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知的財産裁判所専利権侵害民事訴訟審理新制度

Winona Chen


知的財産裁判が20087月に設立されて以来、それが行ってきた数年間の専利(※特許、実用新案、意匠を含む)権侵害民事訴訟審理プロセスについて、各界から数多くの議論や提言があったが、知的財産裁判所の審理プロセスが大幅に調整されることはなかった。2014331日、知的財産裁判所の李得灶院長(当時の庭長)(※「庭長」とは法廷の長であり、法廷ごとに必ず1人配置され、事件ごとに変わることはない)は、「智財審理再精進以専利為中心」(「知財審理を精進、専利中心に」)と題する講演で、実施される予定の新たな専利民事訴訟審理プロセスを明示し、また、20141227日に知的財産裁判所の蔡恵如庭長は、産業界、政府、学会関係者を集めて行ったセミナーのなかで、知的財産裁判所の専利権侵害民事訴訟審理の新たな制度(以下、「審理新制」)の計画について説明を行っている。新しい審理プロセスと現行プロセスとの差異は非常に大きいため、本稿では主な変革について次のように整理し、説明させていただく。
 
1.     技術審査官の役割と意見作成の時期
技術審査官の技術報告の非公開、及び、第1回開廷前に技術審査官が先に技術報告を作成し、その結果、当事者がいかなる口頭での主張も行っていない状況で裁判官が専利有効性に関する心証を公開するなどの弊害に関する各界からの声に応え、審理新制では、訴えが提起されてから第1回開廷までの4ヶ月間、技術審査官は有効性及び権利侵害紛争についてのみ対比表を作成して、請求項のエレメント(構成要素)のリスト、当事者の主張を羅列し、いかなる対比の結論も作成しないよう調整される予定である。
技術審査官の報告については、依然として非公開の立場が採用されるものの、裁判所は、201466日に改正、追加規定された「知的財産案件審理規則」(「智慧財産案件審理細則」)第16条第2項但書きの規定により、「技術審査官より提供され技術的な専門知識を知り得た」とき、当事者に弁論の機会を与えなければならず、そのうえで初めて当該専門知識を裁判の基礎として採用することができる。
 
2.     技術審査官合議制の推進
これまでの技術審査官1名による技術意見では偏りや誤りを生じやすいという弊害に関する各界からの声に応えて、審理新制では、案件事情が重大又は複雑であるもの、複数の技術分野に跨った比較判断を要するもの、「更審」(※最高裁で原審判決が破棄された場合、高等裁判所に差し戻され、再審理されることになり、これを「更審」という)差し戻し案件、無効審判の審決と異なるもの又は行政訴訟の判決と異なるものなど、5種類の事情について、3名の技術審査官による合議制を採用し、技術関連事項を合議することができる。
 
3.     専利有効性の判断は当事者進行主義を遵守し、当事者の挙証責任及び進歩性の判断基準を明確にする
これまでの審理実務で最も非難されているのは、被告が抗弁していない専利無効の主張を判断基礎とする判決が多く、その結果、専利無効率を高止まりさせている点である。そこで審理新制では、裁判所が専利有効性を審査する際には当事者の主張及び挙証についてのみ判断しなければならず、当事者が声明していない証拠を自ら調査しない、即ち当事者進行主義を遵守することを明確にする。
専利無効を主張する当事者の挙証責任基準について、これまでは一致した基準がなかった。そこで審理新制では、専利無効を主張する場合、挙証責任を負わなければならず、また挙証は明晰で且つ説得力を有していなければならない旨明確にした。仮に挙証が不十分であれば、裁判所は専利有効の判定を下さなければならない。
進歩性の判断について、これまで裁判所は多くの場合、一律、「属する技術分野における通常の知識を有する者が出願前の従来技術に基づいて容易に完成することができる」ことを理由に、専利無効の判断を下してきた。審理新制では、米国のKSR事件を参考に、進歩性を比較する際、技芸者が先行技術を組み合わせる教示(teaching)、示唆(suggestion)又は動機(motivation)を有するか否かを考慮しなければならない旨明示されている。また、係争専利について、予期することのできない効果の有無、長年存在してきた問題の解決、技術的偏見の克服及び商業的な成功などの補助的な判断基準を確実に斟酌し、進歩性を判断することが示されている。
 
4.     鑑定人及び専門家証人の活用
知的財産裁判所が技術審査官の設置に基づいて、当事者の専門家証人召喚申請に対して、多くの場合、保守的な態度をとることについての各界からの声に応え、審理新制では、裁判所の諮問専門家100人のリストをネットで公告し、並びに、当事者の専門家証人召喚の申請を尊重して、裁判官が専門家証人の意見を参考とすることができる以外に、諮問専門家の意見も参考とすることができるようにし、技術審査官の意見に頼りすぎることによって判断に偏りが生じることのないよう強く期待されている。
 
5.     裁判所は状況に応じて中間判決で心証を公開することができる
これまでの実務において当事者は多くの場合、裁判所の争点審理の順序及び進展を以って、専利権侵害及び専利有効性の争点に関する裁判所の見解を推測していた(たとえば、裁判所が損害賠償に係る争点を審理していなければ、裁判所は専利権侵害及び/又は専利有効性について専利権者に不利な見解を採用すると推測する)。審理新制では、民事訴訟法第383条の中間判決に関する規定をもっと運用し、専利権侵害又は専利有効性の争点が既に判決を下すことができる程度に達している場合、裁判所は中間判決を下して心証を公開することができる。かかる措置のねらいは当事者間の和解の可能性の促進にある。
 
まとめ
知的財産裁判所の審理新制は、形式上はもちろん専利権者の保護、技術審査官意見の独断性軽減及び当事者進行主義尊重という方向への改革であるが、実務上、審理新制の主旨を実行に移すことができるか否かは、依然として今後の展開を見守る必要がある。2015年は知的財産裁判所が成立してから7年目に突入し、当該裁判所が形成及び蓄積してきた実務見解が、我が国がアジア太平洋地区の知的財産保護指標国という重要な地位を築くのに役立つことを切望する。


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