ニューズレター
新専利法第97条第1項第2号の所得利益計算についての 知的財産裁判所判決
改正前の「専利法」(※日本の特許法、実用新案法、意匠法に相当)第85条第1項第2号において、専利権者は「侵害者が侵害行為により得た利益による」(総利益)を損害賠償計算の基礎として選択することができる、と規定されているが、「侵害者がそのコスト又は必要経費について立証できない場合、該物品の販売により得た全収入をその得た利益とする」(総売上額)とも規定されており、即ち、侵害者は、その「コスト」及び「必要経費」について立証することによって、損害賠償責任を軽減することができる。当該条文の適用について、知的財産裁判所ではもともと徐々にコンセンサスを形成していたため、多くの判決において、財政部の公布した同業利潤基準計算を直接採用するのは妥当ではない、とする見解が示されている。これらの見解は、最高裁判所2011年度台上字第1091号判決で、「知的財産裁判所は、侵害者がコスト及び必要経費について立証して売上総利益を計算し、且つ、該コスト及び必要な費用は侵害者が権利侵害製品を販売するために直接投入した製造コスト及び必要な費用に限定され、侵害者の事業運営に係るその他の固定のコスト及び費用を算入することはできず、もし立証することができなければ、全収入を以て損害賠償金額を計算する、と具体的に確認している」と肯定されている。
新専利法は2011年12月21日に公布され(並びに2013年1月1日から施行)、前記の条文は第97条第1項第2号に修正され、前述の「侵害者が侵害行為により得た利益による」の部分は保留されたものの、後段はすべて削除された。即ち、総利益説のみが保留され、総売上説は削除された。その改正理由には「現行の規定は総売上説を採用しており、…それが得る賠償は明らかに過当である嫌いがある。そこで、当該条項の後段を削除し、損害賠償請求時に、実際の個別案の情況を考慮して計算する」と記されている。これらの改正は損害賠償の計算及び立証責任の分配に影響を及ぼすため、法改正以来、専利権者及び実務作業者の関心を集めている。
新法が施行されてから既に1年半が経過し、現在既にいくつかの知的財産裁判所の判決において、新法第97条第1項第2号を適用して損害賠償が計算されており、いくつかの判決では依然として以前達成したコンセンサスを採用して、侵害者がその「コスト」及び「必要経費」を立証し、損害賠償額を計算しているが、一方で、「同業利潤基準」の「純利益」データに立ち戻って損害賠償の計算を行っている判決もある。これらの判決について、以下のように簡単にまとめた。
l 侵害者がその「コスト」及び「必要経費」につき立証
知的財産裁判所102年(西暦2013年)度民専訴字第78号(2014年1月)、102年(西暦2013年)度民専訴字第69号判決(2014年4月)及び102年(西暦2013年)度民専訴字第115号(2014年4月)は、原告が「専利法」第97条第1項第2号の規定により被告が得た利益を計算するよう主張したとき、いずれも、依然として権利侵害製品の販売価格から被告が提出したコスト資料におけるコストを差し引き、それに販売数をかけて賠償金額を計算している。しかし、そのなかで、当該これらのコストが、侵害者が権利侵害製品を販売するために直接投入した製造コスト及び必要な費用に限定されているかどうか、若しくはその他の固定のコスト及び費用が含まれているかどうかについては、明確に分析、説明されていない。
l 「同業利潤基準」の「純利益」
他方、102年(西暦2013年)度民専訴字第3号判決(2013年12月)においては、今回の法改正の立法理由及び改正のねらいが詳細に述べられており、並びに損害填補原則、即ち「権利侵害行為賠償損害の請求権とは、被害者の実際の損害を填補するためにあり、利益を与えるものではない」と重ねて言明している。また、当該判決は、たとえ改正前の専利法第85条第1項第2号に、権利者が損害によって生じた金額及び侵害行為と損害との間の因果関係などを立証するのが難しいため、後段に立証責任転換の規定が追加されたとしても、「前段又は後段の規定、いずれにより請求するかにかかわらず、専利権者に過度の損害補充をさせる意図はない」と説明している。前述の原則に基づき、該判決は、新専利法第97条第1項第2号が前段の「総利益説」を保留したのは「専利権者の立証の難しさ及び権利侵害行為の発生の予防、阻止を考慮」したためであり、また「実際の個別案の情況に応じてこれを計算することができる」と明示している。
当該判決に明示されている原理から見ると、それは「実際の個別案の情況に応じて計算する」際に、依然として、それまでに侵害者がその「コスト」及び「必要経費」を立証するという方法により計算できることを否定していないようである。しかし、調べたところ、当該具体的な個別案において、原告と被告は、被告の総営業額に財政部の公布した「同業利潤基準」をかけることに同意しており、総売上又は純利益についてのみ、若干の争いがある。これにつき、当該事案の被告の営業項目は権利侵害疑義製品の製造販売のみであるため、当該判決は、被告「の営業額はすべて係争製品の製造販売に係る収入であり」、且つ「営業費用もすべて係争製品の製造販売と直接関係があり」、「該これらの営業費用は、被告…の専利侵害に係る行為がなく、権利者が係争専利製品を製造販売する際にも生じるため、該これらの営業費用は当然…販売額から差し引かなければならず、当該差し引き後の金額こそが、侵害者の専利侵害行為がなければ、権利者が得ることのできた利益である。故に、原告は『同業利潤基準』の総売上率による損害賠償額の計算を主張しているが、かかる主張に理由はなく、『同業利潤基準』の純利益率でこれを計算しなければならない」と判示している。これらの法律分析は、「専利権者の実際の損害」という視点に立ち戻って個別案について考慮し、権利者が自ら製造販売する際にも営業費用を生じると認め、純利益で損害賠償金額を計算するよう判示したようである。
102年(西暦2013年)度民専訴字第56号判決(2014年5月)も同じ分析方法を採用し、また「同業利潤基準」の純利益率による損害賠償計算を採用している。並びに当該判決は、「財政部は毎年、営利事業各種同業につき、利潤基準を定めて、所得税課税の依拠としている。当該『同業利潤基準』は各業のサンプリング調査並びに当該各同業組合から集めた意見に基づいて定められており、いわば統計及び経験によって定められた基準である。当裁判所は損害額を斟酌、算定する際に、これを参酌することができる」と言明している。
上記判決現況からわかるように、新法施行後、現在、3つの判決が依然として、侵害者がその「コスト」及び「必要経費」につき立証する方法を採用し、損害賠償金額を計算しているが、ほかの2つの判決は、今回の法改正の主旨を詳しく分析し、且つ、裁判所が「同業利潤基準」の純利益率を参酌して損害賠償金額を計算できることを詳細に説明している。上記5つの判決はいずれも一審判決であり、これらは知的財産裁判所の二審に上訴されることになるが、今後の判決の展開は、知的財産裁判所の新たなコンセンサスを形成する可能性があるため、当該案件の今後の動向に着目したい。