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最高行政裁判所による「特許明細書は実施できる程度に発明を十分に開示したものであるか否か」の判断基準



 専利法(日本の特許法、実用新案法、意匠法に相当)第26条第1項には、「明細書は、当該発明が属する技術の分野における通常知識を有する者(以下「当業者」という)が、その内容を理解し、それに基づいて実施することができるように、明確かつ十分に開示しなければならない」と規定されている。即ち、特許明細書(Specification)は「実施可能要件」(enablement)を満たさなければならず、さもなければ無効審判(invalidation)の無効事由となる。しかしながら、明細書の開示はどの程度まで達していれば実施可能要件を満たすのかということについて、特にバイオ・医薬品分野における特許では判断困難という問題に直面している状況である。これに対して、最高行政裁判所の201768日付106年(西暦2017年)度判字第278号判決は一定の見解を示した。

 

 本事件において、無効審判請求の対象となる特許は台湾特許第I342772号「アレルギー性疾患の治療又は軽減用医薬組成物(Drug For Treating Or Alleviating Allergy Disease)」以下「係争特許」というであるが、それは経済部智慧財産局台湾の知的財産権主務官庁。日本の特許庁に相当。以下「智慧局」という)により実施可能要件を満たさないとして無効にされるべきものと認められた後、経済部訴願審議委員会及び知的財産裁判所のいずれも、智慧局による処分を維持した。特許権者はこれを不服として最高行政裁判所に上告した。

 

 最高行政裁判所は審理の後、以下の見解を示した。特許出願に係る発明が十分に開示され、それに基づいて実施できる程度に達しているか否かについては、発明の詳細な説明(description)、特許請求の範囲(claim)及び図面(drawing)の三者全体(as a whole)を基礎として、出願時(出願日又は優先日)の通常の知識を参酌して判断すべきである。特許明細書は、当業者がその特許出願に係る発明の内容を理解できるように記載すべきであり、それを実施可能要件を満たしているか否かを判断の基準とし、実施できる程度に記載されていれば、その明細書に特許出願に係る発明が明確かつ十分に開示されていると認めることができる。原則上、特許権者がこの点について提出した証拠は、主に特許出願時の当業者が特許明細書に基づいて過度な実験をせずとも、その特許発明の内容を実施できれば、特許請求の効果を奏することができるかを証明することに重点を置くものであり、当業者が特許出願時の知識に基づいて、当該特許出願に係る技術内容を想到する可能性の程度を証明することに重点を置くものではない。その理由は、当該特許出願に係る技術内容の容易想到性は当該特許発明の進歩性有無の問題で、当該特許発明が十分に開示され、それに基づいて実施できるか否かを判断する問題ではないからである。

 

 本事件において、最高行政裁判所は、係争特許には実験データがないため、疾患になる原因及び異なる程度の病状と係争特許に係る組成物の投与効果との関連性についての説明が欠けており、また、有効性(validity)と信頼性(reliability)のある資料(例えば、実験群と対照群を比較する実験、実験用ラットの生理、病理及び(又は)毒性に関する報告など)も提供されていないとして、係争特許は確かに実施可能要件を満たしていない、と判示した

 

 以上をまとめると、明細書の技術内容をどの程度まで開示して初めて実施可能要件を満たすのかについて、専利法では、すべての実験ステップを具体的に開示することは求められていないが、最高行政裁判所による上記説明から分かるように、当業者が過度な実験をせずとも、係争特許に係る技術内容及び効果を合理的に推考し得るよう、やはり科学の原理に基づく実験設計及び有効性と信頼性のある実験結果を開示又は提供しなければならない。本事件は、特許明細書の記載方法について十分参考に値するものである。

 


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