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進歩性の判断における「最も近い従来技術」の位置付け


簡秀如/SUW

 進歩性の判断とは、一般的にいずれも複数の従来技術の引用文献の組合せを対比の基礎とし、それぞれの従来技術の開示内容を組み合わせて係争発明を容易に完成できる動機づけがあるか否かを検討するものである。しかし、それぞれの従来技術と係争発明とを対比して進歩性の有無を判断するときに、各従来技術に主・副の区別があるか否かについては、実務上明確な事件はまだなく、特許審査基準にも具体的な記載がない。

 

 これについて、欧州、日本及び中国の審査では、いずれもすでに「最も近い従来技術」(或いは「主引例」と称する)の概念を採用している。例えば、欧州特許庁の審判部の判例集(Case Law of the Broads of Appeal of the European Patent Office)では、次のように指摘されている。ある発明が特定の技術課題に対し、明らかに容易に知り得る技術方案を提供するか否かを評価するとき、当業者がその他の従来技術の教示に基づき、「最も近い従来技術」を変更すれば、当該発明に想到できることを予期できるか否かを考慮すべきである。When considering whether or not claimed subject-matter constitutes an obvious solution to an objective technical problem…the question to be answered is whether or not the skilled person, in the expectation of solving the problem, would have modified the teaching in the closest prior art document in the light of other teachings in the prior art so as to arrive at the claimed invention.

 

 台湾知的財産裁判所は2011728日付で下した99年(西暦2010年)度民専上字第55号判決において、かつて「最も近い従来技術」の概念に言及したことがある。裁判所の考えは次のとおりである。実用新案登録出願に係る考案に対応する従来技術は微かな構造変更の相違点があるのみで(すなわち「最も近い従来技術」、closest prior art)、当該従来技術と区別される技術的特徴(the distinguishing features)はまた、同一技術分野の従来技術文献においてすでに見られるものであり、当該最も近い従来技術に開示された内容を置換又は変更することにより実用新案登録出願に係る考案を構成し、かつ予期できる効果を生じさせることを促すに足るものであることから、当該実用新案は容易に考案することができることは明らかで、進歩性を有しないと認定すべきである。

 

 知的財産裁判所は引き続き20161121日付で下した105年(西暦2016年)度行専字第13号行政判決において、「最も近い従来技術」について言及している。当該事件において、台湾智慧財産局(日本の特許庁に相当)は無効証拠23の組合せに基づき、係争特許は進歩性を有しないと認定し、無効審決を下した。特許権者たる原告は、行政訴訟において無効証拠3と無効証拠2の間、それと無効証拠3と係争特許の間における構造と製造工程との相違点についてそれぞれ論述し、これらは容易に組み合わせることができないと主張した。

 

 知的財産裁判所は上述の判決において次のように指摘した。進歩性の判断にあたり、まず特許出願に係る発明と「最も近い従来技術」とは何かを確認すべきである。次に特許出願に係る発明と最も近い従来技術との間の相違点を確認することにより、特許出願に係る発明が従来技術で解決できない技術的課題を克服できるか否か、それとも新たな技術的手段を提案することにより産業又は消費市場のニーズにより大きな効果が得られるか確認する。最後に、当業者が最も近い従来技術を基礎として、それを転用、置換、変更し又はその他の従来技術と組み合わせることにより、特許出願に係る発明の全体を容易に完成させるとともに、予期できる効果を奏することについて、合理的かつ具体的な理由があるか否かを総合的に判断する。

 

 前述した理由に基づき、裁判所は次のように判示した。係争特許の構造及び製造工程はすでに無効証拠2係争特許の最も近い従来技術)に開示されているため、無効証拠23が係争特許が進歩性を有していないと証明できるか否かを判断する際には、無効証拠3と無効証拠2との構造の相違点を過度に機械的に対比して両者は組み合わせることができないと認定すべきではない。また、無効証拠23の技術分野に関連性があり、解決しようとする技術手段及び達成しようとする効果にも共通性があることから、組合せの動機づけが存在する。かつ、両者の組合せは確かにすでに係争特許の全ての技術的特徴を開示しているため、係争特許は進歩性を有しないと認定し、原告の訴えを棄却した。

 

 上述した台湾知的財産裁判所の判決から、「最も近い従来技術」とは何かを確立した後、それぞれの従来技術の間に組合せの動機づけが存在する場合、組合せに用いられるその他の従来技術が「最も近い従来技術」と区別される係争特許の技術的特徴を開示しているか否かについて対比を行うだけでよく、それぞれの従来技術間の構造上の相違点を過度に機械的に対比して組合わせることができないと認定すべきではないことが明らかである。

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