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TPP加入に向けての専利法の改正動向



それに応じて、智慧財産局(台湾の知的財産権主務官庁。日本の特許庁に相当)は行政院(台湾の最高行政機関。日本の内閣に相当)のTPP∕RCEPRegional Comprehensive Economic Partnership、東アジア地域包括的経済連携プロジェクトチーム」会議の決議に従い、2016510日、TPP加入に向けた専利法改正案(以下「TPP専利法改正案」という)を行政院へ送付し、政権引継ぎ事項の1つとして盛り込まれた。当該専利法改正案のポイントは、以下のとおりである。

 

一.     グレースピリオドの適用拡大

 

知的財産の活用を促進するため、特許のグレースピリオド(新規性喪失の例外期間)が台湾での特許出願の出願日前12ヶ月以内に緩和されるとともに、特許、実用新案及び意匠におけるグレースピリオドが適用される公開態様及び手続要件も緩和される(改正条文第22条及び第122条)。改正の詳細は以下のとおりである。

 

1.         特許及び実用新案

 

現行の専利法第22条(特許及び実用新案に適用)の規定は以下のとおりである。

 

22

 

産業上利用することができる発明は、次の各号のいずれにも該当しない場合、本法により出願し、特許を受けることができる。

 

一、出願前に既に刊行物に記載されたもの。

二、出願前に既に公然実施されたもの。

三、出願前に既に公然知られたもの。

 

発明が前項各号のいずれにも該当しないが、それが属する技術分野における通常の知識を有する者が出願前の従来技術に基づいて容易に完成できる場合、依然として特許を受けることができない。

 

出願人は次の各号のいずれがあり、かつその事実の発生後6ヶ月以内に出願した場合、当該事実は第1項各号又は前項にいう特許を受けることができない事情に該当しないものとする。

 

一、実験のために公開されたもの。       

二、刊行物に発表されたもの。

三、政府が主催又は認可した展覧会で展示されたもの。

四、その本意に反して漏洩したもの。

 

出願人が前項第1号ないし第3号の事由を主張する場合、出願時に当該事実及びその事実が生じた年月日を明記し、かつ専利主務官庁が指定した期間内に証明書類を提出しなければならない。

 

今回のTPP専利法改正案のうち、第22条改正のポイントは以下のとおりである。

 

1. 現行条文第3項のグレースピリオド期間を現行の6月から12月に延長すること。

2. 現行条文第3項第1号ないし第3号を削除し、第1号を新設し、また第4号に対して文言の修正を加え、それを改正条文第3項第2号として順次繰り上げる。改正後の第3項及び第4項の規定は以下のとおりである。

 

「次の各号のいずれかに掲げる事由があり、また出願人はその事実の発生後12ヶ月以内に出願した場合、当該事実は第1項各号又は前項にいう特許を受けることができない事由に該当しないものとする。

 

一、出願人の本意によって公開されたもの。       

二、出願人の本意に反して公開されたもの。

 

特許出願によって国内又は外国で法により公報に公開された場合、前項第1号の規定は適用されない。」

 

2.         意匠

 

意匠について、改正条文第122条では、そのグレースピリオドの期間は依然として現行条文に規定されている6ヶ月(未改正)である、と明確に定められている。しかしながら、グレースピリオドに関する主張事由等の改正は、第22条(特許及び実用新案に適用)の改正内容と同じである。

 

二.     先使用権の規定も併せて改正

 

特許のグレースピリオドの調整(前述一、の段落で述べたとおり)に合わせ、グレースピリオド期間内に特許出願人はやはり特許出願を提出することができる。よって、特許出願人からその発明を知り、かつ特許出願人がその特許権を留保する旨の表明をした場合、先使用権による保護を主張することはできない(改正条文第59条、第142条)。

 

現行の専利法第59条第1項第3号の規定により、特許権の効力は以下の先使用権の態様には及ばない。

「出願前、既に国内で実施されていたもの、又はその必要な準備を既に完了していたもの。ただし、特許出願人からその発明を知った後 6 ヶ月未満で、かつ特許出願人がその特許権を留保する旨の表明をした場合は、この限りでない。」

 

専利出願人が法によりグレースピリオドの利益を保障するため、第22条第3項の改正(前述一、の段落で述べたとおり)に合わせて、TPP専利改正案では、専利法第59条(特許及び実用新案に適用)に掲げる先使用権を主張できる規定の但書きの期間を12月に修正することとする(現行は6月)。

 

改正条文第142条の規定により、意匠に対し、その先使用権を主張できる規定の但書きの期間は依然として現行法に規定する6月とする

 

三.     専利主務官庁の審査遅延による特許権存続期間の延長登録出願制度の導入

 

特許権者の権益を保障するため、専利主務官庁の不合理な審査遅延期間に対して補償を行う。TPP専利法改正案では、審査遅延の起算点、除外できる期間、存続期間の延長登録出願の法定期間、出願人が延長を求める期間と専利主務官庁が計算した期間が一致していない時の処理、無効審判請求の理由及び無効審判手続等の規定が新設された(改正条文第57条の1ないし第57条の4)。

 

TPP18条に従い、特許権の付与において不合理な遅延がある場合には、当該遅延を補償するよう、締約国は特許権者の要請により特許権の存続期間を調整すべきである。前述の特許権の存続期間等の関連事項を規範するため、TPP専利法改正案では、改正条文57条の1ないし第57条の4の規定を導入した。

 

1. 特許出願が出願日から5年、又はその審査請求日から3年(両者のうちのいずれか遅い方)を経過した後に、初めて専利主務官庁が公告した場合、審査遅延により特許権の存続期間が短縮されたことを補償するため、特許権者は延長登録の出願により特許権存続期間を延長することができる。前述の特許権存続期間の延長は専利主務官庁の責めに帰すことのできない期間及び出願人の責めに帰すことのできる期間を除外しなければならず、且つ延長を許可する期間は5年を上限とする。

 

2. 特許権の存続期間の延長登録出願は特許出願の公告後3ヶ月以内にすべきである。

 

3. 特許権の存続期間の延長登録出願について、専利主務官庁が計算した審査遅延の期間が延長登録出願された期間を上回った場合、延長登録出願された特許権の存続期間を基準とする。一方、専利主務官庁が計算した審査遅延の期間が延長登録出願された期間を下回った場合、専利主務官庁は期限を定めて、応答するよう出願人に通知しなければならない。期限が過ぎても応答しなかった場合、専利主務官庁が計算した期間を基準とする。

 

4. 何人も、延長を許可された特許権の存続期間について、次の各号のいずれかに該当すると認める場合、証拠を添付して、専利主務官庁に無効審判を請求することができる。

1 延長が許可された期間が、法により延長できる期間を超えているとき。

2 特許権の存続期間の延長登録出願をした者が特許権者ではないとき。

特許権の存続期間の延長登録を無効とすべき旨の審決が確定したときは、その延長が許可された期間は、初めから存在しなかったものとみなす。ただし、延長が許可された期間が延長できる期間を超えていることについて無効成立の審決が確定したときは、当該超過期間につき、その延長がされなかったものとみなす。

 

四.     パテントリンケージ(Patent Linkage)制度に合わせた提訴根拠の明確化

 

ジェネリック医薬品(後発医薬品)の検査登記を申請して更に新薬(先発医薬品)に係る特許権を侵害していない又は新薬に係る特許権が無効であることを主張したことに対して、TPP専利改正案では、新薬に係る特許権者はジェネリック医薬品の検査登記申請の審査手続において権利侵害訴訟を提起することができ、特許権者が訴訟を提起しなかった場合、ジェネリック医薬品の検査登記の申請者も確認訴訟を提起することができる(改正条文第60条の1)と明確に規定した。改正条文第60条の1の内容は以下のとおりである。

 

60条の1

 

薬事法第○○条第号により申し立てた試験検査登記の申請がある場合、特許権者は通知を受け取った後、第96条第1項の規定により侵害の除去又は防止を請求することができる。

 

前項の特許権者は薬事法第○○条第項第号にり指定した期間内に当該試験検査登記の申請者に対して訴訟を提起しなかった場合、当該申請者はその試験検査登記を申請した医薬品が当該特許権を侵害するか否かについて確認訴訟を提起することができる。

 

五.     過渡条項を新設

 

今回の改正は、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への加入に合わせて行われたものである。TPP専利法改正案では、関連する変革は新法施行後の出願に適用されることが明文化されている。ただし、改正条文第60条の1の専利権の権利主張に関する規定は、新法施行後に直ちに適用される(改正条文第157条の1)

 

TPP協定に伴う改正法案は今後の財経政策の方向性に関わり、2016520日に発足した新政府が審議を行うため、今回公表する改正案は決定案ではなく、今後さらに変更される可能性がある。本所は関連する改正案の進捗状況を引き続き注意しながら、本刊行物の読者の方々に参考になる情報を適宜お届けする。



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