ニューズレター
他人の商標を組織名として使用することは商標の使用に該当するか― 知的財産及び商事裁判所114年(西暦2025年)度民商訴字第20号民事判決
一、事案の概要
(一) 原告の台北愛楽放送株式会社(Philharmonic Radio Taipei Co., Ltd.)は「愛楽」という商標(以下「係争商標」という)を登録し、ラジオ番組の企画・制作やコンサートの企画・演奏などの関連役務および商品に係争商標を使用している。また、原告は、係争商標が関連する消費者に広く認知され、著名商標となっていると主張した。
(二) 原告は、被告の社団法人台湾愛楽協会が、原告の許可なく係争商標の文字「愛楽」を自己の主体を表彰する名称として無断で使用し、原告と直接競争関係にあるにもかかわらず、コンサートイベントの開催に使用したことは商標の使用に該当し、関連する消費者に誤認混同を生じさせるおそれがあり、取引秩序を乱し公正な競争を阻害するものであると主張した。
(三)原告は、商標法第69条第1項および公平交易法(日本の「不正競争防止法」および「独占禁止法」に相当。以下「公平法」という)第29条に基づき、侵害の排除を求め、被告に対し、係争商標「愛楽」と同一または類似するものを、当該事業体を表彰する名称として使用することを禁じるよう求めた。
二、本件の主な争点:
(一)被告が係争商標をその社団法人名称の要部として使用し、「台湾愛楽協会」の名で各事業を運営していることは、商標の使用に該当するか。
(二)被告の設立登記時点において、係争商標は著名商標であったか。また、商標法第70条第1号、第2号の商標権侵害とみなされる行為に該当するか、あるいは同条第2号を類推適用できるか。
(三)被告が係争商標をその社団法人名称の要部として使用し、「台湾愛楽協会」の名で各事業を運営していることは、公平法第25条に違反するか。
三、判決の概要
(一)被告が係争商標をその社団法人名称の要部として使用し、「台湾愛楽協会」という名で各事業を運営していることは、商標の使用に該当しない
1. 知的財産および商業裁判所(以下「IPCC」という)の見解によれば、実際に商標の使用に該当するか否かを実際に判断するにあたっては、その平面画像、デジタル映像・音声や電子メディアなどのレイアウトにおける前後配置、フォントやスタイル、文字の大きさ、色およびデザインに特別顕著性(顕著な特徴)があるかを総合的に斟酌すべきであり、また、その使用態様が消費者に対して表彰された商品・役務の出所を識別させるに足りるかどうか、さらには、その使用目的が他人の営業上の信用や名声を示唆したり、それにただ乗り(フリーライド)する意図を有するかどうかといった関連証拠についても併せて判断されるべきである。
2.本件においてIPCCは、被告が単に係争商標をその社団法人名称の要部として使用していること自体は、商標法第5条にいう商標の使用には該当しないと判断した。被告が主催する音楽会イベントにおいて「台湾愛楽協会」と表示する際、協会の連絡先を併記し、「主催」という2文字を明記しており、かつ「愛楽」の2文字を特に拡大きく強調することもなかった。これは、商業取引慣行に合致した信義誠実の方法により、音楽会イベントの主催者として自らの名称を表示したものである。
(二)係争商標は、被告の設立登記時点において著名商標と認められず、商標法第70条第2号を類推適用することもできない
1. IPCCは、「愛楽」の2文字は、その文字の意味合いから音楽芸術業界の各大手楽団に広く使用されているため、識別性(識別力)は高くないと判断した。また、原告が提出した著名商標を証明するあめの資料を見ても、その主体はいずれも「台北愛楽電台(台北愛楽ラジオ局、Philharmonic Radio Taipei)」、「愛楽電台(愛楽ラジオ、Philharmonic Radio)」などであり、係争商標の「愛楽」の2文字のみでその出所を識別しているわけではない。したがって、係争商標が関連事業者や消費者に広く認知されている著名商標であるとは認めがたい。
2.原告は予備的に商標法第70条第2項を類推適用すべきだと主張した(予備的請求)。しかしこれに対しIPCCは、現行商標法第70条が2011年の改正時に、商標権者による権利濫用を防止するため、あえて非著名商標への適用を削除したものであり、法の抜け穴は存在しないと述べた。したがって、本件係争商標は著名商標の要件を満たさない以上、類推適用の必要はないとした。
(三)被告が係争商標をその社団法人名称の要部として使用し、「台湾愛楽協会」の名で各事業を運営していることは、公平法第25条に違反しない
IPCCは、被告の実際の使用行為は、自己の完全な名称である「台湾愛楽協会」を用いて有料クラシック音楽会の主催者を表示したものであり、係争商標である「愛楽」の2文字を単独で使用したわけではないと判断した。また、時折併用される「クラシック音楽台」、「Classical」といった語はいずれも既存の語彙であり、クラシック音楽を意味するものである。これらは被告がその提供する有料クラシック音楽会の開催という役務の内容とも一致しており、原告が実際に使用している「台北愛楽電台」、「台北愛楽廣播電台(台北愛楽放送局)」、「台北愛楽」、「愛楽電台」とは異なっており、消費者に混同誤認を生じさせるおそれには至らない。したがって、被告が重要取引情報を積極的に欺き、あるいは消極的に隠ぺいすることで、人を誤認させるような方法で取引を行ったとは認め難く、公平法第25条には違反しない。
四、本件から学ぶこと
(一)商標使用の核心は、消費者がそれによって表示されている商品・役務の出所を識別できるかどうかにあり、商標権者は自ら使用する場合や侵害を主張する際に特に注意すべきである
本件におけるIPCCの見解から分かるように、商標使用の核心は、消費者がその商標を商品・役務の出所を表彰するものとして認識できるかどうかにあり、判断に際しては、商標の実際の使用時におけるデザインやレイアウトに特別な顕著性があるかどうかも総合的に斟酌される。したがって、商標権者は自ら商標を使用する場合であれ、他人に対して侵害を主張する場合であれ、まずはその商標の表示態様が消費者にとって商品・役務の出所として認識されているかを確認すべきである。商標の文字を単に使用すれば直ちに商標の使用とみなされるわけではないため、訴訟において不利な判断を下されないよう注意が必要である。
(二)既存の語彙や業界関連の用語を商標として使用する場合、識別性が低く保護範囲も狭くなるため、商標の考案時には慎重な検討が必要である
事業者や個人が商標を考案する際に、指定商品・役務に関連する語彙を使用しがちである。しかし、既存の語彙や業界用語を商標として使用すると、経済部智慧財産局(台湾の知的財産権主務官庁。日本の特許庁に相当)から記載的表示に該当すると判断され、識別性欠如を理由に拒絶査定や登録拒否となる事例が少なくない。たとえ登録査定となっても、識別性が低いとみなされ、保護範囲も相対的に狭まってしまう。そのため、商標の文字や図案を考案する際には、既存の語彙ではないものや、指定商品・役務との関連性が低い文字を選ぶことで、より広範な権利保護を確保することが推奨される。
(三)商標権者は、実際に商標を使用する際、登録商標と可能な限り一致させるべきであり、これにより商標全体の識別性および著名性を確立することができ、著名商標であることを立証する有力な証拠ともなり得る
本件においてIPCCは、原告が実際に商標を使用する際、多くの場合で他の文字と併用されており、「愛楽」の2文字のみを単独で出所表示の主体として使用しているわけではないと判断し、これに基づき商標権者が著名性を立証するために提出した証拠資料も否定されるに至った。したがって、商標権者は商標登録出願前に、将来の商標使用の態様を慎重に検討することが望ましい。商標登録の取得後は、積極的に商標を使用するだけでなく、登録商標と同一性を確保することも重要である。そうすることで、識別性や著名性の確立に資し、より広範な権利保護を受けられるようになるとともに、商標の識別性の減損や希釈化を防ぐことができる。
(四)他人の著名商標を自己の主体を表彰する名称として使用することは避けるべきであり、たとえ他人の非著名商標を自己の主体を表彰する名称として採用しようとする場合であっても、あくまで自己主体を説明する目的での使用にとどめるよう注意が必要であり、消費者に他人の商標を使用しているとの連想を生じさせ、権利侵害または公平法違反の疑いを招くことを避けなければならない
無断で他人の著名商標を自己の主体を表彰する名称として使用することは、商標法で規定されている擬制的な商標権侵害行為(みなし侵害行為)にあたり、訴訟発展リスクを避けるためにこうした行為は行わないことが望ましい。他人の非著名商標を自己の主体名称に使用する場合は、慎重な使用が必要であり、その行為をあくまで自己の名称の説明に限定するか、あるいは他の文字と組み合わせることで、他人の商標を想起、連想させないよう注意を払う必要がある。さもなければ、商標権侵害や公平法違反のリスクを招くおそれがある。なお、商標が著名か非著名かは客観的な事実や証拠に基づく総合的判断が必要である。法的トラブルを未然に防ぎ、他人の商標権による制約を受けることなく、ビジネスにおいて使用上の自主性と柔軟性を確保するためには、他人の商標を主体名称として使用しないことがが望ましい。