ホーム >> ニュース、出版物など >> ニューズレター

ニューズレター

搜尋

  • 年度搜尋:
  • 專業領域:
  • 時間區間:
    ~
  • 關鍵字:

商業的成功に関する最高行政裁判所の判断基準


Julie Wu

専利(特許、実用新案、意匠を含む)審査基準は、発明の進歩性を肯定する補助的判断要素(secondary considerations)として「発明が商業的成功を収める」こと(以下「商業的成功」という)を挙げているが、最高裁判所、最高行政裁判所、知的財産及び商業裁判所の判決を見ると、「商業的成功」が専利の進歩性の判断に影響を及ぼすのに十分であるか否か、また、裁判所は発明者の「商業的成功」の主張と事実証拠をどのように考慮するかについて、実務上、一致した基準や見解がないように見える。

 
最高行政裁判所は、110年(西暦2021年)度上字第670号判決(判決日:2023615日、以下「本判決」という)において、特許の進歩性の判断における「商業的成功」の役割について、以下の見解を示した。「『商業的成功』は進歩性判断の補助的要素に過ぎず、唯一の要素ではない。特許製品の商業的成功は、その技術的特徴に加え、販売手法、広告宣伝、市場の需給状況、社会経済情勢全般などの要素にも左右される可能性がある。したがって、発明が商業的成功という進歩性を肯定する要素を有するか否かを判断するには、その成功が、当該発明の技術的特徴によって直接起因するものでなければならず他の要素(販売手法、広告宣伝など)によるものではない。よって、特許製品に『非特許発明又は公知の構成』が含まれていないとしても、商業的成功が発明の技術的特徴に直接起因するものでなければならないと結論づけることはできない」。
 
発明者が原審で「商業的成功」の立証のために用いた事実証拠や主張には、発明を実施した医薬品(特許薬)に関する報道、売上高、特許薬に非特許発明又は公知の構成が含まれていないことなどが含まれていた。最高行政裁判所は、発明者が提出した事実証拠や主張は、係争特許薬の商業的成功が係争特許の技術的特徴に直接起因するものであることを立証するには不十分であるとの原審の判断を支持した。その理由は以下のとおり。
 
一、係争特許薬に関する報道や売上高について
 
原告(発明者)が提出した報道では、係争特許薬「Truvadaツルバダ)」の2018年の売上高が30億米ドルに迫り、同薬が「エイズの奇跡の薬」と賞賛されていることに言及しているが、上記報道には、その商業的成功が発明の技術的特徴に直接起因するものであることを立証する客観的な実験データ(他剤との比較試験のデータなど)はない。ツルバダ製薬の市場独占地位に関する報道、ツルバダの台湾市場における売上高は、係争特許薬が2019年以前にPrEP(曝露前予防薬)として使用可能な唯一の医薬品であり、相当な売上高があることを立証するに過ぎない。しかし、一般商品の自由競争市場とは異なり、医薬品は販売されるまでに試験検査登録、製造販売承認などの手続きを経なければならず、前述のプロセスを通過するためには、費用と時間のかかる臨床試験などが重要な要素となるため、すべての医薬品特許が最終的に特許薬になるとは限らない。したがって、原告が提出した証拠によって証明できるのは、せいぜい、係争特許製品が、市場の機先を制し、あるいは市場メカニズムをうまく利用して独占的市場を形成し、相当の売上高を達成した医薬品であるということだけであり、その成功が係争特許の技術的特徴に直接起因するものであると結論づけることは難しい。
 
二、特許薬には非特許発明又は公知の構成は含まれていないという主張について
 
原告はまた、係争特許製品にはいかなる非特許発明又は公知の構成も含まれておらず、係争特許製品の商業的成功は完全に係争特許の技術的特徴に起因するものであると考えるべきであると主張した。しかし、係争特許が『商業的成功』という進歩性を肯定する補助的判断要素を有するか否かは、その成功が係争特許の技術的特徴に直接起因するか否かに判断の焦点が置かれるべきで、これは、係争特許製品が公知又は非特許発明の構成を使用しているか否かとは必ずしも関係がない。原告の上記判断が採用された場合、非特許発明又は公知の構成を含まない特許製品であっても、従来技術の習熟者に比べて技術レベルが低い(すなわち技術的貢献が得られず進歩性がない)にもかかわらず、低価格のマーケティング戦略やプロモーションといった非技術的要素の採用により商業的成功を収めた場合も、進歩性を肯定する要素を有すると判断されることになり、不合理であるばかりでなく、特許の技術的特徴に直接起因する商業的成功によって当該特許の進歩性の判断を補助するという性質にも反することになる。
 
三、参加人が提出した証拠も参酌する
 
参加人が提出した『240万ボトルの古い世代のHIV治療薬を無償提供 ギリアド社は何を企んでいるのか』という報道や、2018年香港ギリアド・サイエンシズ(Gilead Sciences医薬会社台湾支社からのツルバダ錠(Truvada Tablets)寄贈品受入事案の取扱いに関する台湾衛生福利部(日本の厚生労働省に相当)疾病管制署Centers for Disease Control、略称:CDC)ホームページ情報を参酌すると係争特許製品は寄贈という形で提供され、その後予防薬として服用されたことで、当該医薬品の需要が生まれ、当該医薬品の売上増につながったことが分かる。したがって、市場における係争特許製品の販売額には、実際には多くの産業要因やマーケティング手法によるものが隠されている。
 
最高行政裁判所は、110年(西暦2021年)度上字第597号判決において、事実審裁判所が商業的成功などの補助的判断要素に関する特許権者の証拠や主張を調査することなく、特許権者に不利な判断を下したことは、法令違反になると明確に指摘した。本判決において、最高行政裁判所はさらに、商業的成功の主張と立証について、具体的に考慮要素と根拠を示した。同裁判所は、最終的に、より厳格な立場で係争特許の進歩性を認めなかったが、今後の特許の有効性に関する紛争において、当事者が証拠を準備し、訴訟戦略を策定するための参考となる。
回上一頁