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実用新案技術評価書における不利な記載内容と権利濫用の判断



台湾の専利法(日本の特許法、実用新案法、意匠法に相当)では、実用新案登録出願に対して方式審査が採用されているため、智慧財産局(台湾の知的財産主務官庁。日本の特許庁に相当。以下「智慧局」という)は登録要件について実体審査を行う必要はない。しかし、実用新案は実体審査を経ずに権利が付与されることから、実用新案権者による権利の濫用を防ぐため、専利法第116条では、実用新案権者は、実用新案権を行使するとき、実用新案技術評価書(日本語「実用新案技術評価書」)を提示して警告を行わなければならないと規定されている。また、同法第117条では、実用新案権者の実用新案権が取り消される場合、それが取り消される前に、当該実用新案権を行使することによって他人に与えた損害について、賠償責任を負わなければならない。ただし、実用新案技術評価書の内容に基づいて、かつ、相当な注意を払ったうえで権利を行使した場合には、この限りではないと規定されている。以上の条文から、たとえ実用新案権者が実用新案技術評価書をすでに取得し、その内容に基づいて権利行使したとしても、その実用新案権は取り消される可能性があるため、第三者の権利を侵害しないよう、実用新案権者は権利行使する際にはやはり相当な注意を払わなければならない。

 

最近ある民事訴訟事件において、実用新案技術評価書に、全ての請求項に係る考案についての対比結果は、「その新規性等の要件を否定するに足る従来技術文献を発見できなかった」(コード6)旨の記載とともに、その説明に「明細書及び図面を参酌しても、請求項に係る考案を明確に認定できず、有効な調査と対比を行うことができなかった」旨の記載もあったが、実用新案権者はこの実用新案技術評価書に基づいて「警告状」を発送し、証拠保全を申し立て、民事権利侵害訴訟を提起した。その後、当該実用新案権が、「実用新案登録請求の範囲は明細書及び図面により裏付けられていないため、実用新案登録請求の範囲が不明確となり、その内容を理解することができない」ことを無効理由として智慧局により取り消された。この場合、実用新案権利者による権利行使は権利の濫用にあたるのか。

 

この点について、知的財産裁判所による2018423日付の106年度(西暦2017年)民專訴字第76号民事判決では、以下のような見解が示されている。まず、同裁判所は、実用新案技術評価書に記載された「明細書及び図面を参酌しても、請求項に係る考案を明確に認定できず、有効な調査と対比を行うことができなかった」等の説明は、専利法に規定する「明確性」要件の用語に対応しておらず、かつ実用新案技術評価書は行政処分ではなく、法的拘束力をもたないため、上記記載は自ずと智慧局による係争実用新案の「明確性」要件違反の認定に等しいものではない。

 

次に、本件では、被疑侵害者は、実用新案権侵害訴訟が第二審の手続きに入ってから初めて係争実用新案の「明確性」要件違反を理由として無効審判を請求した。これに対し、裁判所は、実用新案権者が実用新案技術評価書を取得した後もなおこの取消理由に対して高度の注意義務を負うよう求めることは実に難しいとの考えである。したがって、実用新案権者が警告状の送付及びその後の証拠保全の申立て、訴訟の提起等を通じて、係争実用新案権を行使する時、主観的には係争実用新案権が合法かつ有効なものであると認識しているため、故意又は過失によって原告の権利を侵害することがないのは当然である。

 

このほかに、本件の実用新案権者は、実用新案技術評価書における上記の記載内容があるため、智慧局に明細書の内容を請求項に追加する訂正を請求したが、知的財産裁判所はやはり、これだけで実用新案権者が係争実用新案権の「明確性」要件違反を理解することを認定できない、との考えである。したがって、知的財産裁判所は、実用新案権者による権利行使はいずれも係争実用新案権が合法かつ有効なものであるという認識に基づくものであり、かつ、警告状を発送する前にすでに相当な注意を払っていれば、故意又は過失による権利の濫用はないと認定した上で、被疑侵害者による損害賠償請求を棄却した。

 

本件では、実用新案権者による権利行為が権利の濫用にあたるか否かについて、より厳しい判断基準を採用した。しかし、このような実務があったとしても、権利濫用で訴えられるリスクを避けるため、実用新案権者が権利を行使する際には、やはり技術報告の対比結果及び記載内容に注意を払う必要がある。

 

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