いずれも乙社敗訴の判決が下されたが、乙社がこれを不服として上告したところ、最高裁判所は112年(西暦2023年)度台上字第246号判決にて原判決を破棄して原審に差し戻した。その後、IPCCによる第1次差戻審の審理を経て、前述の113年(西暦2024年)度民公上更一字第2号民事判決により、乙社勝訴へと逆転判決が言い渡された。IPCCは、甲社およびその代表者連帯して7,000万台湾元の損害賠償の支払いと、新聞への訂正記事の掲載を命じた。

 

1次差戻審の判決要旨は以下のとおりである。

 

1. 甲社の不法行為

IPCCは、次のように指摘している。債権者が仮差押えの申し立てにより保全を求める請求(被保全権利)が実際に存在する場合、その仮差押えの申し立てが不法行為に当たることはない。しかし、当該請求が存在せず、しかも債権者が故意または過失によって仮差押えを申し立て、その結果として債務者に損害が生じた場合、債権者は不法行為に基づく損害賠償責任を負わなければならない。同裁判所は、最高裁判所85年(西暦1996年)度台上字第2923号民事判決の趣旨を引用し、次のように論じた。「債権者が仮差押えや仮処分の申し立てを行う際、自らの権利に制限があることを知りながら、なお故意に、または注意すべきであり、かつ注意できたにもかかわらず注意を怠って申し立てを行った場合、たとえ裁判所が審理のうえ、その申立てを認めたとしても、その後の本案訴訟において敗訴判決が確定したときは、債務者または相手方は、申立人(すなわち債権者)の本案敗訴確定後、民法第184条に基づき、仮差押えまたは仮処分の申立人(すなわち債権者)に対して損害賠償を請求することができないわけではない。」「解釈上、債権者が仮処分の申し立て時に、それが不当であることを当初から知っていたにもかかわらず、本来得るべきでない仮処分の認容決定を得るために、虚偽不実の資料を提出して裁判所に申し立てを行ったかどうかの判断を重視すべきである。」

 

本件において、IPCCは次のように判断した。甲社は、自社の発明特許が海外で何度も拒絶査定され特許の権利範囲の減縮(限定的減縮)を余儀なくされており、当該権利に瑕疵があることを知っていたにもかかわらず、侵害鑑定機関に対して対比に必要な特許出願の経過情報を提供せず、さらに乙社の製品を入手して実際の動作テストを行ったこともなかった。また、甲社は実用新案登録の出願手続きにおいて、専利法改正を機に自ら補正を行い、乙社の製品を権利範囲に含めるべく、乙社の製品には外観上明らかに備わっていない中核的な技術的特徴をあえて削除した。それにもかかわらず、甲社は瑕疵のある専利侵害鑑定報告書をもって裁判所に保全命令を申し立て、本来であれば認められるべきではなかった仮差押えおよび仮の地位を定める仮処分の決定を下するよう裁判所を誤導した。このような権利の行使は故意によるものであり、民法第184条第1項前段にいう不法行為を構成する。

 

また、IPCCは次のような見解も示した。甲社が公表した、公正な競争に反する専利侵害に関する虚偽のニュースや警告書、ならびに仮差押えの申し立て時に掲載したプレスリリースおよび第三者に送付した警告書の内容は、いずれも乙社が係争専利を侵害していると主張するものであった。しかし、甲社は自社の権利範囲が限定的であることを知りながら、客観的な事実や証拠に欠ける不適切な専利侵害鑑定報告書を提出した。これは、甲社が専利関連資料を十分かつ完全に提供しなかったため、出願手続において出願人が自認した限定事項に基づいて分析・対比を行うことができず、その結果、裁判所を誤導することとなった。したがって、甲社のこのような権利の行使は、明らかに競争を目的として、乙社の営業上の信用を害するに足りる虚偽の事実を陳述または流布したものであり、取引秩序に影響を及ぼすに足りる欺罔行為または著しく公正さを欠く行為にも該当するため、公平法に違反する。

 

2. 甲社の時効抗弁は信義則に反する

甲社は、その保全および差押えの行為が2005年から2009年の間に行われたのに対し、乙社が訴訟を提起したのは2019年になってからであるため、民法および公平法で定められた消滅時効期間をすでに経過していると抗弁した。これに対しIPCCは、次のような判断を示した。消滅時効制度は法律関係の安定を維持することを目的とするものであるが、債務者に、債権者が権利を行使できなかったことについて帰責事由がある場合、その時効抗弁の行使が信義則(信義誠実の原則)に反し、当事者間の権利義務の公平を著しく欠くこととなるときは、法律はこれを認めない。本件の専利侵害訴訟は判決確定までに12年もの歳月を要した。また、甲社は専利訴訟での敗訴が確定した後も、民事訴訟法第531条に基づく損害賠償責任を回避するため、現在に至るまで仮差押えや仮の地位を定める仮処分の命令ならびにその執行の取り下げを自ら申し立てておらず、その結果、乙社の財産は不当な保全手続による侵害を受け続けている状態にある。したがって、IPCCは、甲社による消滅時効の主張が信義則に反すると判断し、その時効抗弁を退けた。

 

3. 損害額の算定

IPCCは、甲社が仮差押えを申し立てた際に推定した乙社の侵害による利益と、不当な保全処分によって営業ができなくなったことで乙社が被った逸失利益とを照らし合わせた、乙社が請求した7,000万台湾元の損害賠償および新聞への訂正記事の掲載は妥当であると判断し、その請求を全額認容する判決を下した。

 

現在、本件は上告中であり、判決はまだ確定していない。最終的な判決結果がどうであれ、専利権者が保全手続を通じて権利を行使しようとする場合は、より慎重な対応が求められる。

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