ニューズレター
英語の発音に由来する暗示的商標の類否判断
商標保護制度の核心は、商標権者と消費者の利益を保障し、市場における公正な競争秩序を維持することにある。グローバル競争の激化や新たなビジネスモデルの出現に伴い、商標の保護は知的財産権保護に不可欠な要素となっている。知的財産および商業裁判所(以下「IPCC」という)が最近下した113年(西暦2024年)度行商訴字第36号行政判決は、英語の発音(称呼)に由来する暗示性(示唆的)商標が同一または類似して消費者に混同誤認を生じさせるおそれがあるかどうか、またその登録出願の適法性について判断を示しており、注目に値する。
「百靈」は、ドイツ企業ブラウン社(Braun GmbH、中国語:百靈有限会社)が台湾で登録した商標(以下「引用商標」という)であり、経済部智慧財産局(以下「智慧局」という)が公表した商品・役務区分第35類の広告関連サービスへの使用が指定されている。同社は電気シェーバー、脱毛器、耳式体温計などの家電製品の販売で知られている。一方、「百靈果」は、ケリーとケンという2人のホストが運営する有名なパーソナル・メディアプラットフォームである。このプラットフォームは主に中国語と英語の対話形式で進行され、時事問題の共有、国際ニュースの議論、社会問題の探究などをよく行っている。「百靈果」という名称は主に「百靈果News」や「百靈果Book Club」などで使用されている。
「百靈果」商標の保護を求めるため、原告であるオアシス・モラル株式会社(筆者注:判決文には原告と百靈果関連番組との関係は明記されていないが、その投資者または制作会社である可能性があると推測される)は、智慧局に対し「百靈果」を商標(以下「係争商標」という)として登録出願し、同局が公表した商品・役務区分第35類の広告関連サービスへの使用を指定した。しかし、智慧局の審査の結果、係争商標は商標法第30条第1項第10号「同一または類似の商品または役務について、他人の登録商標または先に出願された商標と同一または類似であり、関連する消費者に誤認混同を生じさせるおそれがあるもの」に該当すると認められ、原告の出願は拒絶された。原告はこれを不服として訴願を提起したが棄却された。その後、原告は知的財産および商業裁判所(以下「IPCC」という)に行政訴訟を提起した。IPCCは、以下の理由に基づき智慧局の決定を維持し、原告の訴えを棄却した。
1.係争商標「百靈果」と引用商標「百靈」は類似しており、その類似度は高い
IPCCは、商標の類否およびその類似度の判断は、商標図案全体を観察すべきであるが、全体観察の原則のほかに、主要部分(要部)観察というものもあり、両者は決して2つの対立するものではなく、相互補完的な関係にあると明らかにした。係争商標「百靈果」を審理した結果、 IPCCは、係争商標の主要識別部分が「百靈」という2つの文字であり、これは、引用商標の文字「百靈」の主要識別部分と外観、発音(称呼)、観念のいずれにおいても同一であると判断した。原告は、係争商標の発想が英語の発音「Bilingual(バイリンガル)」に由来する暗示的商標であるため、係争商標の全体的表現は「百靈」という2つの文字ではなく、「百靈果」であるべきと主張した。しかし、この主張に対し、IPCCは、説明がなされない限り、一般消費者が「百靈果」という名称から直接英語の発音「Bilingual」を連想することは実際には困難であり、ひいては係争商標と引用商標との間に顕著な差異があると認識するには至らないとの見解を示した。そのため、IPCCは、係争商標と引用商標の主要識別部分が高度に類似しており、関連する消費者に混同誤認を生じさせるおそれがあると判断した。
2.係争商標「百靈果」と引用商標「百靈」の指定役務は高度に類似している
原告は、引用商標が実際に使用されている役務は実店舗やオールドメディアを通じて宣伝されることが多く、製品機能の説明に重点が置かれているのに対し、係争商標が実際に使用されている役務はニューメディア(New media)広告サービスにあり、両商標が指定する商品・役務は異なるものとみなすべきであると主張した。これに対しIPCCは、商標の役務の類否判断は、両商標の登録出願時に指定された商品・役務に基づくべきであり、実際に使用されている役務に基づくものではないと明示した。係争商標と引用商標が出願時に指定した商品・役務はいずれも第35類であることから、IPCCは両商標の指定役務は高度に類似していると認め、原告の主張は採用できないとした。
3.関連消費者の両商標に対する認知度
IPCCはまず、ドイツ企業ブラウン社が早くも2002年に引用商標の商標権を取得済みであり、同社が販売する家電製品は日常生活で一般的に見られる商品であるため、関連する消費者に広く認知されているはずであると認定するに足りることから、引用商標「百靈」が関連する消費者にとってドイツ企業ブラウン社の所有する商標であることに疑いがないと認めた。原告は、係争商標がPodcastやYouTubeなどのチャンネルで使用されており、自ら他者に委託して実施したインターネットアンケート調査の結果から、関連する消費者が係争商標「百靈果」が原告によって商標として使用されていることを明確に認識しており、混同誤認のおそれはないことを十分に示していると主張している。しかし、IPCCは、原告が提出した証拠はその主張を裏付けるには不十分であり、関連する消費者にとって両商標が混同誤認を生じるおそれがないことを立証できなかったため、原告の主張は採用できないと判断した。
本件は、英語の同音異義語を用いた暗示的商標の識別性判断に関するものである。権利者が暗示的商標を設計および登録出願する際には、同音異義語が消費者に与える新奇で独特な・ダブルミーニングの印象だけでなく、台湾の消費者が同音異義語の漢字の主要部分に対する識別程度も併せて考慮すべきである。特に、同音異義語の漢字が既存商標に関連する場合、当該商標が既存商標と類似するかどうか、すなわち登録を認められないかどうかの判断に影響を及ぼす可能性がある。