ニューズレター
他人の商標を検索キーワードとして使用することは不正競争に該当する可能性がある—知的財産および商業裁判所114年(西暦2025年)度民商訴字第26号民事判決
一、事案の概要
(一)原告たる大漢家具有限会社は、登録番号第02009340号「大漢家具 TA Han
」商標(以下「係争商標」という)の商標権者であり、その商標をベッド、スプリングマットレス、家具小売および家庭用日用品小売に使用することを指定している。原告は、被告たる荷叡森有限会社(W. HORIZON)が競合他社であり、Googleサイトからキーワード広告を購入し、「大漢家具」を広告検索キーワードとして設定したため、消費者が「大漢家具」と入力すると、検索結果の上位に「大漢家具」を含むタイトルが表示されるが、実際には被告の公式サイトへリンクする結果となっており、また、係争広告には原告のマットレス名称「踏實享睡(安心で心地よい眠り;Firm and Enjoying Sleeping)」、「相依相伴(眠りに寄り添う;Cuddle Together)」も使用されていると主張した。
(二)原告は、被告の上記行為が消費者に誤認混同が生じさせ、原告の潜在顧客を被告の公式サイトへ誘導することで、公正な競争を損なうものであると主張した。
(三)原告は、商標法第69条第3項、公平交易法(日本の「不正競争防止法」および「独占禁止法」に相当。以下「公平法」という)第30条および著作権法第88条第1項に基づき、被告に対し損害賠償を請求する訴えを提起した。
二、本件の主な争点
(一) 係争キーワード広告は被告によるものか。
(二)係争広告のタイトルおよび広告コピー(広告文)は商標権侵害に該当するか。
(三)被告による係争キーワード広告、広告タイトルおよび広告コピーの設定行為は、公平法第25条[1]に違反するか。
(四) 原告の商品名「踏實享睡(安心で心地よい眠り)」および「相依相伴(眠りに寄り添う)」は著作権で保護される著作物か。
三、判決の概要
(一)係争キーワード広告は、被告とそのタイの親会社による共同の行為である
被告は、係争キーワード広告はタイの親会社が自ら購入・設定したものであり、親会社が台湾における経済活動の請求書発行主体として被告の名義を使用したにすぎず、被告は係争キーワード広告の作成、監督および管理には関与していないと抗弁した。しかし知的財産および商業裁判所(以下「IPCC」という)は、係争広告に記載された広告主は被告であり、被告は広告料の支払いにも関与していたこと、さらに、キーワード広告の設定により消費者が被告の公式サイトへリンクされるようになったことから、係争キーワード広告の利益が被告に帰属することは明らかであり、したがって、被告は、係争広告の意思決定を主導していなかったとして免責を主張することはできないとした。
(二)係争広告コピーは商標権侵害に該当しない
原告は、被告が係争広告のタイトル「工場直送の最高級マットレスは大漢家具に勝るものなし— 『今年の新居向けマットレス家具のおすすめ』」において、係争商標の主要部分である「大漢家具」を直接使用したことで、関連消費者が商品の出所を「大漢家具」と認識するに足りるとして、商標の使用に該当すると主張した。しかし、IPCCは、キーワード広告全体の中で、「大漢家具」という文字が使用されているのは係争広告のタイトル部分のみであり、当該キーワード広告をクリックして被告の公式サイトにアクセスしても、係争商標の文字や図案は表示されず、被告の商標「Lunio」のみが表示されていたことから、関連消費者が実際にマットレスを提供する事業者が「Lunio」であると認識するのに十分であり、通常の知識と経験を有する関連消費者が、通常の注意を払ったとしても、当該商品が大漢家具に由来するものと誤認するとは認め難く、そのため、商標権侵害には該当しないと判断した。
(三)被告による係争キーワード広告、広告タイトルおよび広告コピーの設定行為は、公平法第25条に違反する
現代のインターネットメディアが国境を越えたという特性に基づき、情報は関連する消費者市場の間で迅速かつ広範に伝播できるようになった。競合他社がインターネットを利用して行うマーケティング手法が、関連消費市場における取引秩序に与えるす影響は、従来のマーケティング手法と比べて、より深く、広範囲に及ぶことは明らかである。IPCCは、原告の製品に初期の関心を持つ消費者が、係争キーワード広告を通じて直ちに被告の公式サイトにリンクされることで、原告が潜在顧客と接触する機会が減少し、被告のビジネスチャンスが増加する結果、代替効果が生じるため、これは原告の営業上の信用名声にただ乗り(フリーライド)する不正競争行為に該当すると判断した。
(四)「踏實享睡(安心で心地よい眠り)」、「相依相伴(眠りに寄り添う)」はオリジナリティ(創作性、中国語:原創性)を有さず、著作権法で保護される著作物ではない
台湾の実務上の見解によれば、「オリジナリティ」は著作権法上の保護要件の一つである。いわゆるオリジナリティは完全な独創性を目指す必要はないが、著作者の独自性や個性を表現するに足るものでなければならない。
本件においてIPCCは次のように判断した。原告の商品名「踏實享睡(安心で心地よい眠り)」、「相依相伴(眠りに寄り添う)」について、「踏實(安心)」および「相依相伴(眠りに寄り添う)」は既存の語句であり、原告独自の発想によるものではない。また「享睡(心地よい眠りEnjoying sleep)」は「想睡(眠たいsleepy)」の同音異義語で、単に眠りを楽しむことを表すもので、著作者の独自性を表現するには不十分であり、精神的作用の程度も極めて低い。さらに、他のマットレス業者も「享睡(心地よい眠り)」をブランド名や商品名として使用していることから、「享睡(心地よい眠り」は原告の独創ではないことが明らかである。したがって、「踏實享睡(安心で心地よい眠り)」、「相依相伴(眠りに寄り添う)」はいずれもオリジナリティを有さず、著作権法による保護対象とはならない。
四、本件から学ぶこと
(一)利益の帰属者は、共同で行為に関与したと判断される可能性があり、その行為を主導・監督・管理していないことをもって免責を主張することはできない
本件において、被告は、係争キーワード広告はタイの親会社が設置したものであると主張したが、IPCCはこの抗弁を退け、被告が係争キーワード広告から利益を享受していることを、共同関与の要件の一つとして判断した。多国籍関連企業の発展につれ、企業の組織分業もますます複雑化しているが、国境を越えて事業活動を行う際には、組織間の分業調整や現地の法規制に注意を払い、マーケティング成果による利益を享受する際の違法リスクを低減することが望ましい。
(二)インターネットの急速な発展につれ、マーケティング活動の市場に対する影響はより即時的かつ深遠になっており、事業者はマーケティング戦略を立てる際により慎重であるべきである
インターネットの急速な発展の影響を受け、事業のマーケティングコンテンツは迅速に伝播され、広告効果を速やかに測定し利益を享受することが可能となっている。しかし、市場秩序への影響も同様に即時的であり、さらに地域の制約を受けない。このため、裁判所が事業者の行為の市場への影響を判断する際には、市場秩序に影響を及ぼしたと判断されやすくなるおそれがある。事業者はインターネットによるマーケティングの利益を享受する一方で、市場秩序に与える広範な影響にも十分に注意を払い、慎重に対応しなければらない。
(三)事業者は、広告コンテンツの企画・制作において他人と同一または類似の商標の使用を避け、侵害や公平法違反のリスクを生じさせないようにすべきである
事業者が広告およびその他のマーケティング関連のコンテンツを制作する際、他人の商標と同一または類似の商標の使用を避けるべきであり、商標の一部使用の場合も同様である。さもなければ、商標法、著作権法および公平法に違反する疑いが生じる。各法規における責任の認定はそれぞれ独立しており、判断要件も異なるため、たとえ商標権侵害に該当しなくても、その他の責任の成立により、損害賠償責任、侵害の排除、または罰則が問われる可能性がある。
(四)事業者がその創意や工夫を凝らした商業成果(商品名や特徴的表示等)を保護しようとする場合、商標登録出願をすることでより広範な権利保護を受けることができる
本件係争商品名「踏實享睡(安心で心地よい眠り)」および「相依相伴(眠りに寄り添う)」は、著作権法の要件の下ではオリジナリティが認められず、著作権法による保護の対象とならないとされた。しかし、商標法の下では、商標登録の鍵は「識別性」にある。事業者がマーケティングや広告等で広く使用し、当該商品名が関連する消費者に広く認知され、識別性が確立された場合、商標登録出願をすることで、他人による同一または類似の商標の使用を防ぎ、権利を完全に保護することができる。
[1]公平交易法第25条:「本法に別段の定めがある場合を除き、事業者は、その他取引秩序に影響を及ぼすに足りる欺罔行為または著しく公正さを欠く行為をしてはならない。」