ニューズレター
智慧財産局は進歩性判断の審査基準を改訂予定
特許の審査過程において、進歩性の判断は極めて重要である。いかに引例を組み合わせて進歩性を判断するかに関し、現行の特許審査基準において、「1件又は複数の引例に開示されている従来技術に基づいて、出願時の通常の知識を参酌して、当該従来技術を組み合わせ、改変、置換又は転用などの結合方法で、特許出願に係る発明を完成することができる場合、当該発明は全体として自明であるものに属し、容易に完成できる発明と認定しなければならない」という簡単な記述にとどまっている。したがって、実務上は発明と従来技術との対比において、各引例の選定の大半は主副の区別がなく、審査官は往々にして各引例の内容をモザイクのように寄せ集めて、任意に組み合わせているに過ぎず、また引例における阻害要因(teach away)もほぼおざなりにされており、「後知恵」による判断の状況は依然としてよく見受けられる。
知的財産裁判所が2016年2月26日に開催した「知的財産権関連訴訟議題及び新興技術に関するシンポジウム」において、出席した智慧財産局(※台湾の知的財産権主務官庁。日本の特許庁に相当)の代表者は、審査過程において、進歩性の判断時に「後知恵」の発生を減少するため、当局は審査基準の改訂に取りかかる予定で、審査官の主観的判断に陥ることのないよう、出願時において当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者の水準の客観的な定義づけ、証拠に基づく客観的な論理づけの原則の確立などを目標にする、と示していた。今後の改善の方向性として、以下の項目が挙げられる。
1. PHOSITA(Person Having Ordinary Skilled In The Art)に関する定義の補足
現行の審査基準における「当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者」とは、「架空の人物」をいう。先端技術の開発では多分野にわたる知識が必要とされることがよくあり、単一の技術分野における知識を有する「1人」だけで完成できるものではなく、異なる技術分野における知識を有する「数人のグループ」(例えば、1つの研究チーム又は生産チーム)によって、初めて完成することができることを考慮した上で、欧州特許庁の審査基準を参考にして現行の審査基準における「当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者」の定義を補足し、異なる技術分野における知識を有する「数人のグループ」の角度から発明が進歩性を備えるか否かを判断する。
2 複数の引例をモザイクのように寄せ集める問題を改善し、「主引例」を選定する必要性を明文化
欧州又は日本の審査基準を参考にして、原則として、まず最も近い従来技術又は最も適した一の従来技術を「主引例」として選定し、それを相違点の対比の基礎とする。
3. 「容易に完成できる」の判断ステップ及び考慮要素の緻密化
発明が容易に完成できるか否かを判断する時、以下の4つの面から、引例を組み合わせる動機付けがあるか否かを考慮すべきである。
● 技術の分野の関連性
● 解決しようとする課題の関連性
● 機能又は作用における関連性
● 関連する従来技術における特許出願に係る発明に関する教示又は示唆
組み合わせる動機付けがあると認めた後、さらに予期できない効果を奏するか否かを考慮すべきである。
この他に、日本の審査基準も参考にして、組み合わせる動機付けを考慮する時、さらに以下のような「阻害要因」も考慮すべきである。
● 副引例は主引例の目的に反するものとなる。
● 副引例を主引例に適用すると、逆に主引例が機能しなくなる。
● 副引例を主引例に適用することを試みたが、主引例がその適用を排斥しており、採用されることがあり得ない。
● 副引例を主引例に適用すると、発明が解決しようとする課題に関して、作用効果を奏せないと記載される例が開示されており、通常の知識を有する者は通常このような適用方式を考えない。
上述した特許審査基準の改訂が実行されれば、進歩性判断の質の改善に大いに寄与するだろう。