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「当業者」の技術水準をどう確立するか

簡秀如/Shih-I Wu


台湾の専利法(※日本の特許法、実用新案法、意匠法に相当)であれ他国の専利制度であれ、特許要件の判断については、いずれもその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という)を架空の判断主体としている。例えば、台湾の専利法第22条第2項に、出願された特許の発明が進歩性を有するか否かを判断する時、当業者が、出願前の従来技術に基づいて容易に完成することができるか否かを判断しなければならない、と規定されており、専利法第26条第1項にも、特許明細書が明確かつ十分に開示されているか否かの判断は、当業者がその内容を理解し、それに基づいて実現することができるか否かを見なければならない、と規定している。また、専利審査基準でも、特許請求の範囲の解釈は当業者をその判断の主体及び水準としなければならない、と規定している。これらから、「当業者」の技術水準をどのように確立するのかは、特許審査のみならず、権利侵害訴訟の分野においても重要な課題である。

 

しかしながら、台湾の裁判所の判決において、これまで特に「当業者」について解釈したり、「当業者」の能力又は学歴・経歴水準は何かについて具体的に認定したり、裁判所が審理においてどのように架空の「当業者」になり特許の有効性の判断を行ったかという説明もほぼなされていない。「当業者」は行政法における「不確定法概念」に属しており、特許をめぐる争いは往々にして比較的先進技術のみならず、開発中の技術にも関わることから、当該不確定法概念を具体的にどう解釈し適用するかには疑義がある。

 

最高行政裁判所が2016929日付けで下した105年(西暦2016年)度判字第503号判決では、裁判所が「当業者」の水準についてどう確立するのか、明確にその見解を示している。

 

いわゆる当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者とは、一般的な定義に基づき架空の人物を指し、その発明が属する技術の分野における通常の知識及びルーティンワーク、実験を行う通常の能力を有し、出願日(優先権を主張している場合は優先日)の前の従来技術を理解し、利用することのできる者である。当該通常知識を有する者とは架空の人物であり、それは特許審査官ではなく、特許の有効性に係る訴訟の裁判官でもなく、ひいては技術審査官でもない。法律の条文でこの架空の人物を規定する目的は、進歩性要件の判断における後知恵を防止することにある。「当業者」は知識要件と技能要件に分けることができる。知識要件とは「周知又は普通に使用されている情報及び教科書又は参考書に記載された情報を含む既知の普通の知識」を指し、高卒、大卒又は修士・博士などの学歴別によるべきではなく、学歴で定義する場合には、一定の範囲の不特定の人物となり、架空の人物ではない。また、上述した定義の「ルーティンワーク、実験を行う通常の能力」は、すなわち当業者の技能要件である。

 

最高行政裁判所は前述した判決において、次のように示している。当業者の水準を確立しようとすることは、実際の裁判上において困難であることは確かである。しかし、この架空の人物を確立することは、進歩性の有無の客観的判断にとって極めて重要であり、今後、裁判所が進歩性を判断する時も、先ずは係争特許の重点的な技術分野、従来の技術が直面している問題、課題解決の方法、技術の複雑性及びその実務従事者の通常の水準に基づき「当業者」の知識レベルを確立し、また、当事者に「当業者」の構成要件について弁論する機会を与え、又は適時にその法律上の見解を表明し、適度に心証を開示することが好ましい。

 

前述した最高行政裁判所の判決が、裁判所に大きな影響を与えたか否かについては、なおも観察が待たれるが、台湾知的財産裁判所ではすでに学歴と職歴により「当業者」の範囲を特定する判決(20161027日付の103年(西暦2014年)度民専上更(一)字第10号判決)がなされたことが分かっている。

 


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